【043 エーレ城奪還戦(四) ~クーロ部隊結成~】
【043 エーレ城奪還戦(四) ~クーロ部隊結成~】
〔本編〕
むろん、ジュスウ将軍部下の何人かは現地調査の重要さを認識しており、独自に現地調査を行ってはいたが、上役のジュスウ将軍が、全くその部下の労に理解がなかったため、個々の地点については、それぞれ独自で調査した部下が知っても、その情報が軍全体に共有されることはなかった。
さらに進軍行路の全体を、誰も把握していないため、調査した地点と全く調査されていない地点が、渾然一体になっているのに、誰も気づくことが出来ない。
仮に、その状態に気付いている者もいたかもしれないが、個々の現地調査では、自ずと調べる範囲に限界があり、その気付いている者が、全てを知ることは不可能であった。
唯一、その立場にあるジュスウ将軍が、そういった問題意識を一切持ち合わせていない。
それが最大の問題ではあったが……。
したがって強襲補給軍は、至極当然の如く、そのような未調査の地に、足を踏み入れることになったのであった。
一つ一つは大した過ちや怠りではないこのような事柄が、いくつも蓄積された結果、それが大きな失態へ直結するという良い例であった。
そしてそれが『戦争』という、修正が利かない上、やり直しのできない大一番ともなればなおさらであり、長い目で俯瞰した場合、その一事が國の根幹にまで影響を及ぼしかねない事態へと発展してしまうこともある。
そして今回のジュスウ将軍の件が、それに当てはまる。
むろんそれは、千年に及ぶヴェルト史を知っている我々の目から見た場合の話にはなるが……。
さて、聖王国のコロンフル軍より、さらにミケルクスド國との国境付近にまで到達している一団がある。
クーロの率いる部隊がそれである。
クーロは小隊長であるので、クーロが率いる部隊であれば、彼を含めた十人の小隊であるが、実際に今、彼は五十人規模の部隊を率いている。
これについては、コロンフル軍がエーレ城から敵補給軍足止めを目的として、ミケルクスド國との国境に向けて進軍を始め、丸一日行軍した後の九日の夜の軍議まで、時間を一旦巻き戻す。
「クーロ様! お疲れのところ申し訳ございません!」
「コロンフル副官! ここでは、副官殿の方が上官です。『様』の敬称は不要です」
「そうですか! それではクーロ小隊長殿と……」
マデギリーク将軍の副官コロンフルは、九日の夜の軍議を、明日以降の自軍の進軍ルートの確認などで三十分費やし散会させた後、クーロのみを軍議の場に残した。
「クーロ殿、既にマデギリーク将軍から申し渡されている事柄ではありますが、いよいよそれを実行に移そうと思っております。クーロ殿! よろしくお願いいたします」
「分かりました、副官殿。それで、お願いしておりました小隊は揃いましたでしょうか?」
「そこはご安心ください! 昨日、エーレ城出発前にマデギリーク軍全体から、クーロ様のご要望通りの小隊をピックアップいたしました。隣室に四人の小隊長たちを控えさせておりますので、今、ここにお呼びいたします。
……それからすみません! やはりクーロ様の方が呼び慣れておりますので、クーロ様で呼ばせていただきます」
ニコリと笑うコロンフル副官に、クーロも苦笑いしながら頷く。
「仕方ないですね。それではパインロ先生にもご同席していただきましょう。その七人で最終打ち合わせいたします」
「クーロ様! 『先生』の呼称もこの場では不適当ですぞ。あくまでも小隊の一人なので、パインロと呼び捨てていただかないと……」
パインロが、クーロとコロンフルの会話を隣室で盗み聞きしていたのであろう、笑いながらそう言って、この場に入ってくる。
「すみません! パインロ先生で呼び慣れておりますので、それでご容赦下さい。それに今回は父マデギリーク将軍の指示で、小隊五つを束ねる役を私が任じられましたが、むしろ今回はパインロ先生がメインでありますので、あくまでもパインロ先生のご指示に、私も従います!」
クーロのこの言葉に、コロンフル副官もパインロも思わず笑ってしまい、後から入ってきた四人の小隊長は、その光景を見て、不思議そうにお互いに顔を見合わせた。
「クーロ様!」
ひとしきり笑った後、コロンフルが口を開く。
「こちらの四人が、弓兵を中心として編成された小隊の小隊長たちであります。右からバンディレインブ、リアンファ、ヤキンソシュ、ソキウスであります。各々方、こちらがクーロ様、そしてパインロ様だ!」
「「「「よろしくお願いいたします」」」」
四人の小隊長は、クーロとパインロに深々と頭を下げる。
四人の小隊長からすれば、クーロが同格の小隊長といえども、マデギリーク軍に所属している以上、クーロがマデギリークの養子であるという素性は当然全員が知っているし、その弓の師匠パインロについても、小隊長全員が弓兵である以上、知らない者はいないぐらい有名な、弓兵からすれば神のような存在であった。
「今回の作戦に当たり、山岳地帯で運用されている馬を特別に見繕いました。六十頭ほどでありますが……」
コロンフルが、クーロに伝える。
「ありがとうございます。コロンフル副官殿! それでは、ここで我らの役割を皆に伝えます」
クーロが四人の小隊長に作戦内容を語り始める。
「これから、副官殿が用意されたホースに乗り、我々はこの軍より先行して、ミケルクスド國との国境付近へ向かい、そこで敵補給軍に奇襲を仕掛けます。
先ず、私の小隊員を一人ずつ四小隊に加えます。彼らは、私からの矢による伝令の意味を、それぞれの小隊に伝える役割を担います。そしてホースは予備の二頭を含み、各小隊に都合十三頭をお渡しいたします! 何かここまでで質問は……」
「……一つご質問が? よろしいでしょうか、クーロ様!」
小隊長の一人が尋ねた。
「はい、どうぞ!」
「私は、バンディレインブと申します。今の話によりますと、クーロ様を含めて五十一人は、共に行動するのではなく、小隊ごとに行動するように聞こえましたが、それで間違いないのでしょうか?」
「その通りです! ただ、各小隊は私の位置から直線距離で一キロメートル以上は離れない距離で行動していただきます。それにつきましては、矢による伝令で、各小隊に加わりました私の小隊のメンバーが伝えますので、御心配には及びません」
クーロは、マデギリーク将軍の養子ではあるが、あくまでも兵としての立場は小隊長のため、同格の小隊長たちに、隊員が『伝える』という表現を用い、決して『指示する』とは言わなかった。
こういった機微なる心遣い出来るのが、クーロの美点である。
実際には、矢による伝令の意味を知らない他の小隊員にとって、クーロから派遣された小隊のメンバーの指示に従う以外のことはあり得ないので……。
それでも、他人の感情を一切考慮せず、作戦内容だけを端的に伝えるようなことを、クーロはしなかった。
「ところで、矢による伝令とはいかなるものなのですか? 私はリアンファと申します。実際にそういった事柄につきまして初めて耳にいたしますので……」
〔参考 用語集〕
(人名)
クーロ(マデギリークの養子。小隊長)
コロンフル(マデギリーク将軍の副官)
ジュスウ(ミケルクスド國の将軍)
パインロ(クーロの弓の師であり、クーロの隊の一員)
バンディレインブ、リアンフル、ヤキンソシュ、ソキウス(クーロ部隊に組みこまれた四人の小隊長)
マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
(地名)
エーレ城(エーレ地方の主城)
(その他)
小隊長(小隊は十人規模の隊で、それを率いる隊長)
副官(将軍位の次席)
ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)




