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【024 ふたりの初陣(十六) ~夜襲~】


【024 ふたりの初陣(十六) ~夜襲~】



〔本編〕

 マデギリーク将軍が、話を続ける。

「エンテ将軍配下の四隊長は、いずれも優秀で、その四隊長の活躍で、エンテ将軍はミケルクスド三将軍に次ぐ将軍位に昇ったと謂われているが、さすがに部下の功績だけで、その地位に昇れるはずはない!

 エンテ将軍自身も優秀な将軍の一人であることは間違いない! むしろ、将軍自身が四隊長の輝かしい功績をことさらに誇張させ、自らの評価をそれにもぐり込ませて、わざと目立たなくしていると、わしは考えている。

 自分の能力を、あえて部下の功績で隠すように画策しているエンテ将軍が、明日、どのような策を仕掛けてくるか、わしには想像できない!」

「将軍がそこまで、敵将軍を評されているのであれば、我らとしても油断するわけには参りません!」

 少し敵将軍を、過大評価しているのではと感じつつある参謀が大方であったが、マデギリーク将軍の『人』を見極める目と、本来、豪放磊落ごうほうらいらくな性格でありながら、戦に臨む際に、時として慎重すぎるほど慎重なところがあるマデギリーク将軍が言う言葉である。

 そしてそれが、マデギリーク将軍が長い年月、聖王国筆頭将軍としてあり続け、國の内外からの評価も高い要因であることを、参謀全員が分かっているので、マデギリークのこの方針にあえて異を唱える者はいなかった。

 特に、今日の今日まで、大方がほとんど評価していなかったクーロを十歳の時に、養子として迎え入れたマデギリーク将軍の慧眼けいがんに改めて感じ入ったばかりでもあるので、マデギリークへ対する参謀たちの憧憬どうけいはさらに大きくなった。

「それであれば、敵方からの夜襲も念頭に置いたほうが……」

「うむ! 今日の味方の士気高揚は良いことではあるが、それが敵を軽視するという油断に変わってしまっては、せっかくの戦果が無為に帰すこともある。

 わしがエンテ将軍であれば、敵が思わぬ戦果に気を良くして油断している今夜を、夜襲する好機と捉えるであろう。すぐに大隊長以上に、今夜の夜襲に警戒するよう周知せよ!

 ……それと中央軍の動向はどうなっている?! 後、何日でここに到着する?」

「はい! はっきりしたことは分かりませんが、後三日もすれば、到着すると思われます。本日の早馬からの情報ではありますが……」

「……」

 マデギリークもこの報告には落胆した。

「相変わらず中央の動きは鈍い! こんなことだから、我が國はいつも他国から侮られる! 今回のミケルクスド國の侵攻も、我が國の方が国力は上なのであるから、本来はあってはならないことなのだ!」

 このことについては、ここにいる参謀たち全員の共通する正直な思いであり、皆がマデギリーク将軍のこの言葉に頷いた。

「……いずれにせよ、我らは中央軍が到着するまで、ここでエンテ将軍を足止めするしか手はない! 皆、これからも引き続きよろしく頼むぞ!」

 マデギリーク将軍のこの言葉で、軍議は終わった。


「マデギリーク将軍!!」

 本陣で休んでいたマデギリーク将軍は、部下のこの言葉に目を覚ます。

「夜襲でございます!!」

「やはり敵は仕掛けてきたか! ……しかし、こちらもその対処はしていたのであろう! 何故、そんなに慌てておる!!」

 マデギリークの疑問はもっともであった。

「いえ!」

 続く、部下の意外な報告。

「それが、敵からの夜襲ではありません! お味方が敵に夜襲を仕掛けました!!」

「何?!」

 さすがのマデギリークも、この報告には驚きを隠せなかった。

「誰が! そのような無謀なことを……! まさか!! またツヴァンソか?!」

「いえ! お味方とは申しましたが、我がマデギリーク軍ではございません! 我ら以外の聖王国軍が、ミケルクスド國軍の陣営に夜襲をしかけた模様であります。

 数の方は正確には分かりませんが、おそらくは三千から五千ではないかと……。敵はその軍の夜襲を受け、混乱しております。我が軍もすぐにお味方の軍に加勢なされてはいかがかと……」

 マデギリークは外に出て、戦場を見回す。

 確かに、敵が布陣している箇所が所々ところどころ大いに乱れ、場所によっては火がついている箇所も見受けられる。

 かなり広範囲にわたって夜襲が仕掛けられており、敵が慌てふためくさまも、はっきりと見て取れた。

「ふむ!」

 マデギリークは一言そう呟くと、集まってきた参謀たちに指示を飛ばす。

「わしが見るところ、敵の仕掛けた罠とは思われない。しかし、夜襲を仕掛けた軍の正体もまだはっきりしていない! 各隊に、この夜襲には積極的に関わらないよう指示を出せ!

 ただ、夜襲から逃れてきた敵が我が陣営に逃げ込んでくるのであれば、それについては遠慮はいらない! 大いに攻め立てよ!! いずれにせよ、この戦いも明日までには決着つきそうだな!」

 マデギリークがこう締めくくる。

 マデギリークは、夜襲を仕掛けた軍の正体ははっきりしないと口ではそう言ったが、十中八九、軍の正体は分かっていた。

“夜襲を仕掛けている軍は、まず間違いなく中央から派遣された聖王国の軍! 今日の早馬では、後三日はこの地への到着に時を要するといっていたが、それは敵のみならず我ら味方まで欺くフェイク

 そして、誰にも気づかれず秘密裏に戦場にたどり着き、そのまま敵陣に夜襲を仕掛ける! 中央軍でそのようなことができる軍は唯一つ! 闘神とうしんに愛されし聖王子! ブーリフォン聖王子様の軍以外には見当たらない!!”


 聖王国領マリーティの町はずれの荒れ地。

 侵略してきたミケルクスド國軍八千と、それを迎え撃ったソルトルムンク聖王国のマデギリーク軍五千の戦いが、一月二九日に戦端を開き、四日目に入ったその日の早朝。

 本来であれば、四日目の戦いに入る予定であったこの戦場から、敵のミケルクスド國軍が忽然こつぜんと姿を消していた。




〔参考 用語集〕

(人名)

 エンテ(ミケルクスド國の将軍)

 クーロ(マデギリークの養子)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹)

 ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(地名)

 マリーティ(エーレ地方の町の一つ)


(その他)

 四隊長(エンテ将軍の配下の四人。死隊長とも呼ばれている)

 大隊長(大隊は二百五十人規模の隊で、それを率いる隊長)

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