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【038 弓部隊の奇襲】


【038 弓部隊の奇襲】



〔本編〕

「しかしそのアルエット将軍が、敵の策にまりいきなり戦死したのじゃ!」

 横からマデギリークが口を挟んだ。

 ナヴァルに説明をさせて、佳境の部分だけ口を差し挟む身勝手なマデギリークに対し、ナヴァルは一瞥したが、表情は一切変えず、そのまま黙々もくもくと説明を続ける。

「今、旦那様のおっしゃった通り、エーレ城に籠っていたエンテ将軍は、ミケルクスド國本国に強襲補給部隊を要請し、ミケルクスド國本国もその派遣に応じました。その情報を、エンテ将軍は包囲しているアルエット将軍の耳にも入るようわざとリークし、アルエット将軍はその敵補給部隊を迎撃すべく、自ら五千の兵を率いてエーレ城包囲網から一旦離れました。

 しかし、強襲補給部隊の援軍がエーレ城に向かっているという情報は本当のことでありましたが、その援軍到着の日時やルートは全て嘘でありました。援軍到着の日時は、実際の援軍到着より数週間も早い日程がアルエット将軍の耳に入るようにし、そのルートも、迎撃に赴いたアルエット将軍の軍勢を死地におびき寄せる罠でありました。

 アルエット将軍は自ら五千の大軍を率いて、嘘情報の敵部隊迎撃に向かいましたが、その最中、敵の奇襲に遭い、将軍はそこで命を落とされました!」

「一つ質問してもいい?」

「はい、ツヴァンソ様なんなりと……」

「偽情報で五千の軍勢が敵におびき出されたのは分かったけど、敵は全てエーレ城に籠っていたわけではないの? だって、エーレ地方はミケルクスド國にとっては敵地である上、他に拠点も確保していないのであるから……。どこにアルエット将軍を奇襲する兵が存在していたの?」

 ツヴァンソの質問に、クーロも頷く。

 まさにクーロも同じ疑問を抱いていた。

 おそらく、ツヴァンソが問いかけなければ、クーロが代わりに問いかけていたであろう。

 しかしクーロにとって、驚嘆に値したのは、その質問が、ツヴァンソの口から飛び出したことであった。

 クーロが知っているツヴァンソがする問いかけではない。

 ツヴァンソはあれこれ考えず、力で全てをねじ伏せようとするタイプだったはずだ。

 これはツヴァンソも、クーロと同様一年前の初陣から、いろいろ変化したということであろう。

 『成長』という名の変化を……。

「どうやらエンテ将軍は、兵全てをエーレ城に籠らせたわけではなかったようです。目立たないよう数人ずつエーレ地方の各所に潜伏させていたようであります。恐らく、アルエット将軍の軍勢に奇襲を仕掛けたのは、その潜伏していた者たちでしょう」

「しかし、いくら目立たぬよう分散させたとはいえ、それが全て集まってもせいぜい百か二百程度の数。そのような小勢に五千のアルエット軍が……?」

 ツヴァンソの問いかけ。

「むろん、百や二百で奇襲を仕掛けても、五千の軍勢を破ることは出来ません! 実際に、城外へ潜伏していた敵兵は二百程度。そして、奇襲を仕掛けられた五千の内、その奇襲で失った兵は、奇襲した兵と同数程度の二百! しかし、その二百の中に、アルエット将軍と主だった指揮官並びに参謀が都合五十人含まれておりました!」


「つまり、その奇襲は弓兵による狙撃ということか!」

「はい! クーロ様のおっしゃる通りでございます。二十メートルほどの絶壁が左右にそびえたっているルートを、ちょうどアルエット将軍の中央本隊が通過しようとしたまさにその時でありました! 左右の絶壁の上から、矢が射かけられました! 矢の数は一時いちどきに百本程度でありましたが、連続で、そして確実に将軍を始めとする幹部方を狙っての攻撃でありました。

 アルエット将軍の周りの兵もその狙撃に一早く気づき、将軍の周りに大盾を持った重装備の兵を連ねましたが、その盾の隙間をかいくぐるように矢が射かけられ、アルエット将軍はひたいと左胸を射抜かれ戦死されました。額も胸も兜や鎧で守られておりましたが、そのゴールドの兜と鎧を貫くように突き刺さっておりました!

 将軍はその場で即死され、将軍の兵たちも、すぐに絶壁を登り、敵奇襲部隊に攻撃を仕掛けようといたしましたが、敵は、アルエット将軍を倒してすぐに散開したため、一兵も討ち取ることが出来ませんでした!」

 クーロは、ナヴァルのこの話を聞き、初陣の時のことを思い出していた。

 荒れ地の三日目の戦いにおいて、クーロがいた小隊のすぐ隣の小隊長を射抜いた弓兵の存在について……。

「その弓兵の奇襲は、おそらくはエンテ将軍の四隊長の一人、フレーネの仕業であろう。エンテ将軍は、フレーネをあえてエーレ城に入城させず、遊撃部隊として城外に潜ませていたのであろう」

 マデギリークの言ったフレーネという弓兵は、おそらく自分が遭遇した弓兵と同一人物であろうと、クーロは思った。

 遭遇といっても、クーロはその弓兵の矢を弾いただけなので、顔を直接見たとかの遭遇ではないが……。

「まあ、そういったことでアルエット将軍は不幸な死を遂げられた。今、将軍の副官が引き続きエーレ城を包囲は続けてはいるが、敵の強襲補給部隊がエーレ城に到達すれば、先ず間違いなく、敵エンテ将軍の軍勢は息を吹き返す。

 場合によっては、包囲軍である我が軍の方がエーレ地方から追い落とされ、せっかく昨年、エーレ城に敵を封じ込めたのが、最悪水泡に帰してしまう。聖王陛下はそれをうれい、わしに緊急でエーレ城攻略を任じてきたのじゃ。

 因縁あるエンテ将軍に、わしが直々じきじきに引導を渡せる機会が巡ってきた。お前たちにも、今回は小隊長として、この攻城戦に参加してもらう!」

 マデギリークのこの言葉で、この場は締めくくられた。

 クーロにとっては二戦目にあたる戦いとなる。




〔参考 用語集〕

(人名)

 アルエット(聖王国の将軍)

 エンテ(ミケルクスド國の将軍)

 クーロ(マデギリークの養子。小隊長)

 聖王陛下(時の聖王ジュラーグレースのこと)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹)

 ナヴァル(マデギリークの執事)

 フレーネ(四隊長の一人。上位弓兵)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(地名)

 エーレ城(エーレ地方の主城)

 エーレ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)


(その他)

 ゴールド(この時代において最も硬く、高価な金属。現在のゴールドとは別物と考えてよい)

 四隊長(エンテ将軍の配下の四人。死隊長とも呼ばれている)

 小隊(この時代の最も小規模な集団。十人で編成される)

 小隊長(小隊は十人規模の隊で、それを率いる隊長)

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