【049 エーレ城奪還戦(十)】
【049 エーレ城奪還戦(十)】
〔本編〕
その後、クーロは立ち上がり、静かに目を開き、おもむろに弓を構え、矢をつがえる。
そして、一射、一射ゆっくりと射、その矢は、全て的の中心を射抜いてく。
五百を数え、的が原型をとどめなくなったことにより、新しい的に変えられる。
千を超え、二度目の的の交換が成された辺りから、クーロの矢を射る一連の動きが、徐々に速くなっていく。
それに比例するよう、射られた矢の速度も増し、的に当たる矢の強度も増し、的の交換が五百に一回から、三百、百、最後には十射あまりで的が原型をとどめなくなっていった。
的交換の役目の者が急遽増員され、ひっきりなしに的を替えるようになる。
最終的には、的を常に二十用意して、原形の保てなくなった的を次から次へと替えていくこととなった。
そして最後の方は、実戦における連射級の速度となっていた。
ついに矢筒を補充する担当も急遽作られた。
クーロは連射になっても、一射すら的の中心を外さない。
矢が中心を捉え始めた八日目には、仮に一万連続命中を達成するにしても、翌日の九日目をまるまる費やすであろうと思われた大方の予想を、あっさりと覆えし、八日目の夕刻には、一万回連続命中の課題を達成したのであった。
続いて、翌日の九日目であるが、この日、クーロから的までの距離が五十メートルに変更されていた。
いきなりパインロが、十メートルから五十メートルと五倍の距離に大幅に変更したことに、この修練を手伝っていた者たちは、一様に驚き戸惑ったが、クーロは、彼らの戸惑いの感情をあっさり上塗りするような結果をたたき出す。
的への距離が一気に十メートルから五十メートルに変更になったにも関わらず、クーロが一万回連続命中の課題を達成してしまったのであった。
それも一回の挑戦で……。
しかし、驚きはそれで終わりではなかった。
翌十日目には、七十メートルの距離で、さらに翌十一日目には百メートルの距離で、それぞれ課題をクリアした。
十日目は二回目の挑戦でのクリアであったが、十一日目は一回目でクリアした。
そして十二日目には、それまで静止していた的が動く的に変更された。
騎乗した兵の頭上に的を付けて、それを狙わせたのであった。
兵達はホースを操り、縦横無尽にクーロの周りを駆けるが、その一万回連続の課題も、その日のうちにクーロは達成する。
そして、翌十三日目に至っては、前日と変わらず兵達がホースを操り、クーロの周りを駆けるが、この日は、ホースや兵のいろいろな箇所に的が取り付けられていた。
兵の身体に十か所、ホースの馬体に十五か所の計二十五か所に的が取り付けられていた。
それをつけた騎兵が十六騎、クーロの周りを駆ける。
一番近い距離の騎兵がクーロから三十メートル。
そこから五メートル間隔で、百メートルの距離までの十六騎である。
むろん、騎兵は自由に駆けることが許されているので、距離が三十メートルの騎兵が、五十メートルの距離になることも当然ある。
いずれにせよ、クーロの周りを十六騎、一騎につき二十五の的なので、計四百の的がクーロの周りを動き回っているわけであるが、それもクーロは全て正確に射抜いていく。
それも時々、パインロから的の指定がクーロに対して、発せられる。
十六の騎兵には数字が付されており、二十五の的は、二十五色で色分けされていた。
パインロからの的の指定は、その数字と色。
例えば、「十二の青!」とか「四の橙!」といって感じに……。
的の指定があった時には、クーロはその指定された的を直ちに射抜かなければいけないのである。
それでも、クーロはその課題でも一万回連続的中の課題を達成させた。
パインロの課題の難易度の上がり具合は、周囲の者からすれば呆れるほど急激なものであったが、それを課題の初日に達成していくクーロに、この訓練に携わった者は、一種神懸った雰囲気を感じたぐらいであろう。
十四日目にあたる二週間目は、どのような課題になるのだろうと周りが思った矢先の、父マデギリークからの今回の戦いへの急な参戦命令である。
このパインロの訓練は、わずか十三日で打ち切られたのであった。
さてその頃、エーレ城攻略の主力であるマデギリーク将軍率いる一万の軍勢は、敵エンテ将軍が籠るエーレ城を四方から攻め立てていた。
前にも述べたように、マデギリーク将軍と三人の副官が、それぞれ四方向を受け持つ、力押しによる攻城戦である。
城に籠るのはミケルクスド國のエンテ将軍と九千の兵。
エーレ城自体は、難攻不落といったような堅城ではないが、兵数の上ではほぼ互角であるので、そう簡単に堕ちることはない。
四月九日から始まった攻城戦も五日目が経過した。
幸いなことに、敵ジュスウ将軍が率いる強襲補給軍は、副官コロンフルが率いる一万の迎撃軍や、それに配属されたクーロ小隊を中心とした弓兵部隊の活躍により、エーレ城に辿り着くまでに、多くの時間をかけさせられている。
それでも、一刻でも早くエーレ城を陥落させなければ、強襲補給軍がエーレ城に辿り着いた途端、両国の兵の数と質の差から、ここから撤退しなければならないのはマデギリーク軍の方であった。
聖王国第一の実力者と謂われているマデギリーク将軍のエーレ城からの撤退は、既に一年以上エーレ城を敵に奪われたままでいるソルトルムンク聖王国にとって、エーレ地方を永遠に失う状況に陥りかねない。
そのように敵国に領土を侵食されていき、それを奪い返せない現象は、国家存亡の危機である。
それでなくても既に五十年前から聖王国の領土は、他国の侵略をほしいままされ、二十年前の龍王暦一八〇年には、海岸線のある領土を全て失い、海を持たない国家になってしまったのである。
今回のエーレ城奪回は、聖王国が滅亡するか否かを左右するぐらい重要な局面なのである。
そのような中、マデギリーク将軍は、一つの大きな賭けともいえる勝負にうって出る。
それを託されたのが、マデギリークの養女ツヴァンソであった。
〔参考 用語集〕
(人名)
エンテ(ミケルクスド國の将軍)
クーロ(マデギリークの養子。小隊長)
コロンフル(マデギリーク将軍の副官)
ジュスウ(ミケルクスド國の将軍)
ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。小隊長)
パインロ(クーロの弓の師であり、クーロの隊の一員)
マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
(地名)
エーレ城(エーレ地方の主城)
(その他)
小隊(この時代の最も小規模な集団。十人で編成される)
副官(将軍位の次席)
ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)




