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【023 ふたりの初陣(十五) ~四隊長~】


【023 ふたりの初陣(十五) ~四隊長~】



〔本編〕

 鉄槌の兵は、手にしていた鉄槌を落とし、その場に倒れる。

 倒れた後、首筋と胸が数回波打っていたが、やがてそれも止まり、全く動かなくなった。

 矢が首筋を貫いた瞬間、既に意識はなく、首筋と胸の波打つ運動は、肺が空気を求める呼吸機能の自然運動なのであろう。

 そういう意味で、鉄槌の兵は即死したといえる。

「うぉぉぉ~!!」

 包囲していた兵の間から、大きな喚声が上がり、それはまるで水面みなもの同心円のようにみるみる広がり、一帯に聖王国兵の勝利の喚声が響き渡った。

 クーロは、しばし呆然ぼうぜんとしていたが、ハッとして、後ろを振り向く。

 そこには、一人の弓を携えた騎兵がおり、クーロが振り向いて目が合った瞬間、その兵はにっこりと笑った。

「あ・あなたは……」

「クーロ様! おめでとうございます! 見事な采配でありました。私は、パインロと申します。私の名を覚えていただければ、幸いでございます」

 そう言うと、そのパインロと名乗った弓騎兵は、その場から立ち去っていった。

 クーロよりせいぜい十歳ほど年上の青年に見えたが、鉄槌の兵の首筋を射抜いた技量から、ここに合流してきた小隊の兵ではないのは間違いない。

 小隊の弓兵であれば、せいぜい第一段階の弓兵、ボウポーンが普通であり、彼の技量は、とてもボウポーンのものではない。

 いずれにせよ、今は去っていくパインロを構っている暇はなかった。

 クーロは大声で、この場にいる五小隊に指示を飛ばし、敵兵を押し戻し、結果、この一帯に当初構築されていた防御陣を復活させたのであった。

 そして、その防御陣が完全に復活したころには日も沈み始め、当初の作戦が失敗した以上、敵もこれ以上、積極的に攻めることもなく、三日目の戦いが終了した。

 鉄槌の騎兵と、上位弓兵といった精鋭兵による敵陣突破も、クーロの機転により失敗に終わり、敵からすれば、鉄槌の騎兵という精鋭兵まで失ったのであるから、その損失は計り知れないものであったろう。



「マデギリーク将軍! ツヴァンソ様とクーロ様が遭遇した敵の正体が判明いたしました!」

 マデギリークの本陣にいる参謀の一人が、部下からの情報をまとめて報告する。

 マリーティの町はずれでの野戦三日目の夜の軍議の席で、その報告は行われた。

「ツヴァンソ様が倒された黒騎士はガルバージョ、そしてクーロ様の隣の小隊を壊滅させた騎兵は、オロルと判明いたしました。三メートルの柄の鉄槌を振り回す猛将と言えば、オロルで間違いないでしょう!」

「……ガルバージョ、オロルと言えば、今回の戦いの敵司令官、エンテ将軍の四隊長の二人! これは我らに大いなる戦果をもたらしたことになります!!」

 参謀の報告に、マデギリークの執事のナヴァルが興奮しながら大声を出していた。

「うむ。ナヴァルの気の高ぶりも頷ける。わしも今日のこの戦果には、非常に驚いている!」

 マデギリークからしても、劣勢のこの戦いにおいて、今日の二人の敵隊長の死は、一つの大きな転機になるほどの出来事であった。

「エンテ将軍の四隊長といえば、別名『死隊長』と呼ばれるほど、戦う側からすれば、恐怖の存在でありました。技量と知略の両方に優れる黒騎士『ガルバージョ』、そして巨大な鉄槌で敵をなぎ倒し、膠着した戦線に、強引に突破口をこじ開ける切り込み隊長的存在の猛将『オロル』、この二人を今日一日の戦いで失ったエンテ将軍からすれば、大いなる痛手。

 後、四隊長で残ったのは、冷静沈着な狩人『フレーネ』、別名『主軸殺しポインターキラー』の弓兵。おそらく、クーロ様の元にいるヨグル殿からの報告にあった上位弓兵が、このフレーネでありましょう。フレーネが小隊長の一人をピンポイントで倒し、オロルがそこからの敵中突破を仕掛けたのだと思われます。

 三日目ということで、エンテ将軍も思い切って仕掛けたのでありましょう。その手をクーロ様が見事に挫きました。さすがはマデギリーク様のご子息! そして、ツヴァンソ様も見事、黒騎士ガルバージョを一騎打ちにて倒され、お二人がお二人とも初陣において、見事な手柄を立てられました!

 四隊長の後一人については、エーレ城に将軍の代理として残っておるという情報を得ております。数では劣勢ながら、こちらの士気は大いに上がっております!」


「……しかし、わしはまだ予断を許さぬと思っている!」

 陽気なマデギリークにすれば、この状況下で意外ともいえるネガティブな発言であった。

「まず、ツヴァンソについては明らかな命令違反! そして、ツヴァンソの行動は、敵に読まれ、黒騎士がツヴァンソの配置されている敵陣の奥に潜んでいた! お前たち、参謀の機転がなければ、ツヴァンソは敵の包囲下で命を落としていただろう。

 実際にツヴァンソが所属していた小隊の一人が、敵陣に取り残される形で命を落としている! わしは、ツヴァンソには厳しく接するつもりでいる!」

 いつになく厳しいマデギリークの言葉に、本陣の参謀達も、その場の雰囲気に浮かれていた自分たちを律するかのように、改めて緊張感を高める。

「……だが、クーロはよくやってくれた! エンテ将軍からすれば、死隊長の一人オロルの突破で、膠着した戦況を打破するつもりでいただろうが、それをクーロが見事に阻止したばかりか、オロルを倒すことにも成功した!

 確かに、クーロのすぐ隣の小隊がそのターゲットになったのは、全くの偶然ではあったが、これもクーロの持つ運の力! 今後のクーロの成長が楽しみだ!」

 マデギリークのこの一言が、ある意味、周りのクーロを見る目を一変させたといっても過言ではない。

 正直それまでは、何をしても目立つツヴァンソと比べて、クーロはマデギリーク将軍の養子ということ以外は、誰も注視すらしない地味な存在であった。

 中には陰口で、クーロを見出したマデギリークも、まれに見極めを外すこともあるのだというささやきがあるほど、クーロ自身は並み以下の人物であると、評価する者が大半であった。

 ……なので、今回のクーロの戦績と、それへのマデギリークの最上級の賛辞は、周りのクーロへの評価を百八十度転換させ、今後、クーロが大将軍への道を歩む上での一歩を大いに後押しするものとなったのである。

「……しかし、まだこちらが劣勢なのに変わりはない!」

 マデギリークが再びネガティブな言葉を吐く。

「四隊長の存在で、将軍として名を馳せているというエンテ将軍の評価は、半分は正解だが、半分は間違いである!」




〔参考 用語集〕

(人名)

 エンテ(ミケルクスド國の将軍)

 オロル(四隊長の一人。鉄槌の兵)

 ガルバージョ(四隊長の一人。黒騎士)

 クーロ(マデギリークの養子)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹)

 ナヴァル(マデギリークの執事)

 パインロ(謎の上位弓兵)

 フレーネ(四隊長の一人。上位弓兵)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)

 ヨグル(クーロの付き人)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(地名)

 マリーティ(エーレ地方の町の一つ)


(兵種名)

 第一段階(兵の習熟度の称号の一つ。一番下のランク。ファーストランクとも言う)

 ボウポーン(第一段階の弓兵)


(その他)

 四隊長(エンテ将軍の配下の四人。死隊長とも呼ばれている)

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