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【029 ヴェルト略史 ~八國建国当初~】


【029 ヴェルト略史 ~八國建国当初~】



〔本編〕

「お前も、知識としてのヴェルト史は、史の先生から教わっていると思うが……」

 マデギリークが、自國の現状について、クーロに語り始めた。

 このマデギリークがクーロに語った内容は、大枠であるヴェルト史の話なので、あえて、マデギリークの語りにしないで記す。


 ヴェルト大陸が、八大龍王によって八國に統合された年から龍王暦が始まるわけであるが、そのヴェルト大陸支配統制の主導権イニシアチブを握っていたのが、八人の龍王のうち筆頭龍王にあたる、第八龍王優鉢羅ウバツラであった。

 すなわち、クーロやマデギリークの國――ソルトルムンク聖王国の建国神にあたる龍王だが、彼は歴代の龍王の中においても突出した力を有し、その上強権的かつ支配的な性格であったため、他の七龍王を圧倒し、七龍王をまるで自分の家臣のように扱っていた。

 本来、八大龍王という八人の神々は、第一龍王や第二龍王という呼び名のように、順列にはなっていたが、立場的には全員が対等であり、第一龍王が第八龍王に意見を述べる、あるいはその意に従わないなどといったことが普通なので、その当時の八大龍王の有り様の方が、むしろ異質であった。

 おそらくはヴェルト大陸を支配統合しようと考えたのも、このヴェルト統合初代のウバツラ龍王であり、他の七龍王がそれに従ったという事情だったのであろう。

 いずれにせよ、ヴェルト大陸は八國に統合されたが、その国家の有り様は不平等なものであった。


 まず、ヴェルト大陸において、最も肥沃で温暖な中央から南部の土地を、ウバツラ龍王の建国したソルトルムンク聖王国の領土とし、他の七龍王の國は、大陸の残った部分を七つに分ける形での建国となった。

 そして、龍王暦の時代に入ってからも、相変わらずウバツラ龍王の強権さは相変わらずで、他の七龍王建国の國に対し、聖王国へ臣従するといった盟主國、従属國のような関係を構築させていった。

 その当時の七國は、各国の生産物の五割を、ソルトルムンク聖王国に一方的に納めさせる『上納じょうのう』という義務を課せられたのであった。

 ソルトルムンク聖王国だけ『聖』という言葉が國名に入っているのも、そのような国家間体制の名残であろう。


 しかし、龍王暦一五〇年、初代ウバツラ龍王が急逝する。

 死因は不明であり、ウバツラ龍王を煙たがっていた七龍王による毒殺や暗殺といった物騒な噂も当時は飛び交ったが、結局のところその真相は未だに明らかになっていない。

 いずれにせよ、初代ウバツラ龍王が身罷みまかったことにより、その息子にあたる神が、二代目ウバツラ龍王となる。

 まだ、人の寿命で青年になったばかりである百歳の二代目ウバツラ龍王は、初代ウバツラ龍王の専横のあおりで、他の七龍王からの激しい反発をもろに受ける。

 そしてそれは、地上のソルトルムンク聖王国にも大いなる影響を及ぼす。

 他の七國が初代ウバツラ死去から二年後、それまでの生産物上納の義務について、一斉に拒絶の意を表明し、その表明とほぼ同時に、聖王国の領土への武力侵攻を開始したのであった。

 その上納拒絶と聖王国領土への武力侵攻について、七國が一斉に始めたところから、七龍王の計画的な取り決めによるのは間違いないであろう。

 さて、初代ウバツラ龍王は、聖王国以外の七國が共同して聖王国に対抗してくることを唯一恐れ、聖王国の東西南北の四方向に七國を分散して建国させることにより、互いに共同戦線を張りにくくさせていた。

 しかし、今回それが裏目となり、その七國による東西南北全方位から、同時武力侵攻を遂行させてしまうという最悪の状況に陥ってしまったのであった。

 聖王国の領土は全方面から侵食され、ついに龍王暦一八〇年に、聖王国が領土としていた南西部に広がる海岸線沿いを、ミケルクスド國とフルーメス王国によって奪われてしまう。

 これによりソルトルムンク聖王国は、海を持たない國となってしまった。

 そして、一八〇年以降も聖王国は各國からの領土侵攻を受け続け、ついに聖王国は、初代ウバツラが逝去した龍王暦一五〇年当時の領土に比べ、概ね四分の一程度の領土を失うこととなる。

 この初代ウバツラ龍王逝去の龍王暦一五〇年から現在(二〇〇年)までを、聖王国の国民は『聖王国冬の時代』と呼び、それは今なお継続中である。


「とにかく聖王国が、四方向全て、敵国である七國に包囲されているという地理的に不利な状況によって、『聖王国冬の時代』と呼ばれる暗黒時代を迎えてしまったが、全方向敵国という地理的要因とは別に、我が國は、もっと根本的な問題を抱えている!」

 マデギリークが、クーロにここまでのヴェルト史を語った後、こう続ける。

「聖王国の民が最弱という点だ!」と……。


 引き続き、それについて簡潔に記そう。

 前提として、古代ヴェルト大陸の民は、古今東西の地域並び時代と比して、最強の民族と謂われており、これについては、現在においても覆されていない通説である。

 大陸内で争いが絶えない乱世であるということも、そのような民をはぐくむ土壌であるが、さらに古代ヴェルト大陸は、強大かつ凶暴な竜が普通に闊歩しているという時代環境のため、おのずと家族や自らを守るために、そのような竜とも戦わなければならなかった。

 ヴェルトの民は十歳になると、槍、剣、弓、魔法の杖の四種類の武器の中から一つを選び、『ポーン(兵士)』という称号を得る。

 これについては、男女卑賎の区別がない。

 貧しい者の中には、そのような武器を入手できない者もいたが、そういった者には、生活に余裕のある者が協力し合って、武器を用意したりしていたという。

 これは、慈善行為からではなく、自分たちの仲間に一人でも多くポーンを生み出し、他からの攻撃に対抗させるといった意味合いからである。

 結果、十歳に達した者全てがポーン(兵士)になるという慣習が、古代ヴェルトの長い歴史の中で構築され、最強の戦闘民族が誕生したのであった。

 例えるなら、民の全員が西洋の騎士ナイトや、日本の武士モノノフであるといった感じである。

 さすがに龍王暦になってからは、ヴェルトの民は、民と呼ばれる『自由民』と、自由がなく民としての勘定に数えられない『奴隷』に大きく階層が作られ、奴隷がポーンになることは無かった。

 奴隷に同じようにポーンになる機会を与えた場合、いつヴェルトの自由民が、奴隷の反逆で殺されるかもしれないという危惧から、そのようになったと謂われている。




〔参考一 用語集〕

(八大龍王等神名)

 優鉢羅ウバツラ龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した初代第八龍王。龍王暦一五〇年に急逝)

 優鉢羅ウバツラ龍王(初代ウバツラが逝去後、後を継いだ二代目第八龍王)


(人名)

 クーロ(マデギリークの養子)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)


(兵種名)

 ポーン(第一段階の兵の総称)



〔参考二 大陸全図(龍王暦二〇〇年現在)〕

挿絵(By みてみん)



〔参考三 大陸全図(龍王暦一五〇年以前)〕

挿絵(By みてみん)

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