【042 エーレ城奪還戦(三) ~愚将~】
【042 エーレ城奪還戦(三) ~愚将~】
〔本編〕
龍王暦二〇一年四月七日に、ミケルクスド國の首都であり王城でもあるイーゲル・ファンタムを出発したジュスウ将軍率いる一万の強襲補給軍は、二日後の九日にソルトルムンク聖王国のエーレ地方国境に到達する。
マデギリーク将軍が予想した日数より一日遅かった。
さらに九日、この一帯は大雨に見舞われジュスウ将軍は十日の昼過ぎまで、強襲補給軍をこの場から進軍させなかった。
確かに天候は荒天ではあったが、軍をあえて留め置くほどの悪天候ではない。
司令官であるジュスウ将軍が、大雨での進軍を嫌ったのが大きな理由ではあるが、強襲補給軍としてもそれほど急ぐ必要がなかったのも事実であった。
エンテ将軍が籠っているエーレ城の食料が尽きるのは、四月末日。
今いる地点から、四日でエーレ城に到達できる故、四月一一日に進軍を始めても、同月の一五日もしくは、どんなに遅くても一七日には到達できる計算であった。
つまり、強襲補給軍がエーレ城に一七日に到達してなお、エーレ城内の兵糧は十日分以上の余裕がある。
むろん、聖王国軍による強襲補給軍に対する妨害も考えられるが、それでも一万の強襲補給軍を食い止めるには、弱兵の聖王国軍であれば三万は必要であった。
今、エーレ城を攻略している聖王国軍は二万。
ジュスウ将軍の目算の一つ一つが少々楽観的ではあったが、それでも失態に直結するほど楽観的な発想ではなかった。
ただ、一点の事柄を除いて……。
その一点とは、マデギリーク将軍のエーレ城攻略が、それまでの『消極的な籠城戦』から、一万の軍勢全てを投入する力業に訴えた『超積極的な攻城戦』に切り替わったという点である。
しかしこれは補給軍の司令官ジュスウ将軍だけに、敗戦となるこの戦いの全責任を押し付けるのは、少々酷といえる。
なぜなら、ミケルクスド國本国しかり、エーレ城に籠るエンテ将軍しかり、あるいは聖王国本国ですら、皆、故アルエット将軍が行っていた籠城戦を、マデギリーク将軍が踏襲するという見方であったのであるから……。
一〇日午後二時、ミケルクスド國とソルトルムンク聖王国の国境辺りに駐屯していたジュスウ将軍の元に、エンテ将軍の遊撃部隊として、エーレ城外に駐屯し暗躍していたフレーネからの早馬が届く。
早馬からの報告は、エーレ城が敵一万の力攻めによる攻めを受けているという内容であった。
さらに一時間後の午後三時、エーレ城内からグリフォンナイトによる緊急の援軍要請がジュスウ将軍の元に届く。
早馬ならぬ、早飛兵によるこの緊急援軍要請の中身は、その力攻めの凄まじさを如実に物語っていた。
マデギリーク将軍自らが指揮する一万の軍勢は、四方全ての城壁に兵が取り付き、一気にエーレ城を落とそうと攻めている。
そして、城壁への兵の取り付きのみならず、巨大な投石器や、城壁に直接激突する特殊な兵器などを用い、城門、城壁の区別なく、それらを破壊しようと攻めかかる。
それも昼夜の区別なく……。
さすがのエンテ将軍も、強襲補給軍の一刻も早い到着を要請すべく、グリフォンナイトやペガサスナイトといった飛兵を放った。
しかし、その飛兵のほとんどが、それを見越して配置されていた聖王国の弓兵によって射落とされ、たった一騎のグリフォンナイトだけがその攻撃を逃れ、ジュスウ将軍の元までたどり着いたのであった。
そのグリフォンも、翼や身体に数本の矢が刺さっており、ここへ辿り着く三十分前ぐらいには、空も飛べなくなり、最後はグリフォンが地面を駆けながらここまで至ったという顛末であった。
辿り着いたグリフォンは、その場で死亡し、城からの要請を伝えた兵士も、そのまま疲労から報告後は気絶してしまう有様であった。
さすがに、この報を受け取った時のジュスウ将軍の顔色は、真っ青であった。
後、二十日近く日数に余裕があると思われた補給軍のエーレ城到着が、刻一刻を争う事態となったのであるから……。
ジュスウ将軍は慌てて、補給軍の一刻も早い進軍を部下に命じるが、誰もが寝耳に水の事柄であった。
その上、指揮官のジュスウ将軍が、ヒステリックなパニック状態で喚き散らし、その指揮官の精神状態がそのまま部下達にも伝播し、結局、補給軍が進軍を始めたのは、報告から二時間遅れる午後五時であった。
出発に二時間費やしたのも問題であるが、それ以上の問題は、慌てふためいたせいで、準備が終わった部隊から順次進軍を開始したため、軍編成がままならない状態での出発であったこと、そしてもう一つが進軍の時間が夜半になってしまったという点であった。
ジュスウ将軍の指揮官としての資質に大いに問題があるのは事実ではあるが、今回の補給軍の役割を軽んじ、そのような将軍を指揮官に任命したミケルクスド國中央政府の責任も、大いにあると言わざるを得ない。
さて、四月九日早朝にマデギリーク将軍より、ミケルクスド國強襲補給軍迎撃の任を任されたコロンフル副官率いる一万の軍は、一一日の明け方にはミケルクスド國との国境まで後一日で着く行程のところにまで到達していた。
エーレ城からミケルクスド國国境まで、四日の日数が必要な道のりのうち、三日分を予定より一日早く到達したことになる。
このあたり、ミケルクスド國ジュスウ将軍の強襲補給軍の鈍重さと、対照的な迅速さとであるといえる。
こういう一つ一つの積み重ねの差が、戦いの勝敗を大きく左右する。
本来、ミケルクスド國と、ソルトルムンク聖王国エーレ地方の国境からエーレ城までは、直線距離にすれば百キロメートルに満たないので、平原であれば一日半で辿り着ける。
しかしこの一帯は山岳地帯であるので、四日という倍以上の日数は必要であった。
山々のすそ野をぬうように移動できる山道などの道はあるが、大軍が移動するには狭く、高い絶壁が両側に迫っているような場所もあり、そのような場所は死地と呼ばれ、敵に待ち伏せされたら一巻の終わりといえる。
実際に、アルエット将軍もそういった場所で敵に待ち伏せされ、戦死したのであるから……。
そういうことで大軍での移動に四日という日数は絶対に必要であり、特に食料などを積んだ荷車を率いている補給軍であれば、さらに一日から二日以上、移動日数を多めに見るべきであった。
しかし、強襲補給軍の司令官ジュスウ将軍は、そういった現地調査の労を全くといっていいほど行わず、さらに本人がそういった地道な努力を全く評価しない将軍であった。
〔参考 用語集〕
(人名)
アルエット(聖王国の将軍。故人)
エンテ(ミケルクスド國の将軍)
クーロ(マデギリークの養子。小隊長)
コロンフル(マデギリーク将軍の副官)
ジュスウ(ミケルクスド國の将軍)
フレーネ(四隊長の一人。上位弓兵)
マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
(地名)
イーゲル・ファンタム(ミケルクスド國の首都であり王城)
エーレ城(エーレ地方の主城)
エーレ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)
(兵種名)
グリフォンナイト(第三段階の鷲獅子に騎乗する飛兵。鷲獅子飛兵とも言う)
ペガサスナイト(第三段階の天馬に騎乗する飛兵。天馬飛兵とも言う)
(その他)
グリフォン(鷲の頭と翼、獅子の体を持つ動物。『鷲獅子』とも言う)




