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【052 エーレ城奪還戦(十三) ~脱出口侵入戦(中)~】


【052 エーレ城奪還戦(十三) ~脱出口侵入戦(中)~】



〔本編〕

 ツヴァンソと小隊のメンバーは、エーレ城脱出口本道で待ち伏せていたミケルクスド國兵二十人と、戦端を開く。

 道幅が二十メートルしかない地下道における戦いなので、実際に戦っている兵は三人から四人。

 ツヴァンソと戦っている敵兵は、身長二メートルの長身の兵。

 武器は剣ではなく、長さ三メートルの円筒形の鉄棒である。

 黒光りするその鉄棒は、直径五十センチメートルはあろうかという太さの棒で、明らかに敵を力に任せて殴り殺すために作られた武器であった。

 そう考えて身長二メートルの敵兵を観察すると、体重百キログラムは超えるであろう巨漢兵。

 しかも鎧からはみ出すように見えている肉塊のそれは、鍛え上げられた筋肉の塊であり、百キロの巨漢にしては、動きも速い。

 ツヴァンソがそう見立てたその巨漢の敵兵こそ、敵エンテ将軍の新しい四隊長の一人、ゲイルーナであった。

 敵ゲイルーナからすれば、偶然に見つけたエーレ城の脱出口とはいえ、そこから敵兵が侵入してくるとは露ほども思ってもいなかったため、寝ずの上、敵と戦う機会のない、この場所への配置には不満しかなかった。

 ゲイルーナは、この日の午後九時に四隊長のプラデラから、ここの見張りを命じられはしたが、翌日の午前零時までに何も起こらなければ、部下に任せて、自分はこの場で一眠りするつもりであった。

 明らかにそれは命令違反ではあるが、そのぐらいのことを気にするようなゲイルーナではなかった。

 しかし……、任務についてから一時間ほど過ぎた午後十時十分。

 突然、敵兵がこちらに走ってやってきたのであった。

 ゲイルーナからすれば、この奇跡に小躍りしたいぐらい喜ぶ。

 自慢の鉄棒に、敵の生血いきちを吸わせることができるのであるから……。


「何?! 敵兵がさきほど発見されたばかりの脱出口から侵入してきただと!!」

 脱出口に配備された兵の一人が、エンテ将軍の四隊長の一人プラデラの元に急ぎ訪れ、状況を報告した時のプラデラの第一声がこれであった。

「はい! 敵兵は十人であるため、ゲイルーナ様は特に報告する必要はないとおっしゃいました。しかし万が一と思い、報告に上がった次第であります!」

「報告するのが、当たり前だ!!」

「はい! 申し訳ございません!」

「いや、お前の判断が正しいということを言っている。ゲイルーナの馬鹿は、そういったところが全く隙だらけだ!!」

 プラデラはそう言い、不祥な、かつての部下ゲイルーナのことを嘆く。

 昨年、エンテ将軍がこのエーレ城を落城させ、その後、エンテ将軍がエーレ地方各所を攻略している際、この城の留守を命じられたのが、四隊長の一人プラデラである。

 そのため、昨年のマデギリーク軍との荒れ地の戦いには参戦していなかったが、その荒れ地の戦いに敗れたエンテ将軍が撤退した際、拠り所となったのが、このエーレ城であり、そこの留守居役を命じられたのであるから、他の三人の四隊長に比べ、武力的な能力はやや劣るが、代わりに戦略などに明るく、特に籠城戦といった守りの戦に秀でているのが、このプラデラであった。

 実際、エンテ将軍がエーレ城に籠り、聖王国の故アルエット将軍がこの城を囲んだ際、エンテ将軍が度々、城から兵を率いてアルエット軍に逆に攻めかかったりしていたが、これなども城内にプラデラがいるという絶対的な信頼があるから出来ることであった。

「敵が十人だからといって油断してはいけない。それが何かの罠かもしれない! 脱出口が発見されてから、敵が侵入してくるタイミングが非常に早い! 我らの脱出口の発見は偶然のものと思いたいが、今回の侵入と何らかの因果関係があるやも知れぬ! そのように敵の策略という線が完全に拭えないが、実はただの偵察兵で、この脱出口を利用し、度々城の内外を行き来していた兵なのかもしれない。

 それであれば、敵に我らが脱出口の存在を知ったことが、今回ので知られてしまったわけだ! 明日、すぐに敵兵が城内にどれほど潜んでいるかを大掛かりに調べなければいけないが、とにかくはその十人は絶対に逃がしてはいけない! 偶然か策かは不明だが、すぐにトルメンタに百の兵を率いさせて、脱出口への応援に向かわせよ!

 罠であれば、大挙して敵が脱出口から侵入してくる可能性もある! 百で足りなければ、すぐに補充する! すぐにトルメンタにこのことを伝えよ!」

「ハッ! 直ちに!」

 プラデラからの指令を受けたその兵は、すぐにトルメンタの詰めている兵舎に向かった。

 トルメンタも、ガルバージョ、オロルという二人の四隊長の抜けた後に新しく四隊長として加わった者であり、トルメンタも、脱出口に配備されたゲイルーナも、元々はプラデラの部下であり、プラデラの推薦によって、四隊長になったという経緯がある。

 ……なので、今から数年後は分からないが、今のところ、推薦した元上司のプラデラに二人とも頭が上がらない。

 プラデラからの指令を託された兵が、トルメンタの兵舎に辿り着いたのは、プラデラのところを辞して五分後。

 その十分後には、トルメンタは百の兵を率いて脱出口のある武器庫に到着する。

 同日の午後十時五十分、後一時間と少しで日が変わろうとしている四月一五日の出来事であった。


 ツヴァンソは、目の前の巨躯の兵――新しい四隊長の一人、ゲイルーナと一対一で戦っている。

 ツヴァンソの得物は、刀身一メートル五十センチの剣。

 対するゲイルーナの得物は、長さ三メートル、直径五十センチメートルの太い棍棒である。

 武器の長さもさることながら、ツヴァンソが女性にしては長身である百七十センチメートルに対し、ゲイルーナの身長はそれを上回る二メートルである。

 リーチの差が決定的で、圧倒的にツヴァンソの方が不利であった。

 そのせいか剣術に優れているツヴァンソが、明らかに受け身一辺倒であった。

 十時十分過ぎから始まったツヴァンソ小隊十人と、ここで警戒の任に当たっていたゲイルーナ率いる二十人の遭遇戦は、既に一時間が経過している。

 エーレ城の脱出口におけるこの遭遇戦は、脱出口の幅が二十メートルなので、実際に敵と戦えるのは、四人ぐらいである。

 そのため、ゲイルーナの方が倍の人数がいるからといって、必ずしも有利ではない。

 むしろ、数の優位性が活かせる包囲が狭くて出来ないため、個々の兵の力がものをいう性質の戦いであった。

 そう言った視点でこの戦いを俯瞰ふかんすると、ツヴァンソは、難敵ゲイルーナを相手に苦戦気味ではあるが、ツヴァンソの両脇で戦っているツヴァンソ小隊の兵は、かなり剣術に優れており、ツヴァンソの右側の二人は、二人で都合五人の敵を倒している。

 さらに、ツヴァンソの左側の一人に至っては、四人の敵をこの一時間で倒していた。

 つまりこの一時間の戦いで、ツヴァンソ小隊は一人としてかすり傷一つも負っていないのに対し、ゲイルーナ率いる二十人のミケルクスド國兵には、九人もの被害が出ている。

 十人対二十人で始まったこの戦いは、十人対十一人となったが、一時間経った今、ミケルクスド國兵はさらに百人増員された。

 四隊長プラデラの命を受けたトルメンタの援軍が到着したからである。

 その時、ツヴァンソの周りの最初の三人の兵は、三人とも全て後方に引き、代わりに新たな三人が前に出る。

 最初に戦った三人は、後方に退き、人心地つくべく小休止に入った。




〔参考 用語集〕

(人名)

 アルエット(聖王国の将軍。故人)

 エンテ(ミケルクスド國の将軍)

 オロル(四隊長の一人。故人)

 ガルバージョ(四隊長の一人。故人)

 ゲイルーナ(新しい四隊長の一人)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。小隊長)

 トルメンタ(新しい四隊長の一人)

 プラデラ(四隊長の一人)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(地名)

 エーレ城(エーレ地方の主城)


(その他)

 四隊長(エンテ将軍の配下の四人。死隊長とも呼ばれている)

 小隊(この時代の最も小規模な集団。十人で編成される)

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