【066 ドクサ地方攻略(二) ~両國顔合わせ~】
【066 ドクサ地方攻略(二) ~両國顔合わせ~】
〔本編〕
「先ずは私の方から、ジュリス王国の者を紹介する!」
最初に口を開いた男が、続けて口を開く。
「私が、ジュリス王国並びにソルトルムンク聖王国連合軍の総大将を務めるワーハグッホである。ジュリス王国現王ボーデングッホの長男にあたる。そして、今回この戦いに参加するジュリス王国の将軍は、フセグダー、アッティモの二名である!」
ワーハグッホ王子のこの紹介に、長机の長い縁の右側に座っていた二人の男が立ち上がり、左側に座っている面々に向かい一礼した。
「それでは続いて、ブーリフォン聖王子様、聖王国の皆様のご紹介をよろしくお願いします」
「分かりました! ただ今、ワーハグッホ王子様よりご紹介にあずかりましたブーリフォンであります。私から聖王国の者を順にご紹介いたします」
長机の短い縁の左側に座っている人物が口を開く。
長机の右側にジュリス王国の者、そして左側にソルトルムンク聖王国の者が座っているのであった。
「私に近い方から、マデギリーク将軍! そしてマデギリーク将軍の副官であるガストロンジュ、アバラン、コロンフルの三人! そして末席の二人がクーロ中隊長とツヴァンソ中隊長! 二人の中隊長は、マデギリーク将軍の子に当たります」
ブーリフォン聖王子のこの言葉に、マデギリーク将軍を始めとする六人が一斉に立ち上がり、ジュリス王国の者に一礼をする。
ジュリス王国が三人、ソルトルムンク聖王国が七人といういささかアンバランスな人数配置ではあったが……。
「さすが、貴国は大国でいらっしゃる! 兵数だけは、我が國の及ぶところではございませんな!」
聖王国側が一礼した時、ジュリス王国のアッティモ将軍がそう呟いた。
「それに将軍の子供というだけで、中隊長レベルの者までこの軍議に同席できるとは……。王子! 最初に言っていただければ、こちらも二十人は揃えることが出来ましたものの……」
アッティモ将軍のこの言葉に、マデギリーク将軍の副官たちが一斉に気色ばんだ。
「アッティモ! 口を慎め! 貴様は我が王が決めた同盟に異でも唱えるつもりか?!」
ジュリス王国のもう一人の将軍、フセグダーがアッティモをたしなめる。
フセグダー将軍は六十代、アッティモ将軍は三十代で、同じ将軍でも親子ほど年齢が違い、将軍としての貫禄からいえばその年齢以上であった。
「決してそんなことはございません! しかしながら、フセグダー将軍……!」
若いアッティモ将軍は、顔を真っ赤にしてフセグダー将軍に訴えるかのように言い募る。
「いくら、我らだけでドクサ地方を攻略できないからといって、他國の力を借りるなど、我がジュリス王国の恥というもの! ネヴィス姫様を人質にとられた上、よりにもよって弱兵揃いの聖王国の力に頼るなど……」
「貴様! 我らを弱兵と侮るか!!」
アッティモ将軍の言葉に、マデギリーク将軍の第一副官ガストロンジュが立ち上がり、吠えた。
巨漢の猛将であるガストロンジュの声は、まるで数十頭の狼が一斉に吠えたかのようであった。
「事実! 弱兵の集まりであろう!!」
かたや中肉中背ではあるが、引き締まった身体のアッティモ将軍も、負けずに吠える。
「「いい加減にしろ!!」」
しかし、その二人の声をさらに上回る二つの声が、図らずも同音で発せられた。
ジュリス王国のフセグダー将軍と、聖王国のマデギリーク将軍のものであった。
ベテランの二将軍の一喝に、さしもの猛将たちも雷にでも撃たれたかのように身体を強張らせ、縮こまる。
貫禄の差が、如実に表れた瞬間であった。
「いや! 聖王国の皆々様、申し訳ない! ドクサ地方をいつまでも奪取しきれない苛立ちを、貴殿方にぶつけてしまいまして……」
「いえいえ、こちらこそ熱くなりやすい部下たちで申し訳ない! 私はジュリスの『生ける軍神』フセグダー将軍と轡を並べることが出来ることを、今から楽しみにしております」
「何のわしの方こそ聖王国筆頭将軍であられるマデギリーク殿とご一緒できて、今から気持ちの高まりが抑えられません!」
両國の二人の重鎮の言葉で、一触即発の険悪なる空気は一掃されたようであった。
さらに、それぞれの王子もお互いに顔を見合わせ笑顔になったことにより、気持ちの上はともかく、相手方を刺激するような言葉を吐く者は、もういなかった。
「今回の共同戦線の目的は、我が王の悲願であるドクサ地方を二十年ぶりに奪回し、海洋を再び確保することにある。同盟国となった聖王国の聖王陛下は、この共同作戦に一万五千の精鋭兵を援軍として派遣して下さった。これで憎きミケルクスド國に対しても遅れをとることはない! 今回の戦いの総大将は私ワーハグッホであるが、ジュリス王国の実質的な司令官は、フセグダー将軍である。それでは将軍の方から、ドクサ地方奪回に当たっての説明をしてくれ!」
「王子! 承知した!」
フセグダー将軍がドクサ地方についての説明を始める。
「我らが奪回しようとしているドクサ地方は、行政府であるドクサ城と、海岸線一帯の守りとして五つの砦が築かれている地であります。ドクサ地方自体は草原の広がる平野であるため、騎兵中心の我が國としては、それほど攻めるのに苦労をする地ではありません。しかしながら、城とは名ばかりの平野の真ん中にあるドクサ城はともかくとして、海岸線の五つの砦は、それぞれが攻め込まれた際にはお互いに連携が図れるよう作られているため、一つや二つの単独の砦攻略はそれほど難しくはないが、五つ全てを攻略するのは非常に困難で、我が軍も幾度も苦杯を味わっております。しかし、ドクサ地方はこの五つの砦を攻略して、初めて全域を攻略したことになるので、これが必須条件であります」
「なるほど! それで今まではどのような戦略で攻めておられたのですか?」
聖王国のマデギリーク将軍がフセグダー将軍に尋ねた。
「一万の軍を二千ずつの五つに分け、同時に五つの砦を攻めた。ただ、それではわしやアッティモの率いた軍は善戦できるのだが、残りの三軍のうち必ず一軍ないしは二軍が敗れ、結局、五軍とも撤退を余儀なくされる。砦の兵と海軍による海からの攻撃、そして……」
「ミケルクスド國の精鋭である飛兵による空からの攻撃!」
「そうなのです、マデギリーク将軍! 砦の兵と海軍には何とか対処できたとしても、飛兵の空からの攻撃だけは、我らの騎兵だけでは、どうしても太刀打ちできない!」
フセグダー将軍はそう話しながら、眉間に深いしわを寄せた。
〔参考 用語集〕
(人名)
アッティモ(ジュリス王国の将軍)
アバラン(マデギリーク将軍の第二副官)
ガストロンジュ(マデギリーク将軍の第一副官)
クーロ(マデギリークの養子。中隊長)
コロンフル(マデギリーク将軍の第四副官)
ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中隊長)
ネヴィス姫(ジュリス王国の王女)
ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子)
フセグダー(ジュリス王国の将軍。『生ける武神』の異名を持つ)
ボーデングッホ王(ジュリス王国第五代王)
マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)
ワーハグッホ王子(ジュリス王国の王子)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)
(地名)
ドクサ城(ドクサ地方の主城)
ドクサ地方(ミケルクスド國領)
(その他)
ヴォルフ(この時代の獣の一種。現在の狼に近い種)
中隊長(中隊は五十人規模の隊で、それを率いる隊長)
副官(将軍位の次席)




