【053 エーレ城奪還戦(十四) ~脱出口侵入戦(中の続)~】
【053 エーレ城奪還戦(十四) ~脱出口侵入戦(中の続)~】
〔本編〕
「よう! ゲイルーナ! 助けにきてやったぞ!!」
ツヴァンソと戦っているゲイルーナに、気安い声が背後からかけられる。
「トルメンタか! 助けなど頼んでいないぞ!」
ゲイルーナは声だけで、四隊長の一人トルメンタと分かった。
「お前の部下で、気の利いた奴が一人いて、その者がプラデラ様にご報告し、俺が百人の応援を連れてきたという塩梅だ!」
「くっ! その馬鹿は誰だ!」
「馬鹿はお前だ、ゲイルーナ! プラデラ様は、すぐ部下に報告を命じなかったお前に、ひどくご立腹だぞ! 実際、十人の敵とはいえ、ひどく苦戦しているではないか! 俺の到着が間に合わなかったら、どうするつもりだったのだ!」
トルメンタは、その場で息絶えている九人のミケルクスド國兵を見つけ、ゲイルーナにそううそぶく。
「馬鹿野郎! 十人の敵兵なぞ、その気になれば、俺が一人でも倒すことが出来る! お前は、そこで観ているだけで良い!!」
ゲイルーナは、ツヴァンソと戦っていなかったら、おそらくは後ろを振り向き、トルメンタの襟首を掴みながら、今のセリフを吐いていたであろう。
ツヴァンソと戦っているため、後ろを見ることすら叶わないが……。
「その割には、お前自身もずいぶんと手こずっているではないか! 見たところお前の相手は、小娘のようだが! ……おっと! 配置を整えろ! 敵を一人も通すな!」
この場に間に合ったため、余裕のつもりで気軽にゲイルーナに軽口を叩いていたトルメンタであったが、その場の状況をすぐに察し、連れてきた部下に指示を飛ばす。
トルメンタが、ゲイルーナに話しかけて一分も経っていない間に、交代して前線に出たツヴァンソ小隊の三人によって、瞬く間にゲイルーナの兵一人ずつ、計三人が切り伏せられたからであった。
ゲイルーナの兵は、これで報告に走った兵を除き十九人だったのが、十二人倒されたので残り七人。
ツヴァンソ小隊の面々が、一人として尋常な兵でないことを、トルメンタはこの時に初めて知る。
後五分、自分の到着が遅れたらゲイルーナ率いる十九人は、全滅していたであろう。
「……しかしこの敵! 偵察兵といった一般の兵たちなどではない!」
ゲイルーナの応援に来たトルメンタが、そう呟く。
ゲイルーナは、まだ倒されていないが、それ以外の兵は、次々と倒されていく。
トルメンタが到着して一時間が経過したが、その間にゲイルーナと戦っている女兵士以外の九人が、三人ずつ三交代で戦っているが、その九人を、味方の兵はまだ一人も倒せていない。
トルメンタが百人の援軍を連れてここに到着してから、九人の敵兵は十分で交替するようになり、それに比例して攻撃も苛烈となり、百の援軍が一時間で五十人にまで減らされたのであった。
既に、プラデラの指示で、脱出口付近には、千人規模の兵が集められたが、既に脱出口内で、最初にいたゲイルーナの兵を含め、七十人の兵が倒された。
たかだか十人の敵兵に……。
……それでもゲイルーナの相手である女兵士さえ倒せれば、戦況はこちらに傾く。
間違いなく、その女兵士がこの隊の隊長で、この十人で一番の実力者であろう。
ゲイルーナと二時間以上戦い続けられる点で、それ以外に考えられない。
「ゲイルーナ! いつまで遊んでいる! 早く、その小娘を殺せ!!」
トルメンタが後方から叫ぶ。
「……」
それに対し、最初は軽口を返していたゲイルーナが何も答えない。
“ゲイルーナが無駄口一つ返してこないとは……。こちらの見た目以上に一杯一杯ということなのか! それでもゲイルーナが敵の隊長さえ倒せれば、後は問題ない! 他の九人の力量を見るに、ゲイルーナの敵ではない!”
トルメンタはそう思いながらも、それでも焦りは消えない。
“それにしても、この敵はいったい何なのだ!!”
『ツヴァンソ小隊』――。
今、ここで戦っているツヴァンソを隊長とする十人の兵士たち。
この小隊が出来たのは、昨年の龍王暦二〇〇年の十月。
つまりツヴァンソが初陣として経験した、龍王暦二〇〇年一月の荒れ地の戦いの直後ではない。
荒れ地の戦いの功績が認められ、三月に小隊長に昇格したクーロに遅れること七か月後、ツヴァンソは小隊長に昇格した。
ツヴァンソは荒れ地の戦いの後、養父マデギリークに頼み込み、三回も実戦に身を投じている。
一回目が龍王暦二〇〇年六月、二回目が二か月後の八月、そして三回目が翌年に当たる龍王暦二〇一年一月である。
そして、この戦いが四月に当たるので、ツヴァンソは三か月前まで別の戦場で戦っていたことになる。
ツヴァンソは、三回の実戦で、剣術に優れている兵を見つけては、声をかけて回った。
タシターン地方の領主、そしてソルトルムンク聖王国で最も優れている将軍であるマデギリークの養女であるツヴァンソに声をかけられた兵は、嬉々としてツヴァンソの、この招聘に応じた。
もしかしたら、マデギリークに属するほとんどの兵が、ツヴァンソに誘ってもらえば、彼女の隊に入ったかもしれない。
逆に、自分から売り込む兵もいたが、実力が伴わなければ、ツヴァンソは容赦なく断った。
さて昨年六月の、初陣の次の戦いの舞台は、エーレ地方一帯に広がる山岳地帯であった。
ここでのツヴァンソの任務は山賊退治であったが、この時はあまり戦果が挙げられず、ツヴァンソはこの戦いでも小隊長に昇格することはなかった。
しかしこの戦いで、ツヴァンソは剣術に優れた兄弟兵士を見出し、同時に今までの攻め一辺倒の戦闘スタイルを改めた。
剣術に優れた兄弟兵士は、兄がホッホ、弟がエーベネである。
ツヴァンソの初陣とこの六月の山賊退治における戦姿は、長剣に鎧を着こんだいでたちで、さらに馬に騎乗するといったものであった。
初陣の時にも経験したことであるが、山賊退治においては、それが如実に出る。
それとは、明らかに強そうに見える兵に向かってくる敵は、そんなにはいないという事実であった。
特に山賊は、基本、弱そうな敵――獲物に襲い掛かり、その者からいろいろな物資を奪うのが目的である。
山賊からすれば、何を好き好んで、ホースに乗った強そうな敵――猛獣に襲い掛からなければならないのかということであった。
実際、昨年六月の山賊退治は、ツヴァンソを始めとする主力部隊が動いた先に、敵(山賊)は現れず、たとえ彼らの棲み家を発見したとしても、そこで山賊に遭遇することはほとんど無かった。
そして、山賊たちは自分たちを退治しようと動いてくる主力の前には、決して姿を現さないが、その代わりに後方からついてくる山賊退治のための食料物資を運ぶ部隊には、集団で襲いかかる。
結果、食料は奪われ、主力部隊も山賊退治の任を途中で断念せざるを得なくなるということであった。
このことが、ツヴァンソにとって初陣の経験に加え、非常に良い体験として頭と身体に刻みこまれた。
〔参考 用語集〕
(人名)
クーロ(マデギリークの養子。ツヴァンソの兄)
ゲイルーナ(新しい四隊長の一人)
ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。小隊長)
トルメンタ(新しい四隊長の一人)
プラデラ(四隊長の一人)
ホッホ・エーベネ(ツヴァンソ隊の一員。兄弟)
マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
(地名)
エーレ城(エーレ地方の主城)
タシターン地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)
(その他)
四隊長(エンテ将軍の配下の四人。死隊長とも呼ばれている)
小隊(この時代の最も小規模な集団。十人で編成される)
小隊長(小隊は十人規模の隊で、それを率いる隊長)
ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)




