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【115 アルヒ地方の戦い(十) ~決着~】


【115 アルヒ地方の戦い(十) ~決着~】



〔本編〕

「……さらにヌイはその勢いのまま、ヴェルブリュート軍の後を追ってベンナ城に向かった。私はキャラパス砦が解放されたので、三百の兵をキャラパス砦に留め、私自身は七百の兵でここにやってきたというわけだ。明日にでも、ヌイのベンナ城での顛末がここにも伝わると思う」

 そして、ルーラのこの予言めいた言葉は現実のものとなった。


 翌日の午前十時、ベンナ城からの報告ということで、飛兵がアルヒ城に到着する。

 その飛兵の報告によると、ヴェルブリュート軍の背を討ちながらベンナ城に急行したヌイ軍は、その勢いのままベンナ城に攻めかかったとのこと。

 本来味方の城であるため攻めかかる必要はなく、城の前で自軍が到着したことを伝えれば済みそうであるが、ヌイはそうしなかった。

 ベンナ城を守る城壁の指揮官としては、地方領主の兵とヌイの兵が戦いながら城壁に迫り、そのままヌイが怒号を飛ばしながら、城壁に攻めかかったのを目の当たりにし、その勢いに対処すべき術を持ち合わせていなかった。

「城兵! ヌイが敵に加担した離反者を討つべく、この城まで戻った! すぐに城門を開かねば、城内の兵達も離反者に加担したとみなし、皆殺しにする! いかがする!! 城門を破った後での言い訳は一切聞かぬ!!」

 城壁に配備されている兵たちに、一瞬の躊躇も許されていなかった。

 肝を奪われ、ヌイの言いなりとなった指揮官の命で、直ちにベンナ城の城門は大きく開かれる。

「敵に加担していない者は、その場で武器を捨てうつ伏せになれ! 裏切り者のヴェルブリュートの居場所が分かる者はうつ伏せになりながら、腕だけ上げて、その方向を指し示せ!」

 ベンナ城に入ったヌイの軍勢は、そう言いながら城内を駆け回った。

 一時いっときの考える間も城兵に与えず、さらに生き残るためには武器を捨てうつ伏せになり、さらにヴェルブリュートの居場所を指し示すしか手がないと、城兵に思わせた。

 このヌイの電撃的な襲撃により、ベンナ城入城からわずか三十分で、ヴェルブリュートは、ヌイ軍によって完全に包囲されてしまった。

 領主のヴェルブリュートも、ヌイ軍がベンナ城に迫ったと知り、すぐに遠征軍の司令官アコニト将軍と合流しようとしたが、その合間すらなかった。

「ヌイ殿! これは何事か! 味方の城に襲撃を仕掛けるなど、穏やかではありませんな!!」

 ヴェルブリュートは逃げられないと見るや、堂々とヌイ軍の前に姿をさらし、大声で怒鳴る。

「ヌイ殿はどこだ! 私が敵と通じているなどと……!! いかなる小人しょうじん讒言ざんげんによるものか! 事実無根も甚だしい!!」

 顔を真っ赤にして大声を張り上げながら、堂々と歩みを進めるヴェルブリュートに、さしものヌイ軍の兵も、ヴェルブリュートの歩む方向の道を開ける。

「俺はここだ!」

 そのヴェルブリュートの前に騎馬に乗ったヌイが立ちはだかる。

「おお、ヌイ殿! そこにおったか! どのような行き違いが、このような結果になったかは私にはうかがい知れぬが……、そのような誤解はすぐにでも解かれよう! ささっ、アコニト将軍の前でじっくりと話し合お……」

 ヴェルブリュートに一気に近づいたヌイの剣によって、ヴェルブリュートの首は一瞬にして彼の胴から離れ、これ以上、彼の舌が動くことはなかった。

 いくらでも得意の弁舌で、アコニト将軍やヌイを丸め込めると信じていたヴェルブリュートであったが、今回はその土俵にすら立たせてもらえなかったのであった。

 そういう意味でヴェルブリュートは、ヌイという人物を過小評価したかくくっていたといえよう。


「アルヒ地方領主ギャリッグと、ベンナ地方領主ヴェルブリュートの二人が有無を言わせぬ形で討ち取られたことにより、一連の利敵行為や造反行為が一気に明るみに出て、この問題はあっさりと片付いてしまった!」

 ルーラもさすがに、飛兵からの報告に呆れたようにそう述べた。

「アルヒ地方領主ギャリッグの参謀ジューバを生かしたまま捕らえたとしても、ヴェルブリュートの一連の疑惑行為を暴くには、かなり証拠を用意し、こちらとしてはヴェルブリュートが何も言い訳出来なくなるほど理詰めに追い込むしかないと考え、私なりに構想を練っていた。それをヌイは、その場の勢いと力業のみであっさりと果たしてしまった。いろいろ今後のことを考えていた私が馬鹿を見るぐらい……」

 ルーラとしては笑うしかなかった。

「下手すれば、こちらが敵に寝返ったことにされるぐらいの強引さだ!」

 クーロもそういうしかなかった。

「しかし、ヌイ様はそれを見事に解決された!」

「そう、ツヴァンソの言う通りだ!」

 ツヴァンソの言葉にルーラも頷く。

「キャラパス砦への強襲もさることながら、その後、ヴェルブリュート軍が後退するのと合わせてベンナ城まで一気に追い込み、そのベンナ城でも味方の城の開門を待つことなく、瞬く間に城内への侵入を果たしてしまった。ヴェルブリュートが城内のアコニト将軍と合流する前に……。これなどは、なまじ城外で開門するまで待っていたら、城内で少数のアコニト将軍側は人質に取られ、ヴェルブリュートがアコニト将軍の命と称して、ヌイの軍勢と城の内外で対峙することになっていたかもしれない。そうなっては最悪だ! 地方領主の命で、我々もベンナ地方とアルヒ地方において孤軍となってしまったであろう。その後、ヴェルブリュートが聖王国とゴンク帝國とどちらを選ぶかは本人次第だが、その時には、ヌイや私たちは全員全滅し、聖王国の海岸線奪取の悲願も夢で終わってしまった。舌と謀略で対抗しようとしたヴェルブリュートを、ヌイは力と勢いで一気に押し切ってしまった。こうなると、ヴェルブリュートの利敵行為に積極的に関わっていた側近たちも、ヴェルブリュートが死んで、本人が口を出せないのであるから、全ての罪をヴェルブリュートに押し付けることが出来てしまった。ギャリッグの参謀ジューバにしても、ギャリッグとヴェルブリュートの二人が亡くなっているのであるから、この二人に全ての罪をなすりつけるという形で積極的に真相を語ることであろう。これほどの鮮やかな解決方法は、私では無理だ!」

 ルーラはそう言うと、深くため息をついた。




〔参考 用語集〕

(人名)

 アコニト(聖王国の将軍。アルヒ地方攻略軍総司令官)

 ヴェルブリュート(聖王国領ベンナ地方領主)

 ギャリッグ(ゴンク帝國領アルヒ地方領主)

 クーロ(マデギリークの養子。大隊長)

 ジューバ(ギャリッグの参謀)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。大隊長)

 ヌイ(ソルトルムンク聖王国の中官)

 ルーラ(ソルトルムンク聖王国の小官)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ゴンク帝國(ヴェルト八國の一つ。東の国)


(地名)

 アルヒ城(アルヒ地方の主城)

 アルヒ地方(ゴンク帝國領)

 キャラパス(アルヒ地方の砦の一つ)

 ベンナ城(ベンナ地方の主城)

 ベンナ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

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