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【063 ジュリス王国との同盟(前)】


【063 ジュリス王国との同盟(前)】



〔本編〕

 龍王暦二〇一年八月。

 ソルトルムンク聖王国は、西の小国ジュリス王国と同盟を結んだ。

 コロンフル副官が、クーロとツヴァンソに明かせなかった聖王国の極秘裏の動きがこれであった。

 他国との同盟そのものは、それほど珍しいことではない。

 例えば、昨年エーレ地方に攻め込んだミケルクスド國のエンテ将軍と、ソルトルムンク聖王国のマデギリーク将軍が結んだ期限付きの休戦協定も、現場の指揮官による協定ではあるが、広い意味ではソルトルムンク聖王国とミケルクスド國の二国間における同盟といえる。

 ただ、今回のジュリス王国と聖王国の同盟は、それなどとはレベルが違う。

 二國の王の意向で結ばれたものであり、内容も消極的な不戦協定のたぐいなどではない。

 強固な同盟であることを端的に示すものとして、ソルトルムンク聖王国聖王の息子にあたる聖王子と、ジュリス王国国王の娘である王女の婚姻が、この同盟の条件となっている。

 この婚姻には、他の六國も深い関心を示すことになるであろう。

 そしてそれは建国神にあたる八大龍王たちすら、その二国の同盟の動静に関心を寄せるほどのものであるといえる。

 このように、ある意味同盟した二国以外の他国が何かしらの関心と、それに対する警戒をするというある種諸刃の剣もろはのつるぎのような要素を含んだ同盟が、何故、成立出来たのであろうか?

 それには、ヴェルト大陸におけるここまでの事情が少なからず関係している。


「……しかし重要な動きがあるとは察してはいたが……、まさか! ジュリス王国との同盟とは! 我らの王も思い切ったことを実行に移した!」

「確かに、私としてもマデギリーク様からこの同盟については聞かされてはおりましたが、成立するか否かは五分五分といったところでありましたので、それなりに驚いております!」

 同盟成立以降の八月のある一日、ミケルクスド國との国境付近の砦において、クーロとコロンフル副官の間でこのような会話が交わされた。

「クーロ兄さん! コロンフル! 遅くなった!! 申し訳ない! もう少し早く到着するつもりだったが、敵が案外粘るので、思ったより時間がかかってしまった!」

 クーロとコロンフルがいる部屋に、ツヴァンソが遅れて入ってきた。

「こら! ツヴァンソ! コロンフル殿は、父上の副官殿ではあるが、今の我らの上役にあたるお方だぞ! 呼び捨てにするな!」

「……そういう兄さんだって、コロンフル様や、コロンフル副官でなく、コロンフル殿ではないか!」

 ツヴァンソが笑いながら、クーロの指摘の穴を突く。

「……それに、上位の指揮官への敬称を指摘するのであれば、私のことも“ツヴァンソ!”と呼び捨てはまずいのではないでしょうか? 兄上!」

「……あっ!」

 ツヴァンソの切り返しに、クーロは自らの迂闊うかつさに気づく。

“そうだった! ツヴァンソは先月、中隊長に昇格したのだった!”

 さすがのクーロも、思わぬ形ではあるが、ツヴァンソから一本とられたことになった。

「これは、申し訳ございませんでした。ツヴァンソ中隊長様。この不遜な小隊長になにとぞ寛大なご処置を……」

「うむ! 私は、今日は非常に機嫌が良いので、兄上の失態を大目に見ることにいたしましょう。そうでなければ、私もコロンフル様からのおしかりをいただき兼ねませんので……」

 ツヴァンソの返しに、三人はそろって笑う。

 ここにいるのが、心が許せる身内のみだから通じる気軽な一幕であった。

「まあ、ツヴァンソ様のその理屈も、この瞬間から通じなくはなりますが……」

 ひとしきり三人で笑った後、コロンフル副官が口を開く。

「えっ!」

 ツヴァンソの驚きの一声。

「まさか!」

「そのまさかでございます。ツヴァンソ様!」

 コロンフル副官は、そう言うとクーロの方を向き直る。

「昨日、マデギリーク様から通達がございました。ただいまを持ちまして、クーロ様は中隊長に昇格なされます。今は最前線に身を置かれておられますので、任命の段取りは全て省略いたしまして、この後、皆への周知と共に、クーロ様におかれましては早速、中隊の編成をしていただくこととなります。編成はクーロ様の采配でよろしくお願いいたします」

 コロンフルの言葉に、クーロは立ち上がり、深くお辞儀をする。

「マデギリーク将軍からの通達、謹んでお受けいたします!」

 クーロはそう言った後、ツヴァンソの方を向き直り一言。

「……ところで、ツヴァンソ中隊長殿! 先程の『まさか!』の一言にはどのようなお気持ちが含まれておりますのでありましょうか……? その心中をお聞かせいただければ幸いでございますが……」

 クーロの、皮肉というスパイスを利かせた反撃の一言。


「……それで、僕たちをここに呼んだのは、僕が中隊長に昇格した話だけではないのですよね?」

 話が一段落したところを見計らってクーロが、コロンフルにそう問いかける。

「はい! クーロ様の中隊長昇格の話だけでは当然ございません。今回のソルトルムンク聖王国とジュリス王国の同盟に関する重要なお話が、お二人にございますのでお呼びいたしました」

「そうでなくては、わざわざ兄上の昇格の話だけで、私まで呼ばれるのは割に合わない……」

 ツヴァンソがいたずらっぽく笑う。

「先ずは私からお尋ねいたしますが……」

 コロンフル副官がこう切り出す。

「今回の同盟につきまして、お二方はどこまでご存じでありますか?」

「聖王国の聖王子とジュリス王国の王女による婚姻という強固な同盟ということぐらい……」

 クーロの言葉。

「それでは、少し今回の同盟が成立いたしましたわけからお話いたしましょう。今回の同盟成立には、歴史的な背景が大いに関係しております」

 コロンフルが続ける。

「ヴェルト大陸が八大龍王の手で八國に統合され、強権的な初代第八龍王優鉢羅ウバツラの死去、その反動で、我がソルトルムンク聖王国が他の七國から領土を侵食され続け、領土の四分の一を失ったくだりは、お二方とも既にご存じとは思いますが……」

 クーロとツヴァンソは、コロンフルのその言葉に大きく頷く。

「それでは、龍王暦一八〇年に、我が國は南西部の海岸線一帯の領土を奪われ、海洋を持たない國になったことはご存じでありますか?」

「うん。知っている! 確か、ミケルクスド國とフルーメス王国の共同戦線によって奪われたと聞いているが……」

「はい! クーロ様のおっしゃる通りでございます。……しかし、実はこの海洋喪失に当たっては、ミケルクスド國とフルーメス王国の二國だけでなく、もう一國が実は関わっていたのであります! それが……」

「ジュリス王国!」

 ツヴァンソの言葉。




〔参考 用語集〕

(八大龍王等神名)

 優鉢羅ウバツラ龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した初代第八龍王。龍王暦一五〇年に急逝)


(人名)

 エンテ(ミケルクスド國の将軍)

 クーロ(マデギリークの養子。小隊長)

 コロンフル(マデギリーク将軍の副官)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。小隊長)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(その他)

 小隊長(小隊は十人規模の隊で、それを率いる隊長)

 中隊長(中隊は五十人規模の隊で、それを率いる隊長)

 副官(将軍位の次席)

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