【060 エーレ城奪還戦(二十一) ~将軍の智・小隊長の武(Ⅰ)~】
【060 エーレ城奪還戦(二十一) ~将軍の智・小隊長の武(Ⅰ)~】
〔本編〕
「エンテ将軍! 敵の策にまんまと嵌ってしまいました! 申し訳ございません!!」
エンテ将軍の元に急いで駆けつけた四隊長の一人プラデラは、エンテ将軍にそう言い、深々と頭を下げた。
「とりあえず城の四方向は、そこの指揮官が対処しておりますので、すぐに城壁が破られるなどの危機に陥るわけではありません。しかし、脱出口の上に出来た南の敵拠点は、容易に取り除くことは出来ません!
城内に拠点を作られ、それを取り除くことが出来ないということは、城の命運が、今日明日に迫ったということを意味します! 進退窮まりました!」
「やはり、脱出口を我々に発見させたこと自体が、敵の策であったというわけか!」
エンテ将軍がそう呟く。
「今の状況から推し量れば、敵の策略で間違いないといえます! 武器庫に火のついた矢を置き、小火を起こさせたのは、脱出口から城内に入り込んでいた敵諜報兵の仕業でありましょう。あるいは、それを発見した兵も、火矢を置いた者と同一人物か、あるいは別の人物であっても敵諜報兵の一人か……。 いずれにせよ、脱出口を発見したことにより、私はゲイルーナと二十人の兵を脱出口内に配置いたしましたが、そうさせることが敵の思惑だったようであります!」
時は四月一六日午前四時半、エーレ城への総攻撃が開始されて四十分が経過していた。
「しかし、お前は脱出口の発見について、偶然と敵の策の両方を念頭に置き、対処していたではないか?! 何がお前の失態なのだ!」
「……今となっては、言い訳にしかなりませんが、十人の敵が脱出口へ侵入してきて、ゲイルーナとの遭遇戦を始めたという報告を聞いた時に偶然と思い、将軍に報告せず、自分だけでそれを処理しようとしたことが私の失策であります。十人の敵と聞いて、数の少なさからしばしば脱出口を利用して城外を行き来している諜報兵の類と判断してしまいました」
「……」
「すぐにトルメンタに百人を率いさせ、その場に急行させましたが、トルメンタにその後のことを逐一自分に報告させるという指示を徹底させませんでした。トルメンタもそれなりに優秀ではありましたので、私も側近としてそばに置き、さらに四隊長の一人として推薦いたしましたが、しょせんは少し目端の利く程度の小者であったということです」
「……」
「……敵との遭遇戦の折、最初の報告を怠ったゲイルーナ。そして百人の援軍で対処できなければ、すぐに私に知らせるべきところ、勝手に自分の判断で、近くに駐屯している隊に応援を頼み続けるという愚行を延々と続けたトルメンタ。そして、そのような二人に、全てを任せてしまった私! この三人の大失態であります!」
「いや、あまり自分を卑下するな! プラデラ! 他の二人はともかく、お前はずっとこのエーレ城内において、俺の代わりに城内をまとめ上げてきた。俺が不在の時は、否応でもお前一人で決断を下さなければいけない場面は、しばしばあったであろう。そのような重大な責務を今日まで果たしてきたお前に大失態はない!」
「……!」
エンテ将軍の言葉に、プラデラは無言で頭を下げた。
「ところで、今回の敵の策にはどういった罠が隠されていたのだ! 結果から鑑みるに、城の脱出口から逆に侵入して拠点を作るという思い切った策であることは分かったが、何故、わざわざ我らに脱出口の存在を知らせ、そこに兵を配置させるということをさせた? 我らが脱出口の存在を知らないのであれば、密かに兵を脱出口から侵入させ、結果、拠点を作りやすかったと考えるが……」
「いいえ。敵将マデギリークからすれば、我らが脱出口の存在に気付いているかどうかは、不確定要素でありました。実は我らが脱出口に既に気づいていて、そのまま放置していたのであれば、マデギリーク将軍からすれば、我らの罠にむざむざ飛び込むことになり、いたずらに貴重な戦力を失っていたことでしょう。そうなると、マデギリーク将軍のエーレ城奪還は失敗に終わり、先に戦死したアルエット将軍に続く、二人の将軍によるエーレ城奪還失敗は、聖王国にとってエーレ地方を永遠に失うことを意味します。それは龍王暦一八〇年の聖王国の海岸線の喪失に勝るとも劣らない一大事でありましょう!」
プラデラは一旦、話を中断して、エンテ将軍の顔を窺ったが、そのまま促すような将軍の表情に、話を続ける。
「それに、仮に我らが知らないことを確信出来たとして、それを前提に侵入を果たしても、十人、二十人ならいざ知らず、その場に拠点を確保し続けるのであれば、千人は城内に侵入させなければいけない計算となり、それを完遂するには脱出口はあまりにも狭すぎて、千人全てが城内に入り込むのに、どんなに短く見積もっても一時間はかかるでありましょう
それに、五十人も敵兵が城内に侵入すれば、必ず我らは気づくことができ、そうなればたとえ千人の兵が仮に脱出口から侵入できたとしても、その頃には既に我らの敵に対する包囲網は完成し、火矢を大量に射かければ、脱出口付近の建物は全て焼け、侵入した兵はその場で焼け死ぬか、再び脱出口を使って逃げるしか手がありません。
実際には、三百が城内に到達したころには、こちらの包囲網は完成し、残りの七百は脱出口から城内に出ることすら出来ず、もっと簡単に決着が着きましょう。しかし、マデギリーク将軍はそれを踏まえて、一小隊だけを先ず脱出口に侵入させたのです。それによって、脱出口を発見させられた我々がその小隊と脱出口内で、戦うという状況にさせられたのであります。マデギリーク将軍によって……
しかし、脱出口本道は狭く、三人から四人が同時に戦うだけのスペースしかありません。小勢でも多勢を相手に出来る環境ではありましたが、それでも普通の敵小隊であれば、何ら問題はありませんでした。しかし、マデギリーク将軍が送り込んだ小隊は、こちらの想定の遥か上をいく必殺の小隊であったわけです
その小隊により、こちらの兵は一方的に削られ続け、城兵の大半は、脱出口内そして脱出口の出口付近に漫然と待機させられる状態におかれました。それでも、その小隊をゲイルーナが撃退できれば、何ら問題はなかったのです。脱出口の本道の狭さを最大限に利用すれば、ゲイルーナ一人で敵の侵入を止めることすら可能だからであります。しかし、それを敵の小隊の隊長が一人で覆してしまいました!」
「その小隊長が、本隊の千人が接近した瞬間、ゲイルーナを一刀で瞬殺し、その数秒後にはトルメンタも倒し、あっさり脱出口から城内への侵入を果たしてしまったというわけだな! 本隊の千人と共に……」
〔参考 用語集〕
(人名)
アルエット(聖王国の将軍。故人)
エンテ(ミケルクスド國の将軍)
ゲイルーナ(新しい四隊長の一人)
トルメンタ(新しい四隊長の一人)
プラデラ(四隊長の一人)
マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
(地名)
エーレ城(エーレ地方の主城)
(その他)
四隊長(エンテ将軍の配下の四人。死隊長とも呼ばれている)
小隊(この時代の最も小規模な集団。十人で編成される)
小隊長(小隊は十人規模の隊で、それを率いる隊長)




