【032 兵種変更(クラスチェンジ)】
【032 兵種変更】
〔本編〕
“答えたくても答えられない……”
マデギリークの答えは、奥歯に物の挟まったような曖昧なものであった。
これは、マデギリークの快活な性格から考えて、大いに違和感を覚えた。
「……なぜなら!」
「なぜなら……?!」
マデギリークの言葉を、知らず知らずにクーロも繰り返していた。
「わしにもよく分からないのじゃ!」
「はぁ~」
意外過ぎるほど意外なこの答えに、クーロは呆れ、ため息をつくような一言を発するのが精一杯であった。
「……父上! 私をからかっているのですか?!」
若干の怒気が含まれるようなクーロの言葉。
クーロが思い切って、真剣に問いかけたのに対し、マデギリークがそれをはぐらかしたと感じたからであった。
『お前は自分の才能が何かを自分で気づいていないのか?!』
もしマデギリークからこう呆れられ、問い返されるのであれば、まだクーロは納得できる。
自分の才に気づいていないという未熟さは恥ずかしいが、それでもそれならば、マデギリークから何らかの答えか、少なくともヒントのようなものは教えてもらえるはずだからである……。
そのぐらい思い切って尋ねた問いに対し、『わしにもよく分からないのじゃ!』という答えは、どういうことであるか?
「待て! クーロ。お前が訝しむのは、もっともじゃ!」
マデギリークが慌てて言い方を変えた。
「よく分からなくなった……、というのがわしの正直な答えじゃ!」
それでも、クーロにはまだうまく伝わらないであろうと思い直したマデギリークが、三度言い方を変える。
「お前が五年前に狼を仕留めるのを見た時、お前に槍の才能があるとわしは直感した! それも天賦の才があると信じて疑わなかった! しかしじゃ……」
クーロに何も言わせないよう、マデギリークが接続詞でいったん言葉を区切り、しばらくしてまた語り始める。
マデギリークにしては珍しく、誤解のないよう言葉を選んでいる様子であった。
「しかしじゃ……、お前を引き取った後、わしがお前につけた槍の先生から、お前は物覚えが悪いと伺った。一つの技を習得するのに非常に時間がかかり過ぎると……。
それだけであれば、わしもあまり気にはしないが、槍の先生以外のお前につけた各方面の先生方も、異口同音、そのようなことを口になさる。わしも流石に、初めて自分の見る目が曇ったかと少々へこんだものだ。あるいは、年を取ってその能力が衰えたのかと……。
しかし、よくよく先生方の話を吟味すると、知識の理解度、技の習得などは並みの者より遅いが、どの先生もそれぞれの分野における知識や技についての方向性が間違っているということは、誰も言っておられなかった!」
「父上! それはどういうことでありましょうか?」
「クーロ! つまりそれがどういうことなのかは、わしにも分からない。ただ、それはすごいことだ! 他ならぬこのわしが分からないのであるから……」
クーロは一瞬ポカンとしかけた。
しかし、クーロはマデギリークの養子となって五年、その間にマデギリークという養父のスケールの大きさは十二分に理解できている。
人物眼の確かさ、剣術の達人のみならず全ての才能が、どれも超一流を超えた天才のマデギリーク。
その養父が、何故か分からないと言っている、戦略戦術家としても天才の域である養父マデギリークが……。
それは確かに凄いことなのであろう。
「しかしじゃ……」
先ほど、マデギリークが発したこの接続詞を、もう一度彼は呟く。
「実は今回のお前の初陣で、何となくではあるがそれが分かった気がした! あくまでも感覚的なので、言葉にはうまく表せないが……」
何か答えになっているのか、なっていないのか分からないようなマデギリークの答えであった。
「それでも、これだけははっきりと言える! わしの人物眼はいささかも衰えていないということ。そして、そのわしがお前を将軍になるほどの天賦の才を持っていると感じているということ。
初陣でのお前の働き。一つ一つの要素がすごいというよりは、むしろ全体的にすごいと感じた! つまり、お前はすごかったのだ!! 優秀な講師陣から教わったからといって、初陣であれだけの能力を発揮できることは、まずないと言い切れる。
わしが初陣の時でも、お前のあそこまでの働きは出来なかった! わしの人物眼は確かだが、そのわしが明確に答えられないこと自体が、わしの眼如きで、お前の全てを知り得ることが不可能だということなのかもしれない。
曖昧な物言いしかできなくてすまぬが……。五年前の狼の刑の折のお前の槍の才能は確かに本物で、それは今のお前を見ても変わることはない。ただ、わしにはその時、お前の槍の才能にしか気づけなかったということだ。
おそらくは、お前の才は槍術のみに特化されているのではないのだと思う。そこについては、わしでは曖昧にしか答えられないが……」
クーロからすれば、マデギリークからきちんとした答えがもらえるものと期待していたので、あまりにも意外過ぎるこの答えに驚く。
それでも、決して父が、答えをはぐらかしたのではなく、本当に曖昧にしか答えが出せないのは十分に分かった。
これは、クーロからしたら、一つの答えを得たと一緒である。
クーロの方も感覚的なレベルの曖昧さではあるが……。
「もし、父上のお答えがそれであれば、私は、父上に一つお願いがございます!」
「ん?! 改まってなんじゃ?」
「私は小隊に加えるメンバーについて、あれこれ考えておりましたが、実はもう一つ、場合によっては自分自身の兵種変更も思案しておりました。いかがでしょうか?」
「兵種変更! それは、お前が今の槍兵から別の兵種に変わるということか?」
「はい! 私には槍の才能があるということで、父上が私を養子にされたと申しておりましたので……、兵種変更することは、父上の期待を大いに裏切ることになるため、思案してはおりましたが、絶対にしてはいけないと考えておりました。しかし、父上の今の言葉を聞き、決心いたしました!
今の段階では不確定ではありますが、場合によっては、槍を手放すかも知れません! それをお許しいただければありがたいですが……」
「構わん! クーロ。お前がそう思うなら、そうすると良い! ただ、お前であれば、槍を完全に手放す必要はないと、わしは思うぞ。
お前が他の兵種の修行をしつつ、片手間の余暇で槍を扱っても、おそらくは常人以上にはなると思うからな。まあ、槍については、お前が今後どうしようが、それはお前の勝手にすればよい」
「ありがとうございます。父上」
クーロは心の底から、この偉大なる父に謝意を述べた。
そして改めて、自分が目指すべき目標が、この父――マデギリークであることも、今日、はっきりと認識できた。
「……ところで、クーロ!」
マデギリーク将軍が尋ねる。
「お前は何に兵種変更するつもりなのだ?!」
「はい!」
クーロは即答する。
「弓兵を考えております」
〔参考 用語集〕
(人名)
クーロ(マデギリークの養子)
マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)
(兵種名)
ランスポーン(第一段階の槍兵)
ボウポーン(第一段階の弓兵)
(その他)
ヴォルフ(この時代の獣の一種。現在の狼に近い種)
小隊(この時代の最も小規模な集団。十人で編成される)




