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【117 援軍の内訳】


【117 援軍の内訳】



〔本編〕

「しかし……」

 ルーラが続けて発言する。

「聖王国は、バルナート帝國の侵攻に最も危機感を抱いている故、その防衛ラインについては、最大限の注意をはらっているはず……。それに聖王国とバルナート帝國の国境線は、東西二千キロメートル以上という長大なもの。仮にそのうちの中央部のバクラ地方方面のみ侵攻しても、バルナート帝國にとってそれほど有益な侵攻とは思えません。これは、おそらく今回の三國同時侵攻で窮地に立たされているミケルクスド國から、バルナート帝國へ聖王国侵攻の要請があったからではないでしょうか?」

「ルーラ殿と同じ考えを王城の聖王陛下もお持ちでいらっしゃる! 今回のバルナート帝國の侵攻によって、ミケルクスド國から何らかの見返りがあるのであろう。しかし今回のバルナート帝國侵攻で、我が王城マルシャース・グール近辺にまで侵攻してくるような事態にでもなったら、ブーリフォン聖王子様とマデギリーク将軍の軍勢も王城の救援に赴かなければならない事態となり、さすがにミケルクスド國領バラグリンドル地方攻略は一旦中止とならざるを得ない。それが今回のバルナート帝國のバクラ地方侵攻の目的であろう」

「それであれば、バルナート帝國としてもそれほど本腰では侵攻はしないのでありませんか? こちらもある程度の兵を集結させ、膠着状態にさえ持ち込めば、自ずと自国へ撤退を始めるのでは……」

「……ただ相手はバルナート帝國だ! 聖王国がバルナート帝國と拮抗するには、かなりの兵と戦意の持続が絶対条件となる!」

 ヌイが口を挟んだ。

「十倍の兵がなければ、聖王国兵はバルナート帝國兵と対峙することは出来ない!」

 多少大袈裟な言いぶりに聞こえたが、実際にバルナート帝國兵と戦った経験があるヌイの目は、決して冗談を言っている者の目ではなかった。

「成程! 一地方への侵攻でありながら、聖王国のほぼ全域に援軍要請が出ているのが、今のヌイ殿の口ぶりから頷けます」

 ルーラも、ヌイの言葉に素直に従う。ルーラも、まだバルナート帝國兵と直接戦った経験が無かったからである。

「ルーラ殿!」

 アコニト将軍がルーラに命じる。

「貴殿の小官軍千に、我が軍から二千を追加する! その三千を率いて、バクラ地方へ向かっていただきたい!」


「その任につきまして、承知いたしました!」

 ルーラはアコニト将軍からの要請に応じた。

「ただ一つ条件がございます……。言ってよろしいでしょうか?」

「構わない! 極力、ルーラ殿の意向に添えるよう配慮する」

 アコニト将軍がそう答えた。

「それでは……」

 ルーラがおもむろに言う。

「私の小官軍に加えていただく増援兵への要望でございますが、アコニト将軍直属の兵は二千ではなく、千七百五十にしていただき、代わりに残り二百五十はクーロ殿の大隊でお願いいたします」

「このルーラ殿の要望について、コロンフル小官殿はいかがか?」

「構いません! クーロ様さえよろしければ……」

「私も異存ありません!」

「コロンフル殿とクーロ殿に異存がなければ、それで問題はない!」

 アコニト将軍が、ルーラの申し出について了承した。

「あの……、私からも一つお願いが……」

 ここで思わぬ人物が口を開く。ヌイ中官軍に所属する小官の一人、シュナーベルであった。

「アコニト将軍! 私もルーラ殿の軍に加わることをお許しください!」

「おい!!」

 シュナーベルのこの発言に、怒号が飛ぶ。

「どういうつもりだ! シュナーベル! お前はヌイ様を裏切るつもりか!!」

 声の主はヌイ軍の小官の一人プリソースカ。彼女は褐色の顔を真っ赤にして、シュナーベルを睨みつけた。

「馬鹿! そんなわけがあるか!」

 シュナーベルも、同じように顔を真っ赤にしてプリソースカを睨みつける。

「プリソースカ! シュナーベルが、俺を裏切るわけがないだろ!」

 意外なことに、ヌイがプリソースカを制した。

「ルーラ殿が、バルナート帝國兵との戦闘経験がないのを心配しての発言だ! バルナート帝國兵と実際に戦った俺の軍の一人として……」

「はい、ヌイ様! おっしゃる通りでございます」

 シュナーベルもヌイが真意を分かっていることに、内心ホッとした様子であった。

「ただ、お前の千の軍勢を全て割くわけにはいかない! ここの戦況も予断を許さないからな! ……二百五十の兵を引き連れていくことを許そう」

「ありがとうございます、ヌイ様。アコニト将軍、ルーラ殿、私の我儘わがままを是非、お聞き入れ下さい」

「シュナーベル殿!」

 ルーラがにっこりと笑う。

「こちらこそ、貴殿のありがたい申し出に感謝いたします。バルナート帝國兵との戦闘経験をお持ちのヌイ殿の軍勢と、指揮官としてシュナーベル殿が加わっていただくのに、私に何の不都合がありましょうや」

「ルーラ殿が了承であれば、それで良い。ただ兵を三千以上ここから割くのは、ここの戦況からいって厳しいので、追加の二千の軍の内訳は、わしの直属千五百と、クーロ殿の二百五十、そしてシュナーベル殿の二百五十とする! それではルーラ殿、よろしく頼む!」

 アコニト将軍のこの言葉で、バクラ地方に派遣されるルーラ軍三千が決まった。



 龍王暦二〇三年四月八日。

 ルーラ率いる三千の軍勢が、ベンナ城からバルナート帝國との国境線に当たるバクラ地方に向けて進軍を開始する。

 ルーラはアコニト将軍からの特例措置により、バクラ地方における防衛任務の期間に限り、三千人を率いる中官(三千人将)に昇格させた。

 ルーラは、クーロとシュナーベルを副将に任じる。

 そのルーラの采配に応じ、アコニト将軍はクーロをバクラ地方防衛任務に限り、シュナーベルと同等の小官(千人将)へと昇格させた。

 ゴンク帝國と国境を接するベンナ地方から、バルナート帝國と国境を接するバクラ地方は直線距離でおよそ九百キロメートル。

 若干の強行軍ではあったが、それでもバクラ地方までは二十日間の日数は必要なため、バクラ地方の戦場に到着するのは、四月二八日以降の予定であった。




〔参考 用語集〕

(人名)

 アコニト(聖王国の将軍。アルヒ地方攻略軍総司令官)

 クーロ(マデギリークの養子。大隊長)

 コロンフル(マデギリーク将軍の副官)

 シュナーベル(ヌイ軍の司令官の一人。千人将)

 ジュラーグレース聖王(ソルトルムンク聖王国第五代聖王)

 ヌイ(ソルトルムンク聖王国の中官)

 ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子)

 プリソースカ(ヌイ軍の司令官の一人。千人将)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)

 ルーラ(ソルトルムンク聖王国の小官)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 バルナート帝國(ヴェルト八國の一つ。北の強国)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 ゴンク帝國(ヴェルト八國の一つ。東の国)


(地名)

 バクラ地方(ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の国境にある地方。北側がバルナート帝國領、南側がソルトルムンク聖王国領である)

 バラグリンドル地方(ミケルクスド國領)

 ベンナ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)


(その他)

 小官(指揮官の位の一つである官の第三位。千人規模を指揮する。大隊長より上位。別名千人将)

 小官軍(軍の最小単位で、千人規模の軍)

 大隊(中隊五部隊で編成される隊。二百五十人規模の隊)

 中官(指揮官の位の一つである官の第二位。三千人規模を指揮する。小官より上位。別名三千人将)

 中官軍(三千人規模の軍)

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