表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/281

【069 ドクサ地方攻略(五)】


【069 ドクサ地方攻略(五)】



〔本編〕

 この時代より後世の言葉――『鎧袖一触がいしゅういっしょく』とは、まさにこの時のことを指す言葉であろう。

 第三トゥリトスの砦に攻め寄せた八千のジュリス王国軍は、攻め寄せてからわずか二十分で北側の門を破り、その十分後には砦を完全に落としていた。

 その中において、リザ隊長は最後まで抵抗し、アッティモ将軍によって討ち取られた。

 しかし、大口を叩いていたグラングウ隊長は、ジュリスの騎兵が見えた途端、武器を捨て、その場にひざまずき、こうべを垂れ自らに戦意のないことを表明した。

 砦の兵ほとんどが、グラングウ隊長に倣って、武器を捨てひざまずいた。

 千の兵のうち、実際に戦った者は、リザ隊長を始めとして百人程度で、残りの九百はほとんど一戦することなく降伏した。

 砦を占拠したジュリス軍は、降伏した九百を千の兵で囲ませ、ドクサ城へ送った。

「マデギリーク将軍の言うよう、私たちは八千の兵で第三トゥリトスの砦を落としましたが、ここからが大変です! 果たして、聖王国の兵に残りの砦を落とすことが出来るのでしょうか? それが出来なければ、この第三トゥリトスの砦は死地となり、我らはミケルクスド國兵に十重二十重とえはたえに包囲され全滅します!」

「アッティモ! お前の心配も分からないまでもないが、マデギリーク将軍の兵は聖王国の兵であって、聖王国の兵ではない! 今年の四月には先に侵略されたとはいえ、ミケルクスド國兵を侵略したエーレ地方から追い落としている。それ故、充分に期待できるとわしは考えている! わしらはわしらの仕事をするまで、この砦を取り戻そうとわらわらやってくるミケルクスド國兵を片端かたはしから撃退していこうぞ!」

 フセグダー将軍は、そう言うと大きく口を開けて笑った。


 マデギリーク将軍の作戦は、ドクサ城を占拠した後、ドクサ地方海洋沿いの五つの砦のうち、最も重要な拠点となる第三トゥリトスの砦を、最初に占拠することであった。

 第三トゥリトスの砦は重要拠点である上、攻める側に有利な砦であるが、逆に占拠した後、守るのが非常に難しい砦であった。

 そのため、ジュリス王国の今までの戦略方針は、最も攻略の困難な第五ペンプトスの砦を、ジュリスの武神フセグダー将軍が受け持ち、次に攻略が難しい第四テタントスの砦か、第一プロトスの砦を、猛将アッティモ将軍が受け持っていた。

 それをマデギリーク将軍は――攻める兵が二倍半に増えたからでもあるが――、兵数が優位な戦略を構想し、ジュリス王国筆頭並びに次点の二将軍と精鋭八千で、第三トゥリトスの砦を攻めさせた。

 ジュリス王国筆頭並びに次点の二将軍と八千の兵で攻め立てられては、一度も陥落していないと称されていた第三トゥリトスの砦も、三十分という短時間で落ちた。

 そして、残りの四つの砦攻略は、全て聖王国の軍で受け持つこととなった。

 もっとも攻略の難しい第五ペンプトスの砦が、マデギリーク将軍が直接率いる五千の軍勢。

 続いて攻略の難しい第四テタントスの砦を、マデギリーク将軍配下の第一副官ガストロンジュ率いる二千の軍勢。

 そして第一プロトスの砦が、マデギリーク将軍配下の第二副官アバラン率いる二千の軍勢。

 最後に第二ゼフテロスの砦を攻めるのが、ソルトルムンク聖王国側の大将であるブーリフォン聖王子と中央軍精鋭五千である。

 そして、クーロとツヴァンソ中隊各々五十は、本来の配属先であるコロンフル副官の元を離れ、独立中隊という位置づけで、第三トゥリトスの砦の防衛の任をマデギリーク将軍から命じられたのであった。

 つまり、クーロとツヴァンソは、ジュリス王国の兵と共同して戦うこととなったのである。


「ジュリス王国のホースは、噂には聞いていたが、あれほど素晴らしい動物モノとは……。是非、私の騎馬に欲しい!」

 ツヴァンソが、クーロにそう呟く。

 ドクサ城から第三トゥリトスの砦に向かう道すがらの二人の会話で、ツヴァンソは一時間に一回は、このことを呟いていた。

「また、その話か! 気持ちは分かるが、多分、かなり値がはると思うぞ。おそらく、聖王国で生産されている一番高いホースのおそらくは十倍ぐらいの値は……。それにジュリス王国がホースを、聖王国の兵士に売ってくれるかどうかも……」

「でも、クーロ兄さん! ジュリス王国は今では同盟国ですよ。さすがに売ってくれるのでは……」

「長年の確執があるから、何とも言えないな! ……しかし、お前の気持ちはよく分かる! 僕もジュリスのホースには目を奪われた。父上の聖王国で最上級のホースに見慣れている僕たちが、目を奪われるぐらいだから、一般の兵士からすれば高嶺の花のような存在だな! 僕の中隊は、徒歩の兵がいるので戦車で移動しているせいもあるが、同じホースなのに、ドクサ城から第三トゥリトスの砦に向かうのに、僕らの半分の時間で砦に到着している! ……これは、ジュリスの魔兵から僕の中隊の魔兵へ伝心の術によって伝わった内容ではあるけど……」

「嘘!」

 ツヴァンソがびっくりして聞き返す。

「私たちは、どんなに急いでも後三時間はかかります! 五時間前に進軍を開始しているから、本当に半分近い時間で着いたのですね!」

「いや、半分だ!」

 クーロが即座に訂正する。

「砦に着き、すぐに砦を攻めている。三十分で砦を落としたことを、三十分前の出来事として伝わってきた。つまり、第三トゥリトスの砦へは四時間で到達している計算になる。つまり僕らが八時間かかる行程を、半分の四時間で到達している。そして驚くべきは、そんな強行軍で進軍しながら、すぐに砦攻めが実行できている! ジュリス兵の強靭きょうじんさもさることながら、ホースもそれだけ精強ということだ! 脚の速さと強さのみならず、持久力も聖王国のホースとは比べ物にならない。聖王国の騎乗できる小型竜ドラゴネットに匹敵する力量や体力を有しているホースといえるな!」

「私、ますます欲しくなりました! お父様に頼んで、ジュリス王国から購入していただきます!」

「……しかし、ジュリスの兵たちは我らをさげすんでおります。そのような者たちが、素直にホースを売ってくれるでしょうか?」

 ツヴァンソの家臣の一人で、小隊長に任じられているホッホが悔しそうに、そうツヴァンソに話しかけた。

「本当ですよ! ジュリスの奴ら、俺たちを足手まといのような目で見、さらに鼻で笑っていました!」

 これは同じくツヴァンソの家臣で、小隊長の一人、エーベネの言である。

 ホッホとエーベネは、ツヴァンソが小隊長の時に、その実力に目をつけたツヴァンソが、自ら小隊に誘った兄弟であり、非常に剣術に優れた二人であった。




〔参考 用語集〕

(人名)

 アッティモ(ジュリス王国の将軍)

 アバラン(マデギリーク将軍の第二副官)

 ガストロンジュ(マデギリーク将軍の第一副官)

 クーロ(マデギリークの養子。中隊長)

 グラングウ(ドクサ地方トゥリトスの砦を守る隊長の一人)

 コロンフル(マデギリーク将軍の第四副官)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中隊長)

 ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子)

 フセグダー(ジュリス王国の将軍。『生ける武神』の異名を持つ)

 ホッホ・エーベネ(ツヴァンソ隊の一員。兄弟)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)

 リザ(ドクサ地方トゥリトスの砦を守る隊長の一人)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)


(地名)

 エーレ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 ゼフテロス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第二』という意味)

 テタントス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第四』という意味)

 トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)

 ドクサ城(ドクサ地方の主城)

 ドクサ地方(ミケルクスド國領)

 プロトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第一』という意味)

 ペンプトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第五』という意味)


(竜名)

 ドラゴネット(十六竜の一種。人が神から乗用を許された竜。『小型竜』とも言う)


(その他)

 小隊長(小隊は十人規模の隊で、それを率いる隊長)

 中隊(小隊五部隊で編成される隊。五十人規模の隊)

 副官(将軍位の次席)

 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ