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【030 兵の質 ~建国当初の事情から~】


【030 兵の質 ~建国当初の事情から~】



〔本編〕

 しかし、八大龍王の統治によって、最強戦闘民族である古代ヴェルト民族の戦闘能力に関して、國によるばらつきが生じてくる。

 前述したように、第八龍王ウバツラによって建国されたソルトルムンク聖王国は、初代ウバツラの強権ゆえの恩恵を受け、肥沃な大地と、その土地をほとんど利用しなくても食べるに困らないほどの、他国からの上納生産物によって、生活が成り立っていた。

 この当時のソルトルムンク聖王国は、仮に五年連続の大飢饉だいききんでも起こらない限り、民が飢えることがないと謂われるぐらいであった。

 そして、龍王暦元年から二百年代までの間で、三年連続の大飢饉が最長で、それが二百年間に二度だけあった。


 しかし、聖王国以外の七國は、そういうわけにはいかなかった。

 特に北部の痩せた地の四國――バルナート帝國、カルガス國、ミケルクスド國、ジュリス王国は、豊作の年でさえ、半分は聖王国への上納であるため、全ての民に食料を滞らせないようにするのが精一杯な状態であった。

 南西部の比較的肥えた地の三國――クルックス王国、ゴンク帝國、フルーメス王国にしても、その事情にそれほどの差異はなく、ひとたび飢饉でも起これば、食料確保に国政レベルで対処しなければいけないほどであった。

 むろん不作だからといって、盟主國であるソルトルムンク聖王国が、生産物の上納の量を減らしたり、免除したりするはずもなく、聖王の中にはそれを実施しようとした徳の高い者もいたらしいが、そのような王は、ウバツラ龍王の干渉によって、王の地位を追われ、新しい聖王に交替させられたりしたらしい。

 いずれにせよ聖王国以外の七國は、国家存続のため、国内においては、土地を開墾したり特産物の開発などに努め、国外においては、少しでも自国の領土を増やすため、他国に侵攻したりしていた。

 聖王国以外の七國にとって、国力をつけることが、生き残るための必須条件であったのである。

 そして、ウバツラ龍王が守護している聖王国に攻め込むわけにはいかないので、それ以外の七國同士で寸土を奪い合うのに、多くの血が流れた。


 そのような過酷な条件下において、自然と七國の民は精強にならざるを得ず、逆に攻め込まれる心配もなく、食にも困ることがない聖王国の民は、当然ながら脆弱になっていったのであった。

 おそらく、この頃の聖王国の民の中には、ヴェルトの慣習によって、十歳の時に武器を得ても、その後一度もその武器を手にすることすらなく、一生を終わった者も多くいたであろう。

 この辺りの事情は、最新の歴史研究や、新たに出土した遺跡や文献によって初めて知り得た史実であった。

 しかし、龍王暦も百年を過ぎるころには、七國もそれぞれ独自のやり方で、生産物の増産や、その國特有のいわゆる特産物を獲得でき、ある程度、国家運営にもゆとりが出てきていた。

 むろん聖王国に、そのような生産物の増産や、新たな特産物のことなどを知られたら、生産物の追加上納などを言い出しかねないので、そのことはどの國においても最重要極秘事項トップシークレットであった。

 いずれにせよ、特権的な状態に胡坐あぐらをかいている聖王国からすれば、他国の新たな生産物などについて調査する必要性もないため、そのようなことに力を注ぐことなどせず、國として軍隊も在るには在ったが、ほとんどの兵が暇を持て余しており、血の気の多い者達が、時折、いわゆるチャンバラごっこに明け暮れるくらいしかすることがなかったようであった。


 そういった状態が一五〇年も続いたヴェルトの國別の民の戦闘能力が同じであるはずがなく、仮に兵の強弱を五段階で表したとしたら、北方で最も精強な兵を有するバルナート帝國が『五』から『四・五』、同じく北方のカルガス國、ミケルクスド國、ジュリス王国が『三・五』から『三』、そして比較的穏やかな気候の南西部のクルックス王国、ゴンク帝國、フルーメス王国が『二』、そしてソルトルムンク聖王国が『一』ないしは『〇・八』といったところであろう。

 この五段階については、あくまでも比較上の数字であるので、『二』が『一』の単純な倍の兵力ということではないが、それでも、バルナート帝國の兵は一人で、ソルトルムンク聖王国の兵の三人分に相当すると捉えても、あながち間違いではないであろう。


 さて、その状況下での龍王暦一五〇年の初代ウバツラ龍王の急逝きゅうせいである。

 その二年後に各國が聖王国への生産物上納を一切拒否し、聖王国に一気に攻め込んできたのも当然の帰結である。

 とにかく、聖王国の領土が、五十年の間に四分の一しか奪われなかったのは、単純に国土が広大で、他国の人口規模からいって、統治の手が余ること、そして聖王国の領土が一切開墾されていないので、思ったほど肥沃ひよくでなく、さらに、拠点となるべく城や砦といった建造物が、あまりにも少なかったという事情からである。

 それは当然のことで、他国の生産物でほぼ生活がまかなえ、他国の侵攻を一切心配しなくてよい聖王国にとって、土地を耕したり、また他国からの侵攻を守るための拠点づくりにいそしむといった必要性が全く無かったためであった。

 その聖王国の体たらくな体制が、逆に幸いし、結果、五十年で四分の一しか領土を奪われないという現象を生み出したのである。

 領土は奪うより、それを維持するほうがはるかに難しい。

 他の七國からすれば、聖王国の領土を奪い過ぎるのは、かえってその土地を開墾したり、守るための拠点づくりを構築したりと、余計な労力がかかってしまう。

 そこは、聖王国以外に他に七つの國があるのも、聖王国にとっては幸いしたといえよう。

 他國からすれば、せっかく聖王国から領土を奪っても、深く侵攻し過ぎたことによって、逆に、聖王国以外の他國に、元々の自国領を奪われるという事態も招きかねない。

 そういう意味では、七龍王と七國は、初代ウバツラ龍王と聖王国に大いなる積年の恨みはあったが、一五〇年間、七國は生き残るためとはいえ、各國で領土を奪い合っていた間柄から、隣国間で蓄積されていった確執かくしつ憎悪ぞうおも相当なものといえる。

 そのような事情がうまく重なり合い、聖王国はまだ四分の三の領土を保って存続してはいたが、海洋を奪われ、徐々に侵食されている状況から、そう遠くない未来、聖王国の領土は、ほとんど無くなるのではという危惧は常にあった。

 龍王暦二〇〇年の聖王国は、そういった状況の中において、なんとかそこからの打開策を見出そうとしていたのであった。

 聖王国滅亡の危機感が、聖王国民の間でかなり現実味を帯びた最初は、おそらく龍王暦一八〇年の聖王国が海岸線の領土を全て奪われ、海を持たない国家となった時であろう。

 そこに至るまでの一五〇年からの三十年は、他国と接している領土の民は、さすがに目前で領土侵攻が行われているので、聖王国存亡についての危機感はあったが、比較的中央の王城に近いところに住んでいる民からすれば、対岸の火事とまではいかないまでも、国家存亡の危機感を抱くほどではなかったと思われる。

 しかし、ある意味海洋というヴェルト大陸からの逃げ場を失ったという驚くべき事実は、聖王国国民全体に国家存亡の危機を一様に抱かせるのに十分な事柄であった。

 そして、その打開策が国策レベルで課題に上がってきたのは、一八五年の前聖王の崩御ほうぎょにより、第五代聖王としてジュラーグレースが即位してからであった。

 ジュラーグレース聖王が即位するまでの領土侵攻に対応する防衛策は、攻め込まれた各地方地方で、そこの地方領主がそれぞれに対策に当たっているだけであって、国家全体としての国策は一切なかったのである。




〔参考 用語集〕

(八大龍王等神名)

 優鉢羅ウバツラ龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した初代第八龍王。龍王暦一五〇年に急逝)


(人名)

 ジュラーグレース聖王(ソルトルムンク聖王国第五代聖王)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 バルナート帝國(ヴェルト八國の一つ。北の強国)

 カルガス國(ヴェルト八國の一つ。北の強国)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 クルックス王国(ヴェルト八國の一つ。東の国)

 ゴンク帝國(ヴェルト八國の一つ。東の国)

 フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国)

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