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【064 ジュリス王国との同盟(後)】


【064 ジュリス王国との同盟(後)】



〔本編〕

「その通りです! ツヴァンソ様! よくご存じで……」

「そうなのか、ツヴァンソ! 僕は知らなかった!」

「兄上が知らないのも無理はありません。ヴェルト史には正式に記載されていない事柄で、あくまでも歴史の裏話的な話として、親が子供たちを寝させるときに語る寝物語のような類のものです。私の場合、父の養子になる前に聞かされて知っておりましただけです……」

「……」

 クーロにとって、養子になる前のツヴァンソの話を聞くのはこれが初めてであった。

 クーロより一年早くマデギリークの養子になったツヴァンソの過去について、クーロが知る機会はなく、クーロ自身の奴隷時代の過去と重ね合わせ、ツヴァンソに養子になる前の過去を聞くことについて、今までためらいがあったからであった。

「そうですな。しかし、その話は聖王国の史書には記されておりませんが、ジュリス王国の史書には、はっきりと記されておりますので、史実で間違いないのでしょう。今回の同盟が成立したことが、それが史実とあることの裏付けかと……」

「……」

 クーロは、その史実を知らない以上、その因果関係は理解できなかった。

「ジュリス王国史を紐解きますと、ミケルクスド國がフルーメス王国に対し、聖王国の海岸一帯を奪った暁には、それを両国で割譲しようと誘ったと同様に、ミケルクスド國はジュリス王国に対しても、聖王国の海岸一帯を奪うに際し、聖王国の内陸部への同時侵攻を要請したようであります。これにより、聖王国は海岸防衛にかける兵力の一部を、ジュリス王国からの侵攻防衛に割かざるを得ず、結局、ジュリス王国のこの陽動が功を奏し、聖王国の海岸一帯は、ミケルクスド國とフルーメス王国によって奪われてしまいました。

 ジュリス王国からしても、聖王国の兵力が分散していたため、聖王国の領土を奪うことに成功しましたが、ミケルクスド國は、聖王国から海岸一帯を奪った後、あろうことかジュリス王国兵と聖王国兵が、聖王国の内陸部で戦っているどさくさに乗じ、突如ジュリス王国に侵攻し、ジュリス王国領の海岸線までも掠め取ってしまったのであります。

 このミケルクスド國の卑劣な行為を知ったジュリス王国の王は激怒し、慌てて聖王国領の侵攻を中止し、ミケルクスド國へ掠め取った海岸線の返還を求めましたが、ミケルクスド國はのらりくらりと外交でそれをかわし続け、ついにジュリス王国はその返還要求を半ば諦めることになってしまいました。そういう事情で、ジュリス王国も元々は海に面していた國であったのに、我が國と同様の海を持たない國となってしまったのであります。一応、今もミケルクスド國に外交を通じ、海岸線の返還を要求しておりますが、ほぼ形だけの外交に成り下がっております」

「「……」」

 クーロもツヴァンソも黙って聞いているので、コロンフルはさらに話を続ける。

「そういった事情から、ジュリス王国にとっては、龍王暦始まって当初の強権的な聖王国に対しての憎しみは当然ありますが、それ以上に騙して海岸線を奪ったミケルクスド國を憎む気持ちの方が大きいでしょう。ただ、自国より国力があり、飛兵を多く有しているミケルクスド國に軍事的な行動を起こせないのが現状であり、それがますますミケルクスド國への憎しみを倍増させているわけであります」


「成程! ……ということは、今回の聖王国とジュリス王国の同盟成立後に、ある軍事行動が行われるということで間違いないですか?」

 クーロのこの質問に、コロンフルは満足そうに頷きながら、先を続ける。

「さすがはクーロ様。おっしゃる通り! 同盟成立後、聖王国とジュリス王国連合による軍事行動が開始されます。ジュリス王国がミケルクスド國から奪われた海岸線の地方を『ドクサ地方』と言いますが、それをミケルクスド國から奪取する軍事行動です。むしろこれが、今回の同盟における必須条件であります」

「聖王国とジュリス王国の連合軍でドクサ地方を奪取した後は、どのような配分でドクサ地方を割譲するの?」

「全て、ジュリス王国に譲るという条件であります!」

「えっ! 聖王国は兵や物資をドクサ地方奪取に当てながら、全く領土を得ないの?! 聖王国に何のメリットがあるの?!」

「ツヴァンソ! ジュリス王国と強固な同盟を締結できたことが大いなるメリットだよ。そしてその同盟国が海洋を再び手に出来ることも大きな意味を持つ!」

 ツヴァンソの疑問にクーロが答える。

「でも、同盟国といっても他国だよ! 聖王国が海を取り戻したわけではないし……」

「そうだね。ドクサ地方奪取の段階では、ツヴァンソの言う通りだ! ドクサ地方奪取の段階では……」

「……ドクサ地方奪取の段階では? つまり、それで終わりではないということですか? クーロ兄さん!」

「さあ、それは今の僕には知りようがないけど、恐らく、その次は聖王国がミケルクスド國から海洋のある地を奪取するという流れになると思うよ。その時に、強固な同盟関係にあるジュリス王国の存在は大きいな。ジュリス王国は聖王国だけでなく、ミケルクスド國やさらにはバルナート帝國とも国境で接している國であるから……」

「クーロ様のお考えは、おそらく聖王国の今後の戦略方針と合致するものだと私も思います。むろん、私もドクサ地方攻略から先のことは全く知りませんが……」

「ちょっと待って! 兄さんの考えが聖王国の今後の方針だと仮定すると、これからの聖王国は自国の領土防衛だけでなく、他国へも侵攻していくということ?! それはすごい!」

 ツヴァンソが目を輝かせて、クーロに尋ねた。

 ツヴァンソにとってどこまでも戦争は攻めが主体なのであろう。

 今の聖王国の境遇にツヴァンソが必ずしも満足していないのは、この二人も承知していたことであるが……。

「そう! だから、いつまでも敵が侵攻してくるのを待って、その守りに専念するというツヴァンソの杞憂について、聖王陛下を始めとする我が國の中央政府もいろいろ打開策を考えているということだ!」

「成程! 私もやっとやる気が出て来た! うん! それでこそ、将軍を目指す張り合いもあるというもの……」

「少し、将軍を目指す道に不純なものを感じるが……、まあそれは良いとして、ジュリス王国もよくこの同盟話に乗っかってきたものだ! 大陸一弱兵の聖王国との同盟に……?!」

「そうですね!」

 少しコロンフルの顔がにやけたようにクーロには感じ取れた。

「おそらく昨年であればジュリス王国はどんなに良い条件の同盟であっても、無下に断ったでありましょう。しかし、今年、聖王国が強敵ミケルクスド國からエーレ地方を奪還したことにより、事情が大きく変わりました。今までの聖王国では一度侵攻された領土の奪回など絶対に不可能でありましたので……。

 さらに付け加えれば、その後、エーレ地方は小規模ながら幾度となくミケルクスド國からの侵攻がありましたが、それを全て撃退し、一メートルとして国境線の内側への書き換えを敵に許しておりません! これなどは今まで、絶対に起こり得ないことでしたので、ジュリス王国からすれば、聖王国と共同戦線を敷き、海岸線のドクサ地方奪取が現実のものとしての構図を描けると判断したのでありましょう!」




〔参考一 用語集〕

(人名)

 クーロ(マデギリークの養子。小隊長)

 コロンフル(マデギリーク将軍の副官)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。小隊長)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 バルナート帝國(ヴェルト八國の一つ。北の強国)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)


(地名)

 エーレ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 ドクサ地方(ミケルクスド國領)



〔参考二 大陸全図〕

挿絵(By みてみん)

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