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【112 アルヒ地方の戦い(七) ~砦陥落~】


【112 アルヒ地方の戦い(七) ~砦陥落~】



〔本編〕

 両側に断崖絶壁の壁がそそり立つ細道の出口に設けられた砦。敵は少数しか砦に取り付けず、さらに両側の断崖絶壁の崖の上からの攻撃に晒されるので、その砦は小規模であっても何人なんびとにも落とすことの出来ない、いわゆる難攻不落の砦であった。

 しかし、両側の崖に砦側の者が配置されているというのが必須条件での難攻不落である。仮にその崖の上を敵に奪われた場合、両側の崖より低い位置にあるその砦は、一気にその難攻不落の性質を失い、むしろ両側の崖の上から砦の内部を直接矢などで攻撃されるなど、脆弱な障害物の一つへと成り下がる。

 そして、クーロとツヴァンソの大隊によって両側の崖の上が制圧されたことで、その状況が作られてしまったのであった。こうなっては、砦陥落は時間の問題であった。

 クーロ大隊の弓兵が砦の内部に一斉に矢を射かける。これだけでも砦の陥落は決定的であったが、さらにツヴァンソを始めとする大隊の騎兵たちが、ホースに騎乗したまま、断崖絶壁の崖を駆け下りる。

 断崖絶壁の崖を駆け降りることが出来る騎兵はそう多くないが、少なくともジュリス王国産のホースは全てそれが可能で、ものの一分もしない間に数十騎の騎兵たちは砦の内部に到達した。

 そして、そのような精強なツヴァンソを始めとする数十騎の騎兵に対抗できるゴンク帝國兵は、砦内には一人としていなかった。

 砦は、構造上、細道からやってくる敵に対処するためだけのものなので、砦の内部と裏は一切防衛出来る仕様は施されておらず、ツヴァンソたちが砦の内部に到達した段階で、ゴンク帝國兵は一目散にアルヒ城に向かって逃走を始めた。

 むろん、アルヒ城にこの状況が伝わるのを避けるため、すぐにツヴァンソの騎兵は追撃に入り、結果、逃走をはかったゴンク帝國兵は、全て殺されるかあるいは捕らえられた。

 ツヴァンソはすぐに砦の内部のかんぬきを外し、ヌイ中官軍を迎え入れる。

「クーロ殿! ツヴァンソ殿! 今回の仕儀、非常に感謝する! 千人にはなったが、我が軍は当初の予定通り、アルヒ城を急襲する!! クーロ殿並びにツヴァンソ殿はそれぞれの大隊を率いて、我が軍の後に続いてほしい!」

「はい! 隊列を整え次第、すぐにヌイ様の後を追います!」

 ツヴァンソは嬉しそうにそう言った。

「うん! ツヴァンソ殿が頼りだ! 俺はすぐにアルヒ城に向かうが、よろしく頼む!」

 そう言うとヌイは生き残った中官軍千と共に、アルヒ城に急行した。



 後の六大将軍の一人ヌイは、基本、傲岸不遜ごうがんふそんである。

 実力の無い者、又は地位に比して実力が伴っていない者に対し、非常に辛辣な態度を露骨にとる。

 しかし、ヌイが実力を認めた者に対しては、辛辣な態度から一転、非常に友好的となる。

 このようなところは、ジュリス王国の猛将アッティモ将軍の性格に非常に似ているといってよい。アッティモ将軍のクーロとツヴァンソへの最初の風当たりの強さと同類といえる。

 そして、アッティモ将軍とヌイの共通点は、たとえ自分より地位が高い者であっても、実力不足の者には、その実力に見合った最低限の礼儀だけを素直に表に出す。

 そこは自分より身分の低い者には強く、自分より身分の高い者には弱いといった小者とは根本的に精神の有様が違う。

 そして、今回のケースのようにヌイが罠に嵌まり、そこから自分より身分が低く、過小評価していたクーロやツヴァンソが自分を助けた場合などには、それまでの態度から一転、それを素直に感謝し、そして正当に評価する。

 こういったことを素直に出来るヌイは、やはり大物の風格をまとっているといってよい。

 普通は、ヌイの部下プリソースカの反応の方が、それまでツヴァンソを馬鹿にしていた経緯から鑑みれば、自然であろう。

 その点で言えばツヴァンソもある意味、ヌイに近い傾向がある。

 初日のベンナ城での軍議の席で、ヌイから罵られ、そのヌイから婿になりたいと声をかけさせてやるとまで息巻いていた下りなどは、とにかくヌイに対して、一種の対抗意識に似た感情となっていたのであった。

 しかし、ヌイを助けたことを素直に喜ばれ、頼りにしているとまでヌイに言われたことにより、それまでの一切の負の感情が吹き去り、いそいそと大隊をまとめ、ヌイの後をすぐにでも追うという、憧れの男子を追いかける少女のような気持ちに簡単に切り替わるところなどは、そういう単純な精神構造からであろう。

 クーロは、そのツヴァンソの極端な感情の起伏に辟易しながら、また寂しい気持ちがムクムクと湧いてくるのを感じた。

 しかしクーロもまた性格的にそれを一切表に出さず、冷静に大隊をまとめあげ、ツヴァンソ同様ヌイの後を追ったのであった。


「ギャリッグ様! ベンナ地方領主ヴェルブリュートも、いよいよ追い詰められたということですかな?!」

 痩せて青黒い顔つきの男が、ゴンク帝國領アルヒ地方の領主ギャリッグにそう語りかける。

 その男はいやらしい笑みを浮かべ、クツクツと囁くように言葉を紡ぐ。その声量も蚊がささやくように小さいが、それでも傍にいる大柄の男の耳元だけにははっきりと聞こえる不思議な声色であった。

「まあ、ヴェルブリュートの奴も、ここまで自分が追い詰められるとは思わなかったのであろう。そうでなければ、ここまで思い切ったことはしない!」

 アルヒ地方領主ギャリッグは、そう言うと肥えた腹をゆすりながら大声で笑った。

「今までわしと、国家に無断で協定を結んでいたにせよ、それでわしも奴も、自分たちの地方の安定を保つことが出来たのであるから、それは殊更に問われるほどの重大な利敵行為ではなかった。現に、奴の聖王国の中にも、ヴェルブリュートとわしの関係を疑う者も皆無なわけではなかったが、あえて表沙汰にしてこなかった。聖王国にとってもそれはそれで都合が良かったからな!」

「しかし今回のアルヒ地方への侵攻で、ヴェルブリュートにとって事情が大きく変化した、ということですな! 領主!」

「そうだ! フルーメス王国にミケルクスド國への侵攻を始めさせるための、我がゴンク帝國への牽制が目的のアルヒ地方への侵攻だけであれば、ヴェルブリュートの身の上がそれほど逼迫ひっぱくするほどの事態にまでは至らなかった!」

「……しかし、大誤算が一つあったというわけで……」

「そう! その侵攻軍のヌイが思いのほか強く、かつ侵攻に対して積極的だったということだな!」

 そう言うと、ギャリッグはまた大声で笑った。




〔参考 用語集〕

(人名)

 アッティモ(ジュリス王国の将軍)

 ヴェルブリュート(聖王国領ベンナ地方領主)

 ギャリッグ(ゴンク帝國領アルヒ地方領主)

 クーロ(マデギリークの養子。大隊長)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。大隊長)

 ヌイ(ソルトルムンク聖王国の中官)

 プリソースカ(ヌイ軍の司令官)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 ゴンク帝國(ヴェルト八國の一つ。東の国)

 フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(地名)

 アルヒ城(アルヒ地方の主城)

 アルヒ地方(ゴンク帝國領)

 ベンナ城(ベンナ地方の主城)


(その他)

 大隊(中隊五部隊で編成される隊。二百五十人規模の隊)

 中官軍(三千人規模の軍)

 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)

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