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【019 ふたりの初陣(十一) ~機転~】


【019 ふたりの初陣(十一) ~機転~】



〔本編〕

 午前八時から始まった野戦三日目の戦いは、この日も昨日同様、マデギリーク軍が守り抜き、日が暮れて終わるものとクーロは思っていた。

 少なくとも、戦いが始まって二時間後の午前十時までは、そのような展開であったと思われる。

 しかし突然、それは起こった。

 クーロが所属しているヘルリン小隊にではなく、その左隣りの小隊にである。

「うわぁぁぁぁ~!!」

 クーロの左隣りから、叫び声が突然聞こえた。

 クーロやヨグル、そして小隊長のヘルリンが叫び声の方に目を向けると、ヘルリン小隊の左隣に配置されていた小隊の小隊長シンティエンオの額に矢が突きささり、彼が大きく口をあけて叫んでいる姿が見てとれた。

「気をつけろ! 上位ランクの弓兵が敵にいる! 遠距離からの狙撃があるぞ!!」

 すかさず、ヘルリンが大声で皆に伝える。

 ヘルリンに言われずとも、こちらから捕捉できない敵陣の奥から、第一陣の最後尾に控えている小隊長の額を正確に射抜くほどの射手は、第三段階サードランク狙撃手スナイパーかそれ以上の弓兵きゅうへいの者と分かる。

 最前列の小隊の兵全てに一気に緊張が漂うが、その上位弓兵じょういきゅうへいによる二射目は無かった。

 その代わりに、シンティエンオ小隊の最前列に一騎の騎兵が突進してくる。

 その騎兵は、三メートルの長さの柄の巨大な鉄槌てっついを振り回し、瞬く間にシンティエンオ小隊の前列四人の槍兵の頭を打ち砕いていた。

 小隊長を失ったシンティエンオ小隊は、これで半数の五人となったが、その鉄槌持ちの騎兵は、残りの小隊の兵にも襲い掛かる。

 先ほどのシンティエンオ小隊長を射殺いころした弓兵といい、この鉄槌の騎兵といい、明らかに昨日まで戦っていた一般の敵兵ではない。

 第三段階サードランクか、もしくは最終段階トップランクの上位兵で、おそらくは敵将軍直下の精鋭兵であろう。

 シンティエンオ小隊を壊滅させ、そこを起点に、この周辺一帯の陣を崩壊させようという明確な意図のもと投入された兵であるのは間違いない。

 それを一早く察したクーロは、自らの持ち場を離れ、ヘルリンの元に赴き、進言する。

「ヘルリン小隊長! すぐにシンティエンオ小隊と合流し、敵兵の突破を阻止しましょう!! 一時いっときの猶予もありません! 前列の三人だけを残し、残りの前列二人と我ら五人は左隣に移動すべきです!!」


「……しかし、それでは我らの前列が突破されるのではないか?!」

 ヘルリンが、クーロにそう反論する。

「そうなるかもしれません! しかし、今は隣の小隊が全滅し、そこから順繰りに陣が崩壊する方が、我らの前列が突破されるより深刻な事態と考えます! すぐに我らが隣に動けば、一時的とはいえ時を稼ぐことが出来ます! その間に、本陣を始めとして周りが何らかの対処をする時間が出来ます!」

 クーロの言葉に、ヨグルも同意するように、大きく頷く。

「分かった! ヤンムール、エター、アサフランの三人以外は、すぐに左に移動し、壊滅寸前のシンティエンオ小隊と合流するように!!」

 ヘルリン小隊長の判断も早かった。

 ヘルリンの一声に、小隊の七人が左にいる敵兵に横から攻めかかる。

 クーロ達が攻め込む前に、シンティエンオ小隊は、さらに四人が敵騎兵の鉄槌の洗礼を浴び、たった一人となっていた。

 しかし、その残った一人に鉄槌の騎兵が襲い掛かった時、クーロを始めとするヘルリン小隊の七人が、その敵兵に横から攻めかかることが出来たのであった。

 この素早い対応に、さすがの鉄槌の敵騎兵も騎馬の足を緩め、横に視線を移す。

 その騎馬の足が遅くなった隙をとらえ、ヨグルが自らの槍を投げる。

 ヨグルによって投げられた槍は、敵の騎馬の前脚の付け根に刺さり、ホースは一声いななき、前脚から崩れるように横倒しになった。

 鉄槌の敵は、崩れるホースから跳び下り、倒れるホースに巻き込まれることはなかったが、これで貴重な騎馬という脚を失ったのであった。

「敵を倒そうと思うな! 槍を敵に向け、敵を自らに近づかせるな!」

 ヘルリン小隊長が、部下の六人にそう命じる。

 ヨグルもすでにこと切れているシンティエンオ小隊一人の槍を拾い、鉄槌の敵兵の前に槍を構えて、立ちはだかる。


「フォルさん!」

 クーロが、同じ小隊の自分より五つ年上である二十歳の青年兵に声をかける。

「フォルさんは、ヘルリン小隊で一番足が速い。……なので、すぐにここの左隣の小隊長に、ここに合流するよう伝えて下さい!

 その後はそのまま周りの小隊にもここに合流するよう声をかけて回って下さい! この一帯が今から主戦場となります!!」


「フォル!」

 ヘルリン小隊長が、クーロの言葉で、すぐにでも隣の小隊へ向かおうとしているフォルを呼び止める。

「はい! 小隊長!」

 フォルも、小隊長の呼び止めで、一度は走り出そうとしていた足を止める。

 クーロがヘルリン小隊長を差し置いて、自分に命じたことが気に入らなかったのかと、フォルは一瞬そう思ったがそうではなかった。

「今、クーロ様がお前に伝えたことを、俺の名前で伝えると、同じ小隊長という立場からの要請となり、中にはそれでへそを曲げ、要請を無視する小隊長が出てくるかもしれない!

 ここは、マデギリーク将軍のご子息であられるクーロ様からの要請として伝えよ! それであれば、その要請を拒否できる小隊長はいない!

 さらに、運良く中隊長以上の者と遭遇できれば、さらに効率よく隊を動かせるであろう。その際には、俺の要請では絶対に聞き入れまい! クーロ様の名前で要請するように……!」

「はい!」

 フォルは、ヘルリン小隊長の意図をくみ取り、そのまま走り去った。


 クーロと、伝令として今ここにはいないフォルを除く、ヘルリン小隊の五人に、シンティエンオ小隊の唯一の生き残りである一人を加えた六人が、三メートルの長さの鉄槌を持つ敵兵に槍を向けて構えている。

 巨大な鉄槌を持つ敵兵も、ホースを失った今、その六人の槍衾やりぶすまを容易に突破することは簡単には出来ない。

 それでもその鉄槌の敵兵の後方から、数人の敵兵が続いているので、この六人という人数ではいつまでもここで敵を抑えておくことは無理である。

 しかし、当初のミケルクスド國側の予定では、鉄槌の敵騎兵が、聖王国側の防御陣を数層突破し、その突破されたところに、一気に敵が雪崩れ込む算段であったのが、最前線の小隊は壊滅させたものの、そのすぐ横にいたヘルリン小隊が間をおかず横移動してきたため、最前線の敵陣すら突破出来ていないのと同じ状況にさせられたのは、ミケルクスド國側としては大いなる誤算であった。




〔参考 用語集〕

(人名)

 アサフラン、エター、フォル、ヤンムール(ヘルリン小隊の一員)

 クーロ(マデギリークの養子)

 シンティエンオ(聖王国の小隊の長)

 ヘルリン(クーロの所属している小隊の長)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)

 ヨグル(クーロの付き人)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(兵種名)

 第三段階(兵の習熟度の称号の一つ。下から三番目のランク。この称号を与える権限は中央の将軍や大臣以上の者が持つ。サードランクとも言う)

 最終段階(兵の習熟度の称号の一つ。一番上のランク。この称号を与える権限は國の王のみが持つ。トップランクとも言う)

 スナイパー(第三段階の重装備の弓兵。いわゆる『狙撃手』)


(その他)

 小隊長(小隊は十人規模の隊で、それを率いる隊長)

 中隊長(中隊は五十人規模の隊で、それを率いる隊長)

 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)

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