【058 エーレ城奪還戦(十九) ~粘り勝ち~】
【058 エーレ城奪還戦(十九) ~粘り勝ち~】
〔本編〕
「クーロ様! さすがにこれ以上、この敵をこの場に押しとどめるのは困難かと……」
コロンフルが、クーロにそう呟く。
「コロンフル副官! 仮にここから敵がエーレ城に辿り着くのに、どのくらいの日数が必要ですか? 我らの障害が全く無くなった場合の……」
「一日強といったところでありましょうか!」
「……ならば、ここの敵を全て素通りさせましょう!」
「何と! それでは、エーレ城にこの一万の敵が援軍として到着してしまいます!!」
「いや、敵援軍は既に一万ではなく九千! それも後方は補給物資を運ぶ運搬部隊! ここで、敵を全てエーレ城側に素通りさせることで、我らは七千の戦力をまるまる残せます! そしてその七千で、敵強襲補給軍の後背を攻めましょう! それであれば、ここからの一日強の間中、九千の敵を背後から削り続けることが出来ます! 敵がエーレ城に到達する頃には、八千から七千に満たない兵力となるはず! 多くの補給物資も失わせることが出来るでしょう!」
「……」
「さらに、マデギリーク軍がエーレ城を力攻めしている以上、城の命運も後一日程度かと……! ここで我らが踏みとどまっても、敵を防ぎきれる時間は、せいぜい三時間程度。そしてその三時間で、この別動隊は三分の一以下の二千程度になっているかと……。それであれば三時間早くはなりますが、敵をエーレ城に向かわせた方が得策です!」
「さすがは、クーロ様!」
コロンフルは感嘆の言葉を発する。
そして、コロンフルが見回すとそこにいる参謀全てが、そのクーロの献策に賛同の意思を示す表情をしていた。
「すぐに全軍に今のことを伝達! 今の防御戦を全て停止し、皆、そのまま脇の森や山の中に退避するよう……。敵をそのままエーレ城側に素通りさせるよう伝えよ!」
コロンフルはこの指令と同時に、魔兵の一人に魔術による伝達方法を用い、その旨を、マデギリーク将軍本陣の魔兵に伝えさせた。
魔術による伝達は、極力簡素な内容しか伝えられず、さらに別動隊の位置と、マデギリーク将軍の本陣までの間に、なんらかの魔術的な妨害があれば不可能な伝達方法ではあるが、先を急ぐジュスウ将軍にそんな配慮はなかった。
それ故、敵の強襲補給軍を素通りさせるため、残り一日強で、強襲補給軍はエーレ城に達するという内容を、すぐにマデギリーク将軍に伝えることは出来た。
マデギリーク将軍であれば、それで何らかの対処が出来ると、コロンフルは信じて疑わなかった。
さて、コロンフルの退避の指令が飛び、数分後にはコロンフルの別動隊の兵は、全員直ちに戦闘を停止し、そのまま森や山の中に逃げ込んだのであった。
これにより、ジュスウ将軍率いる強襲補給軍九千は、エーレ城へ急行できるようになった。
ここまでの結果だけで語るならば、コロンフル副官率いる別動隊は、敵の強襲補給軍を食い止める任を最後まで全うできなかったということになる。
ジュスウ将軍率いるミケルクスド國の強襲補給軍全軍は、エーレ城に全速力で向う。
エーレ城内の様子を伝える報は、一向にジュスウ将軍には入ってこないが、マデギリーク軍が力攻めで城を攻略しようとしているのであるなら、あまり時間は残っていないはずである。
エーレ城までの道のりは、後一日半の距離。
敵コロンフル副官率いる別動隊の妨害は突破出来たのであるから、もう前方には障害となるものは一切ない。
しかし、ジュスウ将軍の軍は、エーレ城に到着することだけに注意を払うわけにはいかなかった。
なぜなら、四月一四日から二日以上、妨害し続けたコロンフル率いる別動隊が、急に戦闘を止め、その場から退避したため、前方にジュスウ将軍の軍を阻むものはなくなったが、代わりに、コロンフル軍はジュスウ軍の背後に取り付き、後ろからジュスウ軍を削り始めたのであった。
ジュスウ軍の前方は、補給軍とはいえ、並みの軍勢を蹴散らすほどの力を有する主力部隊。
それに対し、後方は補給物資を運ぶためだけの運搬部隊である。
ただでさえ、戦闘力が皆無の補給運搬部隊が、背後からコロンフル軍の攻撃を一手に受け続けることになった。
修理した荷車は再び破壊され、補給物資には火矢が射かけられ、兵達は右往左往しながら主力部隊に追いつこうと逃げる者、そこに踏みとどまって戦う者、それぞれであったが、どちらの兵もコロンフル軍の馬蹄に踏み潰された。
ジュスウ将軍としては、このままエーレ城に向かっても、時間の経過と共に兵も補給物資も減っていく。
特に補給物資の損害は、甚大なものとなってきた。
それゆえジュスウ将軍は、しばしば軍を止め、自らが主力部隊を率いて、背後に取り付いているコロンフル軍を蹴散らす。
コロンフル軍の兵も、最初こそジュスウ将軍の逆撃を被り何人か命を落としたが、そのうちジュスウ将軍が近づく前に、撤退するようになった。
ジュスウ将軍としても、コロンフル軍に撤退されれば、それ以上はどうしようもないので、そのまま前方に戻り、エーレ城への道を急ぐ。
しかし、ジュスウ将軍が前方に戻れば、コロンフル軍がまた現れ、強襲補給軍の後ろを削っていく。
結局、四月一六日の午後の半日で、エーレ城への道のりは、予定の距離の半分しか前進できなかった。
そのような中において一六日の夜半、ジュスウ将軍は一つの決意を固めた。
明日一七日の一日は、後軍を全く無視して、全速でエーレ城に向かうというものである。
むろん、後軍の被害は甚大にはなるが、それであれば、一八日の昼頃には、目的のエーレ城に到達でき、城内のエンテ将軍と呼応して、マデギリーク軍をエーレ城周辺から撃退することができる。
そう、決断したジュスウ将軍であったが、ついにそれが実行に移されることはなかった。
一六日の夜半、エーレ城から一報が届く。
これはジュスウ将軍だけでなく、聖王国のコロンフル副官の元にも同様の内容が書簡によって届けられた。
四月一七日以降、エーレ地方におけるミケルクスド國兵、並びにソルトルムンク聖王国兵間における全ての戦闘行為を禁じるという内容の命令が記された書簡であった。
四月一六日午後一時、エーレ城のエンテ将軍と聖王国のマデギリーク将軍の間に、休戦協定が締結されたからである。
〔参考 用語集〕
(人名)
エンテ(ミケルクスド國の将軍)
クーロ(マデギリークの養子。小隊長)
コロンフル(マデギリーク将軍の副官)
ジュスウ(ミケルクスド國の将軍)
マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
(地名)
エーレ城(エーレ地方の主城)
(その他)
副官(将軍位の次席)




