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【051 エーレ城奪還戦(十二) ~脱出口侵入戦(前)~】


【051 エーレ城奪還戦(十二) ~脱出口侵入戦(前)~】



〔本編〕

「ツヴァンソ様! こちらでございます!」

 一人の兵が、ツヴァンソをエーレ城脱出口の途中まで案内する。

 ツヴァンソと彼女の小隊のメンバー九人は、その兵の案内に従い、後をついていく。

 今、ツヴァンソが案内されているのは、エーレ城脱出口の五つある支道の一つであった。

 エーレ城の脱出口は、本道と支道の二つで構成されている。

 脱出口の本道は、エーレ城の南門の近くにある建物の隠し扉から地下へ繋がる道であり、幅二十メートル、高さ三メートルの比較的地下道にしては規模の大きなものであった。

 そして本道はその建物から南側に伸びており、エーレ城の南の城壁の下を通り、さらにそこから南方向に続いている。

 城が包囲された時のための脱出口なので、南の城壁からさらに二キロメートル先まで本道は伸びている。

 そして、二キロを超えた辺りから道が五本に枝分かれし、その五本の枝道に分かれているところまでが、脱出口の本道にあたる。

 そしてその五つの枝道が、脱出口の支道にあたり、支道は五つとも幅二メートル、高さ一メートルなので、かがまないと先に進むことが出来ない。

 五つの支道の長さは二百メートル程度しかなく、そこから先は緩やかに上に伸び、地上に出られる作りになっていた。

 その出口は、森の中の大きな木のうろであったり、川沿いの洞穴の奥であったり、様々である。

 つまり、仮に一つが見つかっても、他から脱出が可能なように作られているのであった。

 いずれにせよ、ツヴァンソは今、その支道の一つから脱出口に入り、本道の入口に向かっているところであった。

 脱出口であるから、本道の出口と表現した方が適当かもしれないが……。


 さて、脱出口からの侵入に当たって、一つの懸念要素は、一年間エーレ城に籠っていたエンテ将軍が、その脱出口の存在に気付いているか否かの点であった。

 仮に気付いているのであれば、そこからの侵入は、完全に敵の罠に飛び込んでいくことになるので、いくらツヴァンソの小隊であっても、全滅は必至である。

 しかし、エーレ城の脱出口は巧妙に隠されており、さらに元城主のデスピアダトが迂闊うかつ過ぎて、そもそも本城のある中央から、脱出口のある南門付近に向かうどころか、本城からも脱出出来なかったことが、今回の場合、逆に功を奏した。

 仮にデスピアダトが本城を脱出して、南城壁近くの脱出口のある建物を目指しているところで捕捉されていたとしたら、敵エンテ将軍は、脱出口の存在を念頭に置き、エーレ城奪取後、南城壁周辺を探索させ、結果、脱出口を見つけていたであろう。

 とにかくマデギリーク将軍は、エーレ城攻めを始めて早々に、脱出口の五つの支道から、偵察兵を侵入させ、本道さらに南の脱出口の入口にあたる建物の中並びに周辺を入念に調べさせた。

 既に数人のマデギリーク兵が、その脱出口から侵入し、エーレ城内に潜伏して情報を収集し、また脱出口から文字通り脱出し、マデギリーク将軍に城内の様子を報告している。

 マデギリーク将軍直属の偵察兵で、敵に見つかり、尾行されたりするような迂闊な兵は一人としていない。

 四月九日の攻城戦から五日後の一四日、マデギリーク将軍はエーレ城の脱出口が敵側に発見された可能性は全くないとの結論に達した。

 その上でのツヴァンソへの脱出口侵入作戦の依頼であり、翌一五日の午後十時、ツヴァンソ小隊は五つの支道から本道へ切り替わる地点に辿り着いたところであった。


 ツヴァンソと九人の小隊メンバーは、エーレ城の脱出口本道を、城内に向けて走る。

 距離にしておよそ二キロメートルであるから、ものの十分で、脱出口本道を走りきり、城内に侵入できる予定であった。

 しかし、残り百メートルを切った箇所にいるはずのないミケルクスド國兵がいた。

 数にして二十人程度であったが、その中の一人は二メートルを超える巨躯きょくの兵であった。


「エンテ将軍! 夜分、申し訳ございません! お耳に入れておくべき事柄がございます!」

 エーレ城籠城軍の将、エンテ将軍の寝所に一人の指揮官が訪ねてきた。

「プラデラか! いかがした?」

「はい! 内容といたしましては、明日でも良かったかという事柄ではありますが、少しでも早くお耳に入れた方が良いかと思いまして……」

「お前が、そう判断したのであれば間違いはあるまい。どのようなことだ!」

「はい! このエーレ城から城外へ脱出できる隠し通路を、偶然ではありますが発見いたしました! おそらく城が落ちる際に、城主が城外に脱出するための秘密の通路と思われます」

「何?! それは、いつのことだ!」

「それが、今より一時間前の午後八時過ぎ、巡回をしていた兵が、偶然に見つけました!」

「今よりわずか一時間前だと……」

 報告を受けたエンテ将軍は、しばらく目を閉じて考える。

「偶然とはどういうことだ! それに、この一年あまり、そのような脱出口なるものを、何故見つけられなかった?! ……いや、プラデラ。お前のことを責めているわけではない。四隊長の一人として、ずっとこの城を守り続けたお前の能力を疑っての発言ではない!」

「そうですね。私といたしましても、この規模の城であれば、脱出口の一つぐらいはあるという認識で調査はいたしておりましたが、城の中央部の本城ではなく、南側の城壁に近い建物――それも兵舎などが立ち並ぶ中の武器庫の一つにそのようなものが存在するとは、さすがに調べきれるものではございません!」

 四隊長の一人プラデラも、見つけられなかった自分を恥じている様子はなかった。

「今回、その武器庫の一つから火の手があがり、それを鎮火した際に偶然見つけたわけでございますので……」

「火の手? 敵によるものか?」

「いえ、どうやら本日使った火矢の一つが完全に火を伏せていなかったようで、その火が他の武器に延焼しました。巡回していた兵士がすぐに見つけ、幸い火がそれほど燃え広がる前に消しましたので、大事には至らなかったようでありますが、そのボヤ騒ぎで、焼けた武器などを処分しておりました折に、武器庫の奥に武器によって隠されていた扉を発見いたしました!」

「そうか!」

「その扉を開けますと、緩やかな傾斜で下っていく道が続いており、それはやがて地下から、南側の城壁の下を通じている作りになっておりました。道幅は二十メートルほどですので、道としては広いほうかと……。明日、この道がどこへ繋がっているかを早速探ってみます。

 まさか、敵がこの道を利用して攻め寄せるとも考えにくいですが、少数であれば、この道を使って侵入することも可能と思いましたので、とりあえず今日のところは、中に二十人ほど兵を配置しておきました。ゲイルーナに任せましたので、仮に敵が侵入してきても問題はないかと……」

「ゲイルーナか! お前が推薦した新しい四隊長の一人だな!」

「はい! 昨年亡くなったオロルに勝るとも劣らない剛の者! まあ、ゲイルーナからすれば、寝ずの役目の上、そんな敵が来るはずのない脱出口の見張りなどと、渋々ではありましたが……」

「それでも、ゲイルーナからすれば、四隊長に推薦したお前の命令に従わないわけにはいかないからな。その件については、万事お前に任せる! わざわざの報告、ご苦労であった!」

 そう言うと、エンテ将軍は寝所の奥に消えた。




〔参考 用語集〕

(人名)

 エンテ(ミケルクスド國の将軍)

 オロル(四隊長の一人。故人)

 ゲイルーナ(新しい四隊長の一人)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。小隊長)

 デスピアダト(エーレ地方の元領主。エンテ将軍に殺される)

 プラデラ(四隊長の一人)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(地名)

 エーレ城(エーレ地方の主城)


(その他)

 四隊長(エンテ将軍の配下の四人。死隊長とも呼ばれている)

 小隊(この時代の最も小規模な集団。十人で編成される)

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