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【068 ドクサ地方攻略(四) ~二色の炎(ほむら)~】


【068 ドクサ地方攻略(四) ~二色のほむら~】



〔本編〕

 ビャヌ地方に集結したジュリス王国、ソルトルムンク聖王国連合軍が、ミケルクスド國領ドクサ地方に進軍を開始して三日後の龍王暦二〇一年一〇月二〇日、ドクサ地方の主城ドクサ城は落城した。

 ビャヌ地方の最東端ブイトゥィイ城で、最初の軍議が開かれて十日後の出来事である。

 ドクサ城には、連合軍の総大将ジュリス王国のワーハグッホ王子が入城し、ジュリス王国兵二千と、ソルトルムンク聖王国兵一千の計三千が、ここに駐屯することになった。

 聖王国兵一千の指揮官は、マデギリーク将軍の第四副官コロンフル。攻守に定評のある指揮官である。

 ワーハグッホ王子はドクサ城に入城すると共に、そこを従来通りの行政府として運用させた。

 ドクサ城内の蔵を開き、城内の民に食料を施し、元々ドクサ城に住んでいた民の身上と生活の保障をする。

 これによりドクサ城占拠後に大きな混乱はなく、城内にいた民は貴賤きせんを問わず、皆ワーハグッホ王子の入城を喜んで受け入れた。

 むろん、危害を加えられない状況下では、占領軍に帰属するのは、戦国の常であり、また奪還されれば、奪還された側に戻るだけの話である。

 それでも、ドクサ地方がジュリス王国領となる第一歩としては、上々の滑り出しであった。

 続いて、次段階の海岸線の五つの砦の攻略が始まる。

 マデギリーク将軍が立案したその作戦は、従来のものと明らかに異なっていた。



「どうやら、ジュリス王国は本当に、ソルトルムンク聖王国と同盟を結んだようであります! 今回のドクサ地方攻略に聖王国は一万五千もの援軍を派遣したとのこと! すぐに中央に援軍を請うべきかと!」

「そう慌てることもないのでは……。リザ殿!」

「……何、呑気なことを言っているのか?! グラングウ殿! ジュリス王国、ソルトルムンク聖王国の連合軍は、総勢二万五千。今までのジュリス王国単独軍の二倍以上の数だ! 単純に見繕って、それぞれの砦を攻める二千が五千になる。我々、千の軍勢では……」

「五倍程度の敵を撃退できないとおっしゃるのか? リザ殿は……。ミケルクスド國の隊長でありながら、何と弱気なことか!」

 そう呟くと、グラングウという名のミケルクスド國の隊長は、ことさら大袈裟に軽蔑した笑みを顔いっぱいに浮かべる。

「馬鹿にするな!」

 リザという名の隊長が、顔を真っ赤にしてグラングウを怒鳴りつける。

「五倍の敵を相手に後れをとるものか! ただ、万全を期する必要があるということを言っている! ここは、ドクサの五つの砦のうち最も重要な拠点! ここが陥落すれば、残りの四つの砦が孤立状態となる! そのくさび的拠点であることを、グラングウ殿は理解されておられないのかと、それを憂いているのだ!」

「リザ殿! 貴殿こそ、私を馬鹿にしているのか! そのようなこと、百も承知だ! この第三トゥリトスの砦は、確かに残り四つの砦の楔としての重要な位置づけであるが、それは逆に残り四つの砦から援軍が直接辿り着ける拠点でもある! それに五千といっても、ジュリス王国、ソルトルムンク聖王国の二國の連合軍。当然、指揮系統も統一されておらず、その兵数の優位さを生かしきれず、逆に足を引っ張りあうことになるのは必定ひつじょう。さらに、ジュリス王国の兵はともかく、ソルトルムンク聖王国の兵は大陸一の弱小兵! そのような烏合うごうの混成軍がいくら攻めてこようとも、この砦が落ちることはない! 現に今まで攻撃してきたジュリスの軍を前に第三トゥリトスは一度も堕ちていないではないか! リザ殿は、五千という数に単純に恐れおののいているだけではないのかな!」


「一大事です!! ジュリス王国の兵がここに攻め寄せてきました!!」

 第三トゥリトスの砦の兵が、グラングウ、リザ両隊長に、敵の軍勢が砦まで迫ってきた旨を伝える。

「大袈裟だな! 既にドクサ地方に侵攻をしているのだから、当然ではないか!」

 グラングウ隊長が、伝令兵の慌てふためきようを笑う。

「……ん? ジュリス王国の兵?! 今回は聖王国との連合軍と聞いているが……」

 リザ隊長が疑問に思い、伝達にきた兵に問いかける。

「はい! 敵軍の旗は、真紅の三角旗のみ! 白地に金の十字クロスと金のムーンが描かれている聖王国の国旗は見当たりません! 真紅の三角旗はジュリス王国の国旗! 従って、敵はジュリス王国単独の軍と考えられます!」

「だから言ったであろう!」

 グラングウ隊長が勝ち誇ったように、リザ隊長を笑う。

「いきなり他国同士の連合なんぞ、なんの益もない! お互いに足を引っ張り合うのが関の山だ! 仮に共に進軍したとしても、ジュリス王国はホースの産地で、騎兵はヴェルト大陸一の速さを誇る! 聖王国の騎兵が、ジュリス王国の騎兵と共に進軍すれば、足の遅い聖王国の騎兵に足並みを揃えざるを得ず、ジュリス騎兵の突出した機動力が全く生かせない! おそらく聖王国の騎兵は明日以降に、ここに到着するであろう。あるいは、軍議の席で両國が仲違いを起こし、聖王国の兵は実質ドクサ地方攻略には参戦しないことになったのやもしれぬ。リザ隊長! 案ずるのはよいが、あまりにも慎重すぎると臆病者のそしりを受けることにもなるぞ!」

「……それでありますが、グラングウ様!」

「何だ! まだいたのか?」

 伝達した兵がおそるおそるグラングウとリザの話に割って入る。

「敵軍の数でありますが……」

「伝達事項がまだ全て終わっていなかったのか? 聖王国の兵がまだ到着していないのであれば、二千だろ! たまにはこちらから攻めかけて、敵に一泡吹かせてやろうか! 攻めるのは俺の兵五百でこと足り……」

「敵の数は八千であります!!」

 伝令兵は、ついにグラングウの話している最中であろうが、構わず報告した。それほどの切羽詰まった内容ではあった。

「……」

 グラングウも話を中断された怒りより、その内容に一瞬言葉を失う。

「八千!! 何かの間違いではないのか?!」

 伝令兵にこう詰め寄ったのは、リザ隊長の方であった。

「いいえ! 間違いではありません! それともう一つ重要な事柄が……」

 伝令兵の顔色はほとんど真っ青であった。

「何だ! 早く言え!! 兵八千以上に重要な事柄とは何だ!!」

 一瞬黙ったグラングウも、ハッと我に返り、伝令兵に大声で話の先を促す。

「は・はい! 真紅の三角旗であるジュリスの国旗以外の旗も見受けられます! 漆黒のホースの身体に炎を纏っている文様!! そして、その炎の色が二種類! 一つが黄! そしてもう一つが緑であります!」


 ジュリスの国旗は、真紅一色の三角形の旗である。

 いくさの際、一般的に用いられるのが国旗であるが、その真紅地に漆黒のホースが彩られた旗もある。

 身体にほむらを纏っているホースが国旗に施された旗を用いることが許されるのは、ジュリスの五人の将軍が直接、兵を率いる時のみ。

 そのうち黄の炎が、ジュリス王国一の猛将アッティモ将軍の旗。そして緑の炎が、ジュリスの伝説の武神フセグダー将軍の旗。

 ジュリスの五将軍のうち、筆頭と次席の二将軍の旗が第三トゥリトスの砦に迫っていた。




〔参考一 用語集〕

(人名)

 アッティモ(ジュリス王国の将軍)

 グラングウ(ドクサ地方トゥリトスの砦を守る隊長の一人)

 コロンフル(マデギリーク将軍の第四副官)

 フセグダー(ジュリス王国の将軍。『生ける武神』の異名を持つ)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)

 リザ(ドクサ地方トゥリトスの砦を守る隊長の一人)

 ワーハグッホ王子(ジュリス王国の王子)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)


(地名)

 トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)

 ドクサ城(ドクサ地方の主城)

 ドクサ地方(ミケルクスド國領)

 ビャヌ地方(ジュリス王国の一地方)

 ブイトゥィイ城(ビャヌ地方の城)


(その他)

 副官(将軍位の次席)

 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)



〔参考二 大陸全図〕

挿絵(By みてみん)

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