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【181 付き人退陣後(後)】


【181 付き人退陣後(後)】



〔本編〕

「そして実は兵たちの士気より、大きな問題を起こしかねない火種が別にあることに、遅ればせながら気付いてしまいました」パインロが、ヨグルにそう述べた。

「そういう意味では、今回のオッターロントラ殿の訪問はいいタイミングであったかもしれません。彼の訪問が無ければ、私も気付けなかったことでしたので……」

「パインロ様ほどのお方が気付けないこととかあるのですか? 私はそちらに驚いております」

「いやいや、ヨグル殿買いかぶり過ぎです。私も人です。それでも、敵との戦術合戦などであれば、それに集中するため容易に気付けるところが、味方の中の、それも他愛もないそこら辺に転がっているような恋愛などの事情についてであれば、うっかり見逃すことも多々ございます」

「そのようなものですかね。……それで、その大問題に発展しかねないほどの火種とは何のことですか?」

「今回の火種は“何”ではなく、“誰”というべきでしょう」

 その時、ヨグルは両掌りょうてのひらをポンと叩いた。

「分かりました! ツヴァンソ様のことですね!」

「ヨグル殿、よく分かりましたね。しかしながらそのお答えでは、半分の五十点しか差し上げられません。確かにツヴァンソ様も火種ではありますが、ツヴァンソ様は今回の場合、例えれば導火線のようなモノ。そして今回の火種のメインにあたる、例えれば火薬庫に相当するモノがヌイ様であります。このお二人の名前が二人とも挙げられれば、百点満点でした」

 パインロの言葉に、絶対に正解だったと確信していたヨグルはガクッと肩を落す。

「しかし、今回は導火線から火薬庫に火種が運ばれるまで、複数の要素――、一つ一つが全て小さいながら火種になり得る要素でありますが、順を追って説明しましょう」

 パインロがヨグルに説明をし始めた。

「クーロ様がツヴァンソ様をお好きということは、誰もが知っていること。そして、ツヴァンソ様自身もそれをよくご理解されているということ。これが一つ目の火種に当たります」

「成程!」ヨグルが深く頷く。

「……しかし、最近はクーロ様があまりツヴァンソ様の元を訪れない、そしてこれに少々ツヴァンソ様がご不満であろうということ、これが二つ目! 三つ目はツヴァンソ様がヌイ様に憧れを抱いていること。そして四つ目が、そのヌイ様がルーラ様に好感を抱いているということ。これらに小さな火でも引火してしまえば、一気に全体に燃え広がってしまう大惨事となってしまいます」

「……」

「そしてその小さな火が、言うまでもなくクーロ様とルーラ様の情事! 今は、クーロ軍とルーラ軍の兵達しか知らない事情ですが、あまり二人の仲をよろしく思っていないルーラ兵やクーロ兵、あるいはそうは思ってはいないが、たまたまツヴァンソ兵に、ルーラ兵やクーロ兵が接触した際に話の種として話題にしまった場合、ツヴァンソ兵からツヴァンソ様のお耳にこの情事が直接入る可能性も否定できません! ゴンク帝國領アルヒ地方侵攻の際、ルーラ様、クーロ様、そしてツヴァンソ様の部隊は、ずっと一緒に軍事行動なされておりましたので、その三部隊の兵たちは、個々で互いに見知った間柄になっている者も多くいると思われます」

「しかし、パインロ様。ツヴァンソ様のお耳に入ったからと言って、それが大きな問題に発展しますでしょうか? 確かにツヴァンソ様は、自分を好いているはずのクーロ様に対し若干面白くないといった感情を持つとは思いますが、それを取り立ててクーロ様に詰問するほど、ツヴァンソ様がクーロ様のことを好いているとは思われませんので……」

「確かに、ツヴァンソ様がクーロ様に詰問するなどのクーロ様に向けての行動であれば、クーロ様が嫌な思いをするだけで大きな問題にはならないでしょう。ただ、ツヴァンソ様が違う方向に向けて、これを発信してしまったとしたら……。大きな問題に発展するのは、次の場合であります!」

 パインロの話が核心に迫った。

「先ほどいった三つ目の火種、ツヴァンソ様がヌイ様に憧れを抱いていること。それと四つ目のヌイ様がルーラ様のことを密かに慕っていること。さらに四つ目を詳しく述べますと、ヌイ様のことを大好き故、ヌイ様を良く観察されておられるツヴァンソ様が、四つ目のヌイ様がルーラ様を慕っているという事情を知っている場合。つまりこれは五つ目の火種に相当しますが……。ツヴァンソ様が、ルーラ様とクーロ様の情事をヌイ様に伝えるという行動に出る。ヌイ様に伝えることにより、ヌイ様が密かに慕うルーラ様という恋敵を除外できると思いついたツヴァンソ様によるその行動によって、今回ツヴァンソ様が導火線の役割で、小さいながらルーラ様とクーロ様の情事の情報という火が、ヌイ様という火薬庫にまで到達してしまうという状況になってしまうのです!」

「……」ヨグルの顔がさっと青ざめる。

 敵から仕掛けられた謀略以上の破壊力が、まさかこのような日常の中に潜んでいようとは……、パインロに説明されるまでヨグルには全く気付けなかったのであった。

「いや、この件に関しては、私もオッターロントラ殿の訪問があるまで全く気付けなかった事柄でありましたので……」

 ヨグルの顔を見て、パインロもそう述べるしかなかった。

「もし、ヌイ様の耳にルーラ様とクーロ様の情事が入ったら……」

「ヌイ様の直情型の性格から考えて、二人に事情についての真偽の見極めるなどという回りくどいことはせず、十中八九間違いなく、ある行動を起こすはずです!」

「まさか、ヌイ軍がクーロ軍に攻めかかるという……!」

「ヨグル殿、今度は大正解です! ベンナ地方領主ヴェルブリュートの時のベンナ城強襲と同じことがこのバラグリンドルの地で起こってしまいます!」

 ヨグルにとって、これは全く喜べない正解であった。




〔参考 用語集〕

(人名)

 ヴェルブリュート(聖王国領ベンナ地方領主)

 オッターロントラ(ルーラの付き人)

 クーロ(マデギリークの養子。中官)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中官)

 ヌイ(クーロ、ツヴァンソと同世代の指揮官。大官)

 パインロ(クーロの弓の師であり、クーロの隊の一員)

 ヨグル(クーロの付き人。クーロ隊の一員)

 ルーラ(クーロ、ツヴァンソと同世代の指揮官。大官)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ゴンク帝國(ヴェルト八國の一つ。東の国)


(地名)

 アルヒ地方(ゴンク帝國領)

 ベンナ城(ベンナ地方の主城)

 ベンナ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)


(顛末)

 ベンナ城強襲の件(裏切者のヴェルブリュートの城をヌイが強襲した件。【113】~【115】を参照)

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