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【028 小隊長(続) ~クーロ~】


【028 小隊長(続) ~クーロ~】



〔本編〕

「父上! お願いがございます!!」

 クーロが思いつめた顔で、マデギリークの前にこうべを垂れる。

「自分が賜りました小隊長の任! 今の自分では力不足! とても役を全うできるものではございません! 辞退させて下さい!!」

 マデギリークが言葉を発するより先に、クーロはそこまで一気に述べた。

 マデギリークが論功行賞を聖王国の王城で賜り、自分の領土であるタシターン地方に戻った三月三日の翌日にあたる四日のことであった。

 クーロは、マデギリークが三日に戻ったことを知り、その日のうちにマデギリークに会おうとしたが、さすがに戻ったのが夜も更けた午後十時過ぎであったため、取次の者に早急に会いたい旨だけを告げ、翌日午前十時過ぎに二人きりで会うことが叶った。

 クーロが思いつめた表情で、マデギリークが帰還した挨拶もそこそこ吐き出したのが、先の言葉であった。

「ほお~! 小隊長の任が重い?」

 マデギリークは顔色一つ変えず、そう呟いた。

 しかしその顔は、いつもの優しい父の顔であったので、クーロの緊張も幾分かはやわらいだ。

「はい! 自分はこの前の戦いが初陣であります。まだ、わずか一戦で小隊長になれるほどのことは何一つ成しておりません! しばらくは、一兵卒として経験を積むべきかと……」

「……わしは、論功行賞で自分の身内だからといって、えこひいきしたことは一度もないのじゃ!」

 マデギリークが話を続ける。

「むしろ、論功行賞について、身内ほど他人より厳しく査定している。他人であれば、昇格させるところを、身内の場合は昇格させないこともしばしばある。わしの身内の者の役職を考えれば、お前にも分かると思うが……」

「……はい」

 クーロもマデギリークのこの件について、異論はなかった。


「……しかしじゃ!」

 マデギリークの口調がここで変わる。

「初めて、今回の戦いにおける論功行賞では、身内を甘く査定した!」

「そうなのですね! 自分も今回の昇格はそうでないかと……」

「ツヴァンソの一件じゃ!」

 クーロは、てっきり自分の小隊長昇格の件だと思っていたところへの、意外なマデギリークの言葉であった。

「ツヴァンソは、今回の初陣で二つの命令違反を犯した。

 一つが、小隊の一員でありながら、その小隊長の方針を無視し、独断で敵陣に攻めかけたこと。そしてもう一つが、わしのホースを無断で借用したことだ。

 この二つの命令違反は、どちらも死罪に値するほどの重罪だ! しかし、わしはツヴァンソのその罪を不問にした。確かに少しばかりの戦果はあったが、それでも普通に考えれば、死を申し渡す罪! 軽減して、ヴェルトの民の身分を剥奪はくだつし、奴隷に落とすぐらいの罪である。

 それを、わしはツヴァンソの将来性を惜しみ、不問にした。これについて、身内に甘い査定をしたと言われれば、わしはそれへ反論できない!」

 マデギリークの言葉に、クーロは何も言えなかった。


「……いえ、ツヴァンソのことではなく、僕は自分の昇格について、父上がえこひいきをされたのではと……」

 しばらくして、クーロはやっと口を開いた。

「お前の昇格のこと?! 何を馬鹿な……。お前の小隊長への昇格は、誰も異論を差し挟むことができないほどの戦果によってなされたことじゃ! 

 参謀の何人かは、お前を中隊長への二段階昇格でもなんら問題はないと言っていたが、そこはわしの一存で、一段階昇格の小隊長へとどまらせたぐらいじゃ! むしろ、お前の昇格については、わし本来の身内への昇格の厳しさを十二分に発揮させたのじゃ!」

「いえ、父上! 私は今回の戦いで、一人の敵すら自らの手で倒しておりません! ツヴァンソが五人敵を倒したのに昇格が見送られ、僕が昇格するなど、本来あり得ないのでは……」

「ツヴァンソの戦果は、先ほど言った二つの命令違反の罪によって、相殺されているので、それと比べる必要はない。……しかし確かに、お前の昇格は極めて異例であり、本来はあり得ないケースであるのは間違いない。

 長いヴェルトの歴史の中で、初陣の一兵卒が一人も敵を直接倒さないで、小隊長に昇格したのは……。……しかしじゃ!」

 クーロが何か言おうとするのを、すばやく制したマデギリークが話を続ける。

「逆に言えば、真っ当な評価の上に成り立った昇格のあかしである。なぜなら、今回のお前の昇格は、一兵卒のなり得る戦果によるものではなく、中隊長がなし得るレベルの戦果なのだから……。

 お前自身はあの瞬間、無我夢中であって、良く覚えていないかもしれないが、お前は自ら所属していたヘルリン小隊と、それ以外の四つの小隊に対し、それぞれの小隊長に指令を下すことにより、五つの小隊を運用していたのであるから……。

 五つの小隊を運用するとは、五つの小隊の集合体である中隊のちょうが成すべき責務で、お前はそれを見事に遂行した。それも、敵の渾身の突破を、それぞれに認識がない小隊五つで阻止したわけであるから、元々最初から配置されていた五小隊を運用する中隊長より、はるかに高度なことをお前は行ったのだ。

 参謀の何人かが、お前をいきなり中隊長に推す理由はそこにある。ただ、わしは長い目で見た場合、ここはいきなり中隊長より、先ずは一番小さな組織体である小隊の長にするのが、結果、良き指揮官として育っていくと思ったから、小隊長昇格で押しとどめたのじゃ!

 それから、お前は一人の敵も直接自分で倒していないと言ったが、その発想から言うと、わしも今回、一人も直接敵を倒していない。ならば、わしも聖皇陛下に、今回の論功行賞について、ご辞退しなければいけなくなるがな……」

「……」

「それに、お前が小隊長まで辞退するとなると、わしの軍の誰もが納得しないばかりか、わしの軍では、戦果に対して、正当な評価がなされないということになり、わしの元から多くの有能な人材が去っていってしまう」

「いや、それは……」

「……それに、お前が小隊長を辞任するということは、わしがお前を引き取った時の約束事――わしがお前を将軍になれるように育てるので、お前はそれに向かって努力する――を、お前は違えることになる! ならば、わしはお前を養子にし続けるわけにはいかなくなるが……」

「……」

 マデギリークはそこまで言うとニッコリと笑い、クーロの頭に手をおき、なでながら、また話しを続ける。

「まあ、今のは冗談だが、わしは何も気まぐれだけで、お前やツヴァンソを養子に迎えて、将軍を目指そうとさせているわけではない!

 この聖王国という國の現在の事情がその根底にある! この事情についていえば、ツヴァンソの才能を惜しみ、今回、自分の身内に厳しいというわしの信条ポリシーを曲げてまで、ツヴァンソの罪を不問にした理由になるかもしれないな!

 それについては、後でわしからツヴァンソに語っておこう。だが、先ずはお前にその事情について語っておく!」

 マデギリークの顔が、再び真剣な面持ちに変わった。




〔参考 用語集〕

(人名)

 クーロ(マデギリークの養子)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹)

 ヘルリン(クーロの所属している小隊の長)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)


(地名)

 タシターン地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)


(その他)

 小隊長(小隊は十人規模の隊で、それを率いる隊長)

 中隊長(中隊は五十人規模の隊で、それを率いる隊長)

 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)

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