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【046 エーレ城奪還戦(七) ~主力小隊の役割Ⅱ~】


【046 エーレ城奪還戦(七) ~主力小隊の役割Ⅱ~】



〔本編〕

 魔術的伝達が出来る高位の魔兵がいないのであれば、後は物理的な伝達方法に頼るのみ。

 書簡をしたためるひまなどはないので、後は騎兵や飛兵といった機動力のある兵が直接伝える方法しかない。

 ジュスウ将軍の主力部隊に、夜襲の事実をなるべく長い間知られないようにするには、これから運搬部隊から発せられる伝令兵全てを、狙撃にてこの場で倒すということである。

 ……なので、クーロのいる主力小隊の配置箇所は一箇所。

 一箇所というよりは、一地点エリアといった方が正確だが、つまりは夜襲を受けた運搬部隊よりエーレ城寄り(東側)で、運搬部隊とジュスウ将軍主力部隊の中間点ということになる。

 あえて中間点とはいったが、限りなく運搬部隊に近い位置であることは明白であるが……。

 いずれにせよ、運搬部隊からジュスウ将軍主力部隊に夜襲の伝令として向かう敵の騎兵と飛兵を狙撃するために、クーロ主力小隊は手ぐすねひいて、その地点で待ち伏せをしていたのであった。

 弓兵の数こそ五人ではあるが、パインロを筆頭とする上位弓兵たちが三人いるので、これは非常に脅威な狙撃部隊といえる。

 しばらく後、一騎の飛兵が、西から東へ飛んでいく。

 わしの頭とかぎ爪並びに翼を有し、獅子の胴と後ろ足を持つ飛行動物。

 鷲獅子しゅうしし又は有翼獅子ゆうよくししと呼ばれるその動物――一般的にはグリフォンと呼ばれるその飛行動物の背に一人の兵が乗っていた。

 第三段階サードランクの飛兵、グリフォンナイトであった。

 時間帯と方向から、夜襲を受けたミケルクスド國補給運搬部隊が、五キロメートル先を進軍しているジュスウ将軍主力部隊に送った火急の伝令兵で間違いないであろう。


 その飛兵に、一本の矢が迫る。

 グリフォンナイトが、その矢の存在に気付いたか否かは判断しようがないが、次の瞬間、矢はグリフォンの首筋に深々と突き刺さり、グリフォンは一声ひとこえ、鋭い叫び声をあたりに響かせながら、地面に向かって一直線に落ちていく。

 何とか墜落を免れようと、騎乗している兵は、手綱を駆使してバランスを取ろうとするが、その兵の首筋に二本目の矢が突き刺さる。

 高度五百メートルを飛んでいた飛兵が、いとも容易く射落とされたのであった。

 どの位置から狙ったのかは不明ではあるが、上位弓兵による狙撃は驚異的であった。

「射落とした飛兵の位置と、落ちていく兵に二射目を射ったことから、これはズグラの狙撃でありましょう。ヒルルであれば、あそこで二射目は放ちません! グリフォンは確実に倒したのでありますから、背に乗っていた兵が体勢を立て直せるはずはなく、仮に墜落した兵が生き残ったとしても、伝令としての役割は失われているので、そのような二射目は、無駄を嫌うヒルルは絶対に射ないからです!」

 これはパインロが、共にいるクーロに言った言葉であった。

 クーロの主力小隊は、夜襲を受けた敵補給運搬部隊のいる場所から、東に三百メートルの地点にいた。

 ここはちょうど、山岳地帯の中でも移動できるルートが絞られる難所であり、騎兵が早馬として移動できるのは、一本の山道に限定されていた。

 ここであれば、騎兵で伝令を伝えるには、この山道を利用するしかなく、仮に他のルートを選んだ場合、かなり大きく迂回するか、四十度以上の傾斜の岩が隆起している悪路を進むしかなく、移動すること自体はあるいは可能かもしれないが、早馬の伝令という観点から考えると、全く意味をなさないものであった。

 せめて、小型竜ドラゴネットに騎乗する最終段階トップランク竜騎兵ドラゴンナイトであれば、それ悪路の伝令も可能かもしれないが、残念ながら補給運搬部隊にはドラゴンナイトはいなかった。

 これについても、クーロはマデギリーク将軍の間諜から、その情報を入手済みであった。

 つまり、騎兵による伝令は、その一本の山道だけを押さえていれば阻止するのは困難ではない。

 当然、道を必要としない飛兵による伝令には、この手法は意味を成さないが、それでも千メートル級の山々が連なるこの一帯は、突風が山々にぶつかり、複雑かつ激しい流れを作り出し、飛兵が飛べる範囲もおのずと限定されていたのであった。


 今、山道付近にいるのは、クーロ、パインロ、オフクと槍兵スーシャの四人である。

 後の二人、パインロの直弟子でもあるズグラとヒルルは、その四人がいる地点から、それぞれ南北二百メートル離れた地点にいる。

 二人の役割は、道を必要としない飛兵を狙撃すること。

 彼ら二人は第三段階のスナイパー、それも既にいつでも最終段階のドラゴンスナイパーにクラスチェンジしてもいいぐらいのレベルの持ち主たちであった。

 二人がドラゴンスナイパーにならないのは、それぞれに理由があって、生真面目なヒルルは、師であるパインロと同じドラゴンスナイパーになるのは失礼に当たるというものであり、破天荒であるが、実力はヒルル以上であるズグラは、師のパインロの腕を超えた時点で、ドラゴンスナイパーになると誓っていたからであった。

 いずれにせよ、中央にパインロ、左右にズグラとヒルルが配置されたことで、この空域の上空八百メートル以下は、南北に一キロメートルの縦の面地点サーフェイスエリアが、格好の狙撃場と化してしまったのであった。

 昼間に大量の飛兵でこの地点を抜けるのであれば、三人しか上位弓兵が存在しないため、何ら困難ではないが、夜襲を受けた補給運搬部隊が、夜半に単発の飛兵を伝令として送るには、この八百メートル、一キロメートルの面地点サーフェイスエリアは、あたかも高さ八百メートルの城壁が一キロメートルにわたりそびえたっているのと同様であった。

 これは、高度八百メートルが限界のグリフォンや、それ以下の高度しか飛べないペガサス、ジャイアントホークにとって、ここを抜けて伝令を送るということが一切不可能であるということを意味していた。


「騎兵が一騎、山道を駆けて来ます! クーロ様は、騎馬ホースの足を狙って下さい! オフクは、騎兵の首筋を狙うよう……!」

 パインロが、クーロとオフクにそう伝える。

 基本、弓兵は魔兵ではないので、魔術の修業はしないし、当然魔術を行使しない。

 しかし、弓兵として活躍するに当たり、いくつかの初歩的な魔術は学び、実際に使う。

 その一つが、目を強化する魔術。

 具体的には、ファルケのように遠くの敵が見え、さらにその敵が接近してくるのを確実に捉えられる、遠近両用の目。

 さらにオイレのように、漆黒の闇でも日中のようにはっきりと物事を捉えることが出来る暗視の目。

 普通の目から、この二つを併せ持つ目へと目を強化する魔術であった。




〔参考 用語集〕

(人名)

 クーロ(マデギリークの養子。小隊長)

 ジュスウ(ミケルクスド國の将軍)

 ズグラ、ヒルル、オフク、スーシャ(クーロ小隊の隊員)

 パインロ(クーロの弓の師であり、クーロの隊の一員)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(地名)

 エーレ城(エーレ地方の主城)


(兵種名)

 第三段階(兵の習熟度の称号の一つ。下から三番目のランク。サードランクとも言う)

 最終段階(兵の習熟度の称号の一つ。一番上のランク。トップランクとも言う)

 ドラゴンナイト(最終段階の小型竜に騎乗する騎兵。竜騎兵とも言う)

 グリフォンナイト(第三段階の鷲獅子グリフォンに騎乗する飛兵。鷲獅子飛兵とも言う)

 スナイパー(第三段階の重装備の弓兵。いわゆる『狙撃手』)

 ドラゴンスナイパー(最終段階の小型竜に騎乗する重装備の弓兵。竜弓兵りゅうきゅうへいとも言う)


(竜名)

 ドラゴネット(十六竜の一種。人が神から乗用を許された竜。『小型竜』とも言う)


(その他)

 グリフォン(鷲の頭と翼、獅子の体を持つ動物。『鷲獅子しゅうしし』とも言う)

 ジャイアントホーク(巨大な鷹。人を乗せて飛行できる 巨鷹きょおうとも言う)

 小隊(この時代の最も小規模な集団。十人で編成される)

 ペガサス(馬の体に白鳥の羽を持つ動物。『天馬てんま』とも言う)

 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)

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