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【017 ふたりの初陣(九) ~黒騎士~】


【017 ふたりの初陣(九) ~黒騎士~】



〔本編〕

 実際に最前線の兵と異なり、今、ツヴァンソが攻め入っている周辺には、戦慣れしている兵が数多あまたいる。

 それらの兵は、ツヴァンソの突進にも、ツヴァンソに相対した姿勢で後退しつつ、少しずつツヴァンソを自陣の包囲下へ引き込んでいる。

 それでも、ツヴァンソが騎馬を走らせているのであれば、まだ包囲したことにはならない。

 ツヴァンソのホースが足を止めない限り、ツヴァンソが騎馬を反転させ、包囲から離脱するべく駆ければ、包囲の後ろ側が蹴散らされ、前面にいた兵も離脱していくツヴァンソに追いすがることがかなわないからである。

 まだ、ツヴァンソの正面に立ちはだかる敵は存在していない。

 今のところはではあるが……。


 ある瞬間、ツヴァンソの前面の敵が一斉に潮が引くが如く、ツヴァンソの前面を開けた。

 駆けるツヴァンソの目の前が急に開け、五十メートル先までの直線距離から敵兵がいなくなった。

 敵司令官の命令により、意図的にそうしたのに間違いはない。

 それを裏付けるように、ツヴァンソの五十メートル先正面に、全身を漆黒の鎧に覆った騎兵が一騎現れた。

 そして、その騎兵が、ツヴァンソに向かって駆けてきたのであった。

 騎兵は、身長二メートルを超える長身で、長さが三メートルにはなろうかという鎧の色と同じ漆黒の槍を小脇に抱えていた。

 この日、初めてツヴァンソに真っ向から挑んできた敵である。

 全身甲冑に覆われているところから、それなりに位の高い敵兵であろう。

 そして、二メートルを超える長身もさりながら、鬼神の如き気迫をまき散らしながら、突進してくるツヴァンソに、全く動じるところがないことから、かなりの手練れと考えていい。

 ツヴァンソにとって初めて出会う強敵であった。


「やぁぁ~!」

「……」

 ツヴァンソは一声ひとこえ叫び、黒騎士は無言のまま、お互いのホースを交錯こうさくさせる。

 ツヴァンソは得物えものの剣を黒騎士に向かって振り下ろし、黒騎士は三メートルの漆黒の槍を、ツヴァンソに向かって突き出す。

 それぞれの武器の長さから、黒騎士の槍が先に相手ツヴァンソの胸元に届こうとするが、その槍を、ツヴァンソは剣を真横にぐことによって弾いた。

 漆黒の槍は、ツヴァンソのこの一撃によって真横に弾かれるが、黒騎士は槍を握っていた左手を離し、右手片手だけで槍を旋回させ、ツヴァンソの剣の威力を全て流した。

 そして槍の旋回後、再び左手を添え、槍を突く体勢に瞬時に戻り、そこから再び突きをツヴァンソ向けて繰り出す。

 その際、それぞれのホースの頭がぶつかるぐらいに近づいたが、ツヴァンソが手綱を操り、ホース同士の衝突は免れた。

 黒騎士によって、再度、繰り出された槍の突きもツヴァンソの剣が再び弾く。


 すれ違ったままお互いのホースを駆けさせ、一旦、距離をとったツヴァンソ、黒騎士の両騎であったが、ツヴァンソも黒騎士も、十分に距離をとった辺りで反転する。

 反転のタイミングは、黒騎士が先、その一秒後がツヴァンソであったが、お互いの距離は四十メートルになっていた。

 ツヴァンソからすれば、これから味方の陣に戻る方向を疾走することになり、敵兵からすれば、ずっと自軍(ミケルクスド側)に向かって疾走し続けたツヴァンソが反転したことから、ここを中心として、ツヴァンソを包囲しようとする陣形を整え始めた。

 最初の一太刀で倒せなかった強敵の出現に、ツヴァンソにも少し緊張が走る。

 実戦は今回が初めてだとしても、敵陣の同じ個所に長く留まる危険性については、当然、ツヴァンソも理解はしている。

「やぁぁ~!」

 ツヴァンソが叫び、黒騎士が再び、ホースを駆け合わせる。

 そして初撃と同様、黒騎士が突きを繰り出し、それをツヴァンソの剣が弾く。

 また、交錯した後、各々おのおのの騎馬で距離を取り、また反転して駆け合わせるが、三度目はさらに距離が縮まり三十メートルになる。

 駆け合わせる度に、お互いの距離は短くなり、ついに六度目の駆け合わせで、お互い距離を取らずに、その場での戦いとなった。

 黒騎士からすれば思惑どおりの展開であり、ついにツヴァンソのホースが一所ひとところに留まるようになってしまった。

 黒騎士の部下たちは、二人から半径十メートル程度の距離に円陣を作る。

 さらに、その円陣を中心に、層を重ね、包囲の壁を厚くしていった。

 ツヴァンソからすれば一刻も早く、目の前の黒騎士を倒して、この場から離脱しないことには、たとえ、黒騎士を倒したとしても、ツヴァンソ自身が敵の大軍のただ中に一人取り残されてしまうことになってしまう。


 しかし、ツヴァンソがいくら急ごうとも、それに付き合ってくれる敵ではなかった。

 おそらく純粋な戦闘力だけで比較すれば、膂力りょりょく、速度、はては技量においてもツヴァンソの方がおそらく黒騎士より上であろう。

 ただ、それは同じつるぎといった武器で、お互いが徒歩かちであるという条件下での話である。

 今は、馬上における戦い。

 そしてツヴァンソの乗るホースは、昨日、無断拝借したばかりの初めて乗るホース

 それに対し、黒騎士の方は、長年戦場を共にした相棒とも呼べるホース

 条件は、騎乗しているホースだけでない。

 黒騎士の武器は三メートルの槍。ツヴァンソの武器は一メートルの刃渡りの剣。

 武器の長さに格段の差がある。馬上では長物である槍の方が、剣より圧倒的に優位である。

 それについては、ツヴァンソもよくよく承知はしているので、黒騎士の繰り出す槍に、剣を叩きつけて折ろうと何度も試みる。

 しかし、黒騎士の熟練された技が、ツヴァンソの剣が自分の槍を折ろうと接触する度に、うまく力を抜き、槍を剣の動きに合わせて流す。

 これではいくらツヴァンソが並み以上の膂力であっても、敵の槍をへし折ることは出来ない。

 それではと槍が流れた隙をついて、黒騎士のふところに何とか飛び込もうと試みるが、これも黒騎士と騎乗しているホースの連携によって、槍の得意な中距離間に巧みに逃げ込まれてしまう。

 ツヴァンソも、しつこく追いすがろうとするが、ツヴァンソ自身が騎馬戦に慣れていないこと、そして初めて乗ったホースとツヴァンソでは、お互いの連携を望むこともかなわず、結果、剣の有効圏内である白兵戦に持ち込むことができずにいた。




〔参考 用語集〕

(人名)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(その他)

 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)

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