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【056 エーレ城奪還戦(十七)】


【056 エーレ城奪還戦(十七)】



〔本編〕

「クーロ様、お疲れ様でした! 見事に敵を足止めさせましたな! さすがであります!」

 マデギリーク将軍の副官の一人で、敵強襲補給軍を足止めするために編成された別動隊の指揮官コロンフルが、別動隊本陣に戻ってきたクーロを、大喜びで迎え入れる。

 クーロは、敵ジュスウ将軍率いる強襲補給軍主力部隊の脇をすり抜け、四月一〇日未明に、敵主力部隊よりさらに後方の補給運搬部隊に奇襲を仕掛けた。

 これにより、補給運搬部隊の荷車並びにホースといった補給物資の運搬に欠かせないモノの大半を、破壊するかまたは殺傷することにより、補給物資の運搬機能を著しく低下させることに成功した。

 さらに、補給物資そのものにも火矢を射かけるなどして、全体の一割近くに当たる補給物資を灰燼に帰させたのであった。

 その上、そのことを主力部隊にしらせるためにつかわした飛兵並びに騎兵を待ち伏せにて狙撃し、一〇日から一一日の午前二時までの間、一切の敵伝令が主力部隊に辿り着けないようにした。

 さすがに一一日の午前二時過ぎからは、補給運搬部隊の伝令兵が倍増したため、クーロやパインロたち五人の弓兵では、全てを狙撃するということが物理的に不可能となった。

 したがって午前二時十五分をもって、クーロは隊の狙撃任務を全て終了させ、さらに奇襲を仕掛けていた四つの小隊にも敵軍から離脱するようパインロの矢によって伝え、午前五時の朝日が昇る頃には、クーロの特殊部隊全員が、敵から遠く離れた地点で合流を果たすことができた。

 クーロを含む特殊部隊五十人が、一人も欠けることなく任務が遂行できたことも、この作戦の大成功を意味している。

 そのまま、クーロたちは夜になるのを待ち、一一日の午後八時に合流した地点を出発し、全軍停止している敵強襲補給軍主力部隊の脇を再びすり抜け、コロンフル副官の待つ別動隊の本陣に帰還した。

 一三日の午前三時のことである。


「クーロ様! 敵(ジュスウ将軍の強襲補給軍)は二日間近く、全軍を停止させておりましたが、やっとこちらに向けて動き出したようであります。諜報からの連絡です! 明日には、敵の強襲補給軍主力部隊との交戦に入るでありましょう。

 そして、主力部隊のうち六割がこちらに向かっており、三割が、クーロ様が奇襲いたしました補給運搬部隊の救援に向かい、残りの一割が全軍停止した地点で待機を続けております。補給運搬部隊の数を引きますと、こちらに向かっているのは半数の五千でありましょう。これは、エーレ城を攻めておられるマデギリーク様への大いなる援護射撃となりました!」

 コロンフル副官は、クーロの働きを大いに喜ぶ。

「敵五千に対して、こちらは一万か! 本来であれば、これで敵強襲補給軍のエーレ城への到達は、完全に潰えたといいたいところだが……。いかんせん、ミケルクスド國兵と聖王国兵の質の差が、そんな単純な計算では埋められないというわけか!」

 クーロがボソッと呟く。

 倍の人数である一万で、それもこちらが先にこの地に着いており、迎え撃つのに優位な地を全て抑えているのにも係わらず、まだこれで完全に敵を足止めできる状況とは言えないのが現状であった。

『我が國が、北方の國と戦うのであれば、五倍の兵を用意すべし! さらにそれがバルナート帝國であれば、さらに倍の十倍は用意しなければならない!』

 これが、聖王国内で広く知れ渡っている格言のようなもので、聖王国民の共通認識であった。

 それほど、ソルトルムンク聖王国の兵は脆弱なのであった。

「ただ……」

 クーロの諦めに近い呟きに、コロンフル副官が励ますように言葉を紡ぐ。

「今回、マデギリーク様がエーレ城を奪還し、ミケルクスド兵をエーレ地方から完全に撤退させることが出来れば、聖王国の兵の質へ対する各国の共通認識も大いに様変わりしていくでありましょう。兵の質とは、その國の兵の実績と意識で大きく変化いたします」

「……それでも、長い歴史によって構築された認識が、そんな簡単に変わるものであろうか」

 クーロの基本思想の根は、悲観的ネガティブである。

 この辺りはツヴァンソと真逆といえる。

「今回それを大きく変えていくのがマデギリーク様であり、これからはそこにクーロ様も大いに関わっていただくことになりますので、今後とも大いにご活躍下さい!」

 コロンフルが笑いながら、クーロにそう言った。

 クーロの発想の基本ネガティブではあるが、クーロの場合、それは慢心から最も遠い位置にあるため、一種の美点でもある。

 そして、そのネガティブ思想を周りに伝播でんぱさせることなく、また周りのポジティブ思想を素直に受け入れ、そこに合わせていくことをクーロは出来るので、クーロにとって、ネガティブ思想が足枷あしかせとなることはほとんどなかった。

 そういうクーロに、コロンフルも非常に好感をいだいている。

「大丈夫です! ここにクーロ様がいる限り、敵はしばらくここを抜くことは出来ません! そうこうしている間に、マデギリーク様とツヴァンソ様が、エーレ城を攻略することでありましょう」


 四月一四日午前九時。

 ミケルクスド國ジュスウ将軍率いる強襲補給軍主力部隊五千と、ソルトルムンク聖王国コロンフル副官率いるマデギリーク軍別動隊一万との間で戦端が開かれる。

 敵ジュスウ将軍が、エーレ城のエンテ将軍救援に急いでいることもあり、ジュスウ軍は、最初から全力で攻めてきる。

 倍の一万の兵で、さらにこの地に先着し、いくつかの防御柵を設けて待ち受けていたコロンフル別動隊であったが、ジュスウ軍の果敢な攻めに、防戦一方であった。

 山岳地帯であるため、攻撃拠点が限られているにも関わらず、次々と防御柵は突破され、コロンフル別動隊は徐々にではあるが退却を余儀なくされていく。

 クーロの『倍の人数で敵を止めきれない』という考えは、決して悲観的過ぎる考えではなく、現実問題として一人のミケルクスド國兵を倒すのに、聖王国兵は三人から四人は犠牲を出すといった現象が、ところどころで実際に起こっていた。

 その中にあって、クーロ小隊と敵補給運搬部隊を奇襲した四つの小隊の活躍だけは目覚ましかった。

 中長距離からの弓による攻撃ではあるが、三人から四人がかりで倒すしかないミケルクスド國兵を、一本の矢で射殺すという現象は、劣勢の聖王国兵たちの士気をも結果的に高めた。

 それでも戦局全体に影響を与えるのに五十人という数は少な過ぎ、コロンフルの必死の指揮にも関わらず、開戦から三時間後の正午には、別動隊の死傷者は千人を数え、戦端を開いた地点から、一キロメートル後方への後退を別動隊は余儀なくさせられた。

 それでも、コロンフル副官より、強襲補給軍の指揮官ジュスウ将軍の方が焦っていた。




〔参考 用語集〕

(人名)

 クーロ(マデギリークの養子。小隊長)

 コロンフル(マデギリーク将軍の副官)

 ジュスウ(ミケルクスド國の将軍)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。小隊長)

 パインロ(クーロの弓の師であり、クーロの隊の一員)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(地名)

 エーレ城(エーレ地方の主城)

 エーレ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)


(その他)

 小隊(この時代の最も小規模な集団。十人で編成される)

 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)

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