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【061 エーレ城奪還戦(二十二) ~将軍の智・小隊長の武(Ⅱ)……停戦へ~】


【061 エーレ城奪還戦(二十二) ~将軍の智・小隊長の武(Ⅱ)……停戦へ~】



〔本編〕

「おっしゃる通りであります! 脱出口内でずっと戦い続けていた敵小隊そのものの存在にも驚きを隠せませんが、ゲイルーナと数時間やいばを交わせ、防戦一方と思わせながら、実はいつでもゲイルーナが倒せたというその小隊長の実力は、想定の埒外らちがいでした。逆を言えば、そのような者がいなければ、遂行することすら念頭に置かないような策略です。本来、脱出口からの侵入は下策中の下策であります!

 しかし、そのような小隊長と小隊員によって、千の聖王国兵は脱出口から城内へ一気に侵入を果たし、そこに援軍待ちとして待機していた城兵と、いきなりの乱戦状態となってしまったのであります。これでは、敵兵を包囲するどころか、敵と味方が入り乱れて戦っているため、一本の矢を射かけることすら出来ません。

 さらに、それに呼応して四方向から同時に城攻めが始まったので、侵入軍撃退のための増援を送ることもままならなくなりました。これで千人もの城内侵入兵を撃退させるには、城外の敵を全て撃退した後でないと無理であり、千人もの兵に城内への侵入を許した今、外の敵だけに注意を注ぐわけには参らず、城外の敵を撃退するためには、城内の侵入兵をことごとく倒すか封じ込めなければ不可能という事態になりました。つまりは……」

「手詰まりということか!」

「はい!」

 エンテ将軍の言葉に、プラデラは力なくそう答えた。

「南城壁付近の城内の敵! 南城壁の階段の一部に取り付きました! 城壁内側の階段を一部占拠され、そこから敵が城壁に登ってきます! このままでは、南城壁の上まで敵に奪われてしまいます! 敵拠点潰しに援軍を早急に要請いたします!!」

「東城壁の上に敵の侵入を許してしまいました! 城壁の上から敵を追い落とすために、早急に援軍を……!」

「西城壁は未だ敵の侵入は許してはおりません。ただ、それも時間の問題ではあります。早々に援軍をお願いいたします!」

 四月一六日のエーレ城攻防が始まって三時間が経過した午前七時。

 北を除く三方向から次々に援軍要請の伝令が、中央部のエンテ将軍の元に届く。

 攻防戦が始まった当初こそ、中央に二千程度の兵がいたが、次々に出される援軍要請に応じているうち、ついに中央には百を数える兵しか残らなくなった。

 これで、もうどこの援軍要請にも応じることは不可能となった。

「エンテ将軍! まだ城外に潜んでいるフレーネに、一か八かマデギリーク将軍の狙撃を命じては……。マデギリーク将軍さえ倒すことが出来れば、この戦局、ひっくり返すことが可能なのでは……」

「いや、無理だ!」

 プラデラの進言に、エンテ将軍はすかさず首を横に振る。

「フレーネがいる位置が分からない上、フレーネにそれを伝える術がない! 仮にフレーネ独自の判断で、マデギリーク将軍を狙ったとしても、そのマデギリーク将軍のいる場所が特定できず、できたとしても狙撃兵フレーネの存在を知っている以上、よほどマデギリーク将軍に油断がない限り、本陣に接近することすら難しいであろう。それに……」

 エンテ将軍が続ける。

「……それに、仮に万が一の確率でマデギリーク将軍を狙撃できたとしても、このエーレ城攻城戦は終わらない! マデギリーク将軍は、自分の死すら想定の上、この最後の戦いを兵たちに命じているはずだ! 逆に、マデギリーク将軍を倒した場合、マデギリーク兵はそれこそ復讐の鬼兵と化し、我が軍は、この城と共に全員が討ち取られる! せめて、ジュスウ将軍の援軍が間に合えば、そこから持ち直すことも可能かもしれないが、とても間に合うような地点までに至っていない!!」

 エンテ将軍からすれば、既に亡くなったゲイルーナやトルメンタよりも、ジュスウ将軍率いる強襲補給軍の大幅な遅れに怒りを感じていた。

 そういう意味では、今戦っているマデギリーク将軍や敵兵より、ジュスウ将軍の方に殺意を覚えているかもしれない言いぶりであった。

 そのような中、籠城側において致命的ともいえる報告が、エンテとプラデラがいる本城に飛び込んでくる。

「北の城壁が、敵の特殊な攻城装置により一部分ではありますが、崩落いたしました! そこから敵が続々と侵入してきます! 直ちに千の援軍を……!!」

「プラデラ!」

「はっ!」

「魔兵の音声拡声の術で、次の俺の言葉をマデギリーク将軍に伝えよ! 『停戦の要請を求む! 停戦協定内容は、エーレ城の即時明け渡し! 城内外のミケルクスド國兵が本国へ引き上げる際の追撃の全面禁止を条件での停戦協定である!』と……!!」

 この瞬間、エーレ城攻防戦における聖王国側の勝利が確定した。

 これは、後で分かったことだが、北城壁側から唯一援軍要請が来なかったのは、援軍要請が不要だったからでなく、援軍要請を出す暇も人もいないほど切迫していたからであった。



 マデギリーク将軍は、敵エンテ将軍の肉声による停戦要請を受け、すぐに自らも魔兵による音声拡声の術で、それに応じる旨を城内全体に伝えた。

 エーレ城内外にいる聖王国並びにミケルクスド國の両国の兵は、その二人の将軍のやりとりを聞き、その後すぐに発せられた両軍の停戦命令に、各々の兵が素直に従い、エーレ城における全ての戦闘行為が停止した。

 四月一六日午前七時過ぎのことで、この日の正午にエーレ城の北門が開かれ、その場においてエンテ将軍、マデギリーク将軍のそれぞれの代理による調停が行われ、午後一時に正式な休戦協定が締結した。

 その協定内容は、すぐにエーレ地方全域に発せられ、エーレ地方各所で戦っている聖王国兵とミケルクスド國兵全ての耳に届く。

 一六日の夜半に、エーレ城から残り一日の行程にいるミケルクスド國のジュスウ将軍と、聖王国のコロンフル副官の元にもそれは伝わった。

 ジュスウ将軍からすれば、明日一日、後続の損害を全く考慮せず、全速力でエーレ城に急行するつもりであったので、このエーレ城のエンテ将軍の決定に大いに不服ではあったが、そうなった要因が自分にあることに全く気付いていない様子であった。

 ジュスウ将軍は怒りに任せ、背後に貼りついている敵軍を蹴散らしたい衝動に駆られたが、むろんそれは協定違反であり、この戦いで勝っても負けても、ジュスウ将軍は厳罰に処されてしまう。

 最も、ジュスウ将軍がそう命じても、何人の部下がそれに従うかどうか……。

 結局、ジュスウ将軍はそのまま軍を反転北上させ、ミケルクスド國本国に引き揚げていった。

 その際ジュスウ将軍は、あろうことかエーレ城で籠城していたエンテ将軍の撤退を待たず、それも運んできた補給物資を、エンテ将軍の元には一切届けずに撤退したのであった。

 これにより、エンテ将軍とジュスウ将軍の確執は決定的となり、今後に大きく影響を及ぼすこととなった。




〔参考 用語集〕

(人名)

 エンテ(ミケルクスド國の将軍)

 ゲイルーナ(新しい四隊長の一人)

 コロンフル(マデギリーク将軍の副官)

 ジュスウ(ミケルクスド國の将軍)

 トルメンタ(新しい四隊長の一人)

 プラデラ(四隊長の一人)

 フレーネ(四隊長の一人。上位弓兵)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(地名)

 エーレ城(エーレ地方の主城)


(その他)

 小隊(この時代の最も小規模な集団。十人で編成される)

 小隊長(小隊は十人規模の隊で、それを率いる隊長)

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