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【022 ふたりの初陣(十四) ~一射~】


【022 ふたりの初陣(十四) ~一射~】



〔本編〕

 左右の茂みから突如現れた二小隊によって、鉄槌の兵を始め、攻め込んできた敵は前後で二つに分断され、茂みから現れた二小隊のうち一小隊が、後続の敵兵の方向に向きを変え、七人で槍による横陣の構えを作った。

 これにより、急造ではあるが最初の防御陣のようなものがそこに出来上がり、後続の敵兵が鉄槌の兵たちの後をすぐに追うことが出来なくなってしまったのである。

 鉄槌の兵に続いていた兵の数人はそれに気づき、慌てて急造の防御陣を崩すために、後方に戻ったが、茂みから現れた二小隊のもう一つの小隊が、防御陣を形作った小隊に背中合わせになるよう前方に向きを変え、防御陣を崩そうと戻ってきた敵兵に槍を向けた。

 前後二方向に対処できる横陣が一瞬にして作られたのであった。

 結局、一旦は後方に戻り横陣を崩そうとした兵たちも、それがかなわず、さらにそのままここに留まれば、前進している鉄槌の兵たちに置いていかれることによって敵陣に取り残されてしまうので、やむなく後方の防御陣を突き崩すのを諦め、鉄槌の兵の後を追った。

 しかしその行為は、背中合わせの防御陣に背を向けるということになり、防御陣の聖王国兵は、背を向けたミケルクスド國兵を後ろから散々攻め立て、いつの間にか、鉄槌の兵たちは、五人にまで減らされ、ヘルリン小隊と他の二小隊を合わせた二十余人に包囲されてしまったのであった。

 そしてそれもつか、五人に減らされ包囲されたミケルクスド國兵たちは、半ばパニック状態で個々に逃げ出したため、鉄槌の兵以外の四人は、みるみる聖王国兵に討ち取られ、結局、鉄槌の兵一人のみが生き残ったのであった。


 一人となった鉄槌の兵は、それでも心折れることなく、鉄槌を振り回しながら、その包囲網から脱しようと動き回る。

 さすがに一人で前進をするような愚行はせず、鉄槌をひたすら振り回しながら縦横無尽に動き続けるので、クーロ達は包囲しながらも、鉄槌の届かない距離で、せいぜいその兵の背中に向けて槍を突くことぐらいしか出来なかった。

 実際、深く入り込み過ぎて鉄槌の餌食になった兵が二人、後退するのが遅れて同じく鉄槌の餌食になった兵が一人出た。

「さすがに、戦慣れしている手練れの兵ですな!」

 ヨグルが、クーロに向かって話しかける。

「本来、ここまで完全に包囲されれば、少しは焦り、ムキになって前進するか、味方の陣に逃れようと後退するか、どちらかを選択しそうなものですが……。そして、そのように一方向に動く敵であれば、いくら鉄槌を振り回していても、完全に包囲された我らが敵を倒すのは難しくありません!

 しかし、自分を中心に円運動をしながら、鉄槌を振り回されれば、ここにいる我らの力量では、敵が疲弊して、動きが鈍るのを待つしかありません。おそらく、それを待っている間に、敵はこの兵と合流し、そのまま前進する新手を投入してくるでしょう。そしてそれに包囲が持ちこたえられるのは、せいぜい五分!」

 ヨグルによる冷静な判断分析で、『五分』という制限時間をはじき出した。

 そして、クーロも初陣ながら、数々の訓練や教育から、その五分は妥当であると感じた。

 ここで、鉄槌の兵が討ち取れるのであれば、それはそれで大きな収穫ではあるが、そこに固執こしゅうして包囲し続け、新たな敵兵の侵入を許せば、ここに結集した五小隊と生き残ったシンティエンオ小隊一人の全員が、ここにしかばねをさらすこととなるであろう。

 ここで包囲の四方向のうち、一方向でも開放すれば、そこから鉄槌の兵は脱出する。

 むろん、その背を追って、鉄槌の兵を討ち取るという可能性もないこともないが、それをするには、ここにいる兵のレベルでは低すぎる。

 そう考えたクーロは、四方向のうち、どこを開放して、鉄槌の兵を脱出させるかに頭を切り替えた。

“四方向のうち、どこを開放するか?!”

 前方は選択肢から外し、普通は後方であるが、そこには左右から横撃して、背中合わせの防御陣の二小隊がいる。

 後方をあけ、鉄槌の兵が後ろに逃げれば、その二小隊と直接に遭遇し、その二小隊に被害が出る。

それよりは、右か左の方向を開放して、鉄槌の兵を、その方向に逃がしたほうがいいのでは……。

 しかしその場合、ここにいる五小隊は無事だが、左か右に今いる味方のところに鉄槌の兵が移動することとなり、そこで何らかの戦闘などが起こるかもしれない。

 しかし、その対処については、クーロではなく、別のクーロより上位の者、いわゆる中隊長以上が考えることである。

 クーロは、敵の急襲に対し、充分時間稼ぎをし、少なくともシンティエンオ小隊とヘルリン小隊が最初に配置された箇所からの敵の突撃は阻止したわけである。

 これ以上のことは、今のクーロが考えることではないし、その立場でもない。

 クーロはそこまで考えを巡らし、包囲の左か右方向、どちらを開放するかを選択肢として絞り込もうとした。

 その時である。

「クーロ様! 後方を大きく開放して下さい!! 今すぐ! クーロ様が大声で、今からそのことを指示して下さい!!」

 急に後方から、このような声が聞こえた。

 クーロは、突然自分の後ろから聞こえたその声に戸惑いながらも、その声の自信に満ち溢れた言葉に、まるで導かれるかのように、大声で包囲している後方の兵に、その指示を出す。

「包囲している後方の兵に命ずる! 左右いずれか近い方へ移動し、後方を大きく開放せよ!!」

 クーロのよく通るその声は、包囲していた後方の兵にはっきり聞こえ、それと共にそれぞれが左右の近い方にすぐ移動したことにより、包囲の後ろに鉄槌の兵の脱出できる道が大きく広がった。

 むろん、クーロの声が後方の味方の兵に直接聞こえたということは、包囲されていた鉄槌の兵の耳にも当然聞こえたことになる。

 鉄槌の兵が、クーロの声に反応し、後方からの音で包囲の後ろが開放されたことを感じ取り、それを目視で確認しようと振り向いた刹那、クーロの耳朶じだに鋭い空気の切り裂く音が聞こえた。

 クーロが、その音に一瞬全神経を集中させたが、自分に特に何かが起こったわけでないようなので少し安心し、改めて鉄槌の兵の方に目を移した時、クーロの瞳に驚きの光景が飛び込んできた。

 鉄槌の兵の首筋に一本の矢が突き立っていたのである。

 ……否、正確に表現するなら、突き立っているというよりは、矢は敵の首を刺し貫いたといった方が良い。

 なぜなら、鉄槌の兵の首に突き刺さっているその矢の矢先と矢尻は、ほぼ均等の長さだったからで、それは矢の半分が、鉄槌の兵の首の中を通ったという事実を、如実に物語っているからである。




〔参考 用語集〕

(人名)

 クーロ(マデギリークの養子)

 シンティエンオ(聖王国の小隊の長)

 ヘルリン(クーロの所属している小隊の長)

 ヨグル(クーロの付き人)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(その他)

 小隊(この時代の最も小規模な集団。十人で編成される)

 中隊長(中隊は五十人規模の隊で、それを率いる隊長)

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