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【059 エーレ城奪還戦(二十)】


【059 エーレ城奪還戦(二十)】



〔本編〕

 場所はエーレ城内。

 時は、休戦協定締結より少し遡った四月一六日の午前三時四十分過ぎ。

 エーレ城脱出口からの侵入を成功させたツヴァンソ小隊と千人の聖王国兵は、エーレ城南側城壁付近で、城内のミケルクスド國兵と戦闘を繰り広げていた。

 ミケルクスド國兵も、この段階においては千人以上の兵が、ここに集結しているので、数の上ではほぼ同数であった。

 兵の質から考えると聖王国兵の方が数段劣るが、聖王国兵はエーレ城内への侵入を無事に果たしたことにより士気が一番高まっている状態であった。

 それに加え、鬼神の如き強さのツヴァンソがエンテ将軍配下の四隊長の二人、ゲイルーナとトルメンタを相次いで討ち果たしたことにより、この一帯のミケルクスド國側の指揮官が不在となり、それがミケルクスド國兵と聖王国兵の質の差が圧倒的であるにも関わらず、互角の戦いとなっているのであった。

 それでもここはエーレ城内。

 城内には一万近い城兵がいるので、この場に一刻も早く聖王国側の拠点を確保しなければ、千の聖王国兵は、ミケルクスド國兵の圧倒的兵力によって全滅させられてしまうであろう。

 しかし、脱出口からの突入が成功してから三十分後。

 ミケルクスド國側が、新たな指揮官と増援の兵を準備し、まさに城の南壁付近の聖王国兵とミケルクスド國兵が戦っている地点に送り込もうとしている正にその時、城外で大きな喚声が上がった。

 その喚声は、エーレ城の城壁が崩れるのではと錯覚するぐらいの大音量であり、その喚声と同時に、エーレ城四方向全ての城壁に対し、聖王国兵が一気に攻めかけてきたのであった。

 その攻撃は、これまでの攻撃の中で最も苛烈で、さらに後方で交代するために待機している兵が全くいない、文字通り全兵力を一時いちどきに投入したマデギリーク軍の攻めであった。

 マデギリーク将軍にとって、この攻撃の後に攻撃はない。

 この攻撃は、エーレ城を落とすか、それともマデギリーク軍の大半が失われ、エーレ城から撤退するまで終わることがない類のものであった。

 まさに、この一六日でなんらかの決着を出そうという、マデギリーク将軍の明確な意図が根底にある攻めといえる。


「ふぅ~! やっと人心地が付けましたな!」

 ツヴァンソ小隊の一人、ホッホがツヴァンソに話しかける。

 ツヴァンソ小隊と共にエーレ城内に侵入を果たした千の聖王国兵が、エーレ城内に拠点となるべく地を確保したことにより、やっとツヴァンソ小隊の戦いも一段落がついた、その時のホッホの言葉である。

「……兄者や俺たちは、それでも交替で戦っていたのだから、まだ休む時間があった。ツヴァンソ様は、昨夜の十時過ぎからずっと戦われているので、六時間休みなしだ! それなのに、ツヴァンソ様と同じように働かれたかのような言葉をツヴァンソ様にかける兄者の神経を疑う!!」

 ホッホの弟エーベネが、兄に対して不平を口にする。

「馬鹿! お前の場合は、自分が先にツヴァンソ様に話しかけたかったのに、俺が先に声をかけてしまったことへの嫉妬からだろ?!」

「ふざけるな! そんなわけないだろ!!」

 エーベネは口では兄の言葉を否定したが、真っ赤になった顔が、思いっきり兄のその言葉を肯定していた。

「フフフ!」

 そんな兄弟を見てツヴァンソが微笑む。

「二人とも、よく頑張ってくれた! いや、二人だけでない! 皆! よく頑張った! 一人として欠けてないのは凄いことだ! さすが、私が見込んだ者たちだ!」

 ツヴァンソのこの一言で、ここまで死闘を続けてきた小隊員全員が、全てにおいて報われた気持ちになった。

 ……というか、むしろツヴァンソからこの言葉をかけてもらうために、全員が必死に戦ったといっても過言ではない。

「それにエーベネが言うほど、私は大変ではなかったぞ! だって、ほとんど手を抜いていたのだから……」

『……』

 小隊員ほとんどが、ツヴァンソのこの言葉に二の句が告げられず、啞然あぜんとしていたところ、小隊員の一人が口を開く。

「ツヴァンソ様の表情を間近に拝して、そうではないかと思っておりました。あの敵将では、ツヴァンソ様の相手としては、いささか以上に不足であったいうことでありますね……」

「さすが、カリマ! カリマの言うよう、ゲイルーナとかいう敵は、その気になれば一撃で倒せた!」

「一撃で倒せる敵を、ツヴァンソ様はわざと倒されなかった! なぜなら、それでは我々が簡単に脱出口からエーレ城内に侵入できてしまうから……」

「……そう、あそこはどうしても城内への侵入に時間を費やす必要があった。そうでなければ……」

「味方の到着が間に合わなくなりますからですか?!」

 ホッホの言葉に、ツヴァンソは静かに微笑む。

「……敵の多くを脱出口内に密集させる必要があったから……ですね!」

 これはカリマの言葉。

 ツヴァンソは、それには大きく頷く。

「……ということは、脱出口が敵に見つかることが想定内! いや! 想定内ではなくて、あえて敵に見つけさせ、敵が脱出口内に見張りを置き、それによって我らを、偶然にも発見したかのように仕向けた! さすが、ツヴァンソ様でいらっしゃいます!」

「カリマ! お前の言った通りだが、それは私の策ではない! マデギリーク将軍の策だ! ただ、その策は私の小隊しか実行することができないと、父は考えた! 父上の策も見事だが、私はその任務を成し遂げたお前たち九人がすごいと思う! 作戦の詳細を知らないで、よくここまで頑張ってくれた! 礼を言わせてもらう」

 ツヴァンソが皆に頭を下げたことで、小隊の面々も慌てて頭を下げる。

 しかし、カリマを除き、八人の小隊員はどういった策であったかが、全く理解できていなかった。

 それでも頭を上げた瞬間、作戦が無事に成功して、ツヴァンソに褒められたことだけが記憶として残り、カリマ以外の八人は、この作戦の真の狙いなどについて深く考察することはなかった。




〔参考 用語集〕

(人名)

 エンテ(ミケルクスド國の将軍)

 カリマ(ツヴァンソ隊の一員)

 ゲイルーナ(新しい四隊長の一人)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹)

 トルメンタ(新しい四隊長の一人)

 ホッホ・エーベネ(ツヴァンソ隊の一員。兄弟)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(地名)

 エーレ城(エーレ地方の主城)


(その他)

 四隊長(エンテ将軍の配下の四人。死隊長とも呼ばれている)

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