【116 緊急援軍要請】
【116 緊急援軍要請】
〔本編〕
さて、その後のアルヒベンナ両地方事件の顛末であるが、ルーラが大方予想した通り、今は亡きアルヒ地方領主ギャリッグと、亡きベンナ地方領主ヴェルブリュートの二人に大方の罪を被せ、あっさりと解決してしまった。
むろん、アルヒ地方並びにベンナ地方の行政に携わっていた重臣の数名は、今回の二地方の馴れ合いに深く関わってはいたが、それについても全員が地方領主の命に渋々従ったという立ち位置で、積極的に利敵行為の中身について白状していったので、今回の事件に限り、真相が闇に葬られることなく、ほぼ明るみに出たのであった。
聖王国の中央政府並びにベンナ地方派遣軍の指揮官アコニト将軍にしても、今回の事件の責任の所在などをより積極的に探るほどの意図はないため、ヴェルブリュート等の重臣数名など、少数の処分のみで今回の事件を収束させた。
さて、今回の重臣たちの処分に関して、少し興味深い傾向がみられた。
処分されたヴェルブリュート配下の重臣がいる一方で、処分されなかった重臣もいたからであった。
そしてその差が、今回の利敵行為に深く関わっていたか否かではなく、その重臣が部下から嫌われていたか、慕われていたかの差であったのである。
部下から嫌われていたある重臣は、あまり今回の利敵行為には深く関わっていなかったにも係わらず、多数の部下から糾弾されて処分の対象となり、逆に利敵行為にかなり深く関わっていたであろうある重臣でも、部下から慕われていたことによって、部下からの助命嘆願などがあり、結局処分の対象から免れたのであった。
そして、ヌイに生け捕りにされたアルヒ地方領主ギャリッグの参謀であったジューバは、ギャリッグ地方領主の権力を盾に、部下や領民に対して理不尽なほど厳しかったため、全く人気がなかった。
そのため、聖王国はジューバが積極的に利敵行為追及に協力してくれた手前から、聖王国での処断は一切行わず、そのままゴンク帝國へ送還するという処分に決めた。
そしてその後ジューバは、自国であるゴンク帝國の手によって死罪に処せられたのであった。
自分の不人気ぶりを十分に分かっていたジューバは、聖王国に留まることを必死になって懇願していたが、それは叶わず、裏切った自国での悲惨な末路をたどったわけである。
聖王国としても、ジューバのような信用できない小者をあえて聖王国内に留め、ジューバがいずれ聖王国に仇なすのではないかと常に警戒しながらいるより、むしろ敵国に生かしたまま戻し、敵国がジューバへの憎悪から処断してくれた方が、実際にアルヒ地方に攻め入った聖王国への憎悪の矛先を幾分かでも躱せる分、非常に有効であると判断した結果であった。
シビアな話ではあるが、戦国の世では、むしろこれが通常なのかもしれない。
そして、ヌイはそのままベンナ城に留まった。
今回のアルヒ地方侵攻が、ゴンク帝國がフルーメス王国に攻め込めないようにするための牽制が目的である以上、これ以上の侵攻は不要であった。
逆にアルヒ地方全域をゴンク帝國から奪取でもしようものなら、ゴンク帝國内での侵略への危機感が大きくなり、ゴンク帝國が本格的な軍事行動を起こしかねない。
それは聖王国側からしても本意ではないし、またフルーメス王国にしても、聖王国がアルヒ地方を橋頭保に自分たちの後背さえも狙うのではないかという無用な疑惑を生じさせてしまう。
それはゴンク帝國の本格的な軍事行動以上に本意ではなく、むしろミケルクスド國からバラグリンドル地方を奪取し、聖王国が海岸線を取り戻そうという根本的な戦略の足を、逆に引っ張る原因にすら成りかねない。
そのためアコニト将軍の命により、アルヒ城に駐屯していたルーラ、クーロ、ツヴァンソの全軍もアルヒ城から撤退し、ゴンク帝國から派遣された新しい司令官に、アルヒ城をそのまま引き渡したのであった。
これによりゴンク帝國も、本格的に聖王国と戦争をする危機から回避され、現状である地域での小競り合い程度に落ち着いたのであった。
むろん、ゴンク帝國がフルーメス王国の隙をついて侵攻を始めようなどと動き出した場合は、聖王国もまたヌイを中心にゴンク帝國へ本格的に侵攻を開始するといった体勢のままなので、ゴンク帝國としてもあえてそのような愚かなことは始めない。……というか始められない。
フルーメス王国としては、それらの思惑がはっきりと理解できたので、ミケルクスド國への侵攻に対し、さらに多くの兵を投入したのであった。
聖王国もアルヒ地方の主城アルヒ城からは撤退したが、キャラパス砦から西側のアルヒ地方、並びにキャラパス砦からアルヒ城へ急行できるルートである、草原地帯と細道の出口も聖王国側が確保したままであった。
ヌイとその軍勢をそのままベンナ城へ駐屯させていることも併せ、バラグリンドル地方攻略における南側の助攻は、これによって完全に目的を達成したといえた。
さて、アルヒ地方方面の戦いが一段落して一月ばかり経った四月初旬、ある援軍要請の一報がアコニト将軍の元に届く。
アコニト将軍はその援軍要請に応じるべく、すぐさまベンナ城にて軍議を開いた。
「緊急の援軍要請が将軍の元に届いたという連絡を受けたが、バラグリンドル地方を攻略しているブーリフォン聖王子様からでありますか?」
ヌイがアコニト将軍にそう尋ねた。
「いや! バラグリンドル地方攻略については順調に進んでおり、何ら問題はない! 今回の緊急な援軍要請は、首都のマルシャース・グールからのものである。北方の強国バルナート帝國が我が聖王国への侵攻を開始したということだ! バルナート帝國の侵攻は、バクラ地方とその周辺地域を中心として開始されたらしい。聖王国のほぼ全域に、この援軍要請が出されているらしい!」
「バクラ地方は、我がソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の国境線のほぼ中央部分に当たる地方! このバクラ地方から真南へ二百五十キロメートルの地点が、王都マルシャース・グール! バクラ地方を突破された場合、五日と経たずにマルシャース・グールにバルナート帝國軍が到達しますから……」
ルーラがそう呟く。そのルーラの呟きに、アコニト将軍は無言で頷いた。
〔参考一 用語集〕
(人名)
アコニト(聖王国の将軍。アルヒ地方攻略軍総司令官)
ヴェルブリュート(聖王国領ベンナ地方領主)
ギャリッグ(ゴンク帝國領アルヒ地方領主)
クーロ(マデギリークの養子。大隊長)
ジューバ(ギャリッグの参謀)
ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。大隊長)
ヌイ(ソルトルムンク聖王国の中官)
ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子)
ルーラ(ソルトルムンク聖王国の小官)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
バルナート帝國(ヴェルト八國の一つ。北の強国)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
ゴンク帝國(ヴェルト八國の一つ。東の国)
フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)
(地名)
アルヒ城(アルヒ地方の主城)
アルヒ地方(ゴンク帝國領)
キャラパス(アルヒ地方の砦の一つ)
バクラ地方(ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の国境にある地方。北側がバルナート帝國領、南側がソルトルムンク聖王国領である)
バラグリンドル地方(ミケルクスド國領)
ベンナ城(ベンナ地方の主城)
ベンナ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)
マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)
〔参考二 大陸全図〕




