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【011 ふたりの初陣(三) ~クーロ怒る~】


【011 ふたりの初陣(三) ~クーロ怒る~】



〔本編〕

「クーロ様の実力を拝見いたしまして、少しクーロ様の配置を変更させていただきます」

 小隊長ヘルリンの申し入れである。

「今、我ら小隊の隊列は、前五人の横隊列、後ろ四人の横隊列、そして隊長の私がその後方から指示を出す三列の型で成り立っております。

 これは、我が小隊だけでなく、ここで前線を張っている小隊全てがこの陣形であります。この横陣で、敵騎馬隊の突進を防ぎ、中央からの応援が来るまでの防御陣として、時間を稼ぐのを第一の目的とした陣であります」

 これについては、クーロのみならず、既に今回の戦いに参戦している兵全員が理解している事柄であった。

「それで今は、クーロ様を前列の中央に配置させていただいております。クーロ様の右隣りがヨグル殿、そして、左隣が我が小隊で最も戦上手のヤンムール。つまり、クーロ様は初陣ということでありましたので、一番戦いに慣れていない者の位置に配置いたしました」

 それについて、クーロも大きく頷く。

 確かに、前列五人の中央であれば、両側に味方いる上、仮に敵によって自分が切り崩されそうになっても、両隣がそれをフォローし、さらに後列の者が状況次第では応援に駆けつけ、よほどのことがない限り、敵に倒されることはない。

 つまり、十人で形成された今回の隊列の中で最も安全な位置であった。

「しかし、クーロ様の実力を拝見させていただきまして、小隊の防御陣の全体的な底上げから、クーロ様の戦力をより有効活用できる位置に配置を変えたいと思います。

 クーロ様を、前列の一番右側に位置を変更いたします。クーロ様の左隣にヨグル殿を配置いたしますが、右隣は、隣接する別の小隊の左端の者と、じかに接する位置になりますので、隣に小隊の者との連携も必要になって参ります。

 その連携がうまくいかないと、小隊のあいだから敵の侵入を許してしまい、そこから、横陣の裏を取られてしまうという最悪の事態も起こりかねません。

 別の小隊の者との連携が必要な非常に重要なポジションであります。むろん、後列の者もフォローいたしますし、場合によっては小隊長の私もフォローに回りますので、どうぞご安心ください。

 しかしながら、クーロ様の実力を拝見する限り、それほど困難なポジションではないと思われます!」


 クーロが初陣を経験した龍王暦二〇〇年一月二九日、午後六時過ぎ。

 冬の太陽が西に沈み、敵軍もようやく兵を引いた。

 初日の戦いが終わったわけだが、クーロは無事に生き残れた。

 生き残ったクーロの気持ちは、少なからず高揚していた。

 クーロは小隊長からの指示により、昼前に、最も安全な前列の中央から、隣接する別の小隊の者との連携が必要な前列の最右端に配置換えされ、結果、その位置でも十分に役割を果たしたのであった。

 最初の三十分こそ、面識もない別小隊の最左端の者との連携であったため、相手の動きが把握できず、二、三回冷や汗を流す場面もあったが――それは隣の別小隊の者も同様であったかもしれないが――、三十分を過ぎたあたりから、隣の者の動きも把握できるようになり、それに伴い、連携も軌道に乗ってきた。

 そして、初日の戦いが後二時間ほどとなった午後四時過ぎには、その者との目配せアイコンタクトで、まるで長年共に戦場を馳せた戦友さながらの連携を発揮し、敵は、その二人の間に、別小隊同士に起こりがちな連携を欠いた動きによる隙を、全く見出すことが出来なかった。

 敵が引き、戦いが終わった瞬間には、お互いに健闘をたたえ合い、二人の連携を間近で見ていた二つの小隊の皆々も、それに喝采かっさいを送るほど見事なものであった。

 クーロの初陣前の不安は、この初日の戦いで完全に払しょくされた。

 自分は人より劣っているのではないかと案じていたクーロにとって、この一日の経験は、大いなる自信に繋がる。

 その日の夜に、ツヴァンソがこっそりクーロの元を訪れるまでは……。


「ツヴァンソ! また、勝手に自分の持ち場を離れて……。何の用だ!」

「クーロの顔をちょっと見たくなって……」

 ツヴァンソのこの言葉に、クーロはドキッとなった。

 暗がりだったので、顔が赤らんだのを、ツヴァンソに悟られなくて、ホッとしたぐらいであった。

「よかった! クーロ、生き残れたんだね! クーロのことだから、初陣であっさり死んだかもしれないと思って、本当に心配した!」

「……」

 ツヴァンソのこの言葉に、さすがにクーロは鼻白んだ。

 ちょっと前まで、変な期待をして喜んだ自分を大いに恥じながら……。


「ツヴァンソ! 僕は今日の戦いで、自分も少しはやれるという自信を持つことができた! 隊長のヘルリンも、すごく喜んでいて、明日は、今日よりさらに重要なポジションへの配属となった!」

「……」

 ツヴァンソは、このクーロの興奮した報告に、さしたる興味も抱いていないようであった。

「……最初は、最も安全な前列の真ん中だったが、昼前から前列の最右端で、隣の別小隊の兵との連携を求められる位置に配置換えされた。その兵との連携ぶりが認められ、明日は後列の、前列の状況に応じて、それをフォローするという役割に……」

「で! 今日、何人の敵を倒したの?!」

「えっ……!」

 ツヴァンソによって、いきなり話の腰を折られたが、クーロはそれより、聞かれた質問の内容に驚く。

「……いや、まだ敵を倒すには至っていない。……っていうか、今日は初陣の初日だよ! 生き延びるのに精一杯だよ、誰もが……」

「呆れた!」

 ツヴァンソのびっくりした声。

「クーロは将軍を目指しているのに、その目標の低さは何?! ……でも、クーロならしょうがないかぁ~。とりあえず、頑張って明日も生き抜いてね」

 さすがのクーロも、このツヴァンソの言葉に怒りをあらわにする。

「いくらツヴァンソでも、それは兄に対する侮辱だぞ! そういうお前はどうだったんだ!!」

 ツヴァンソは、クーロのこの怒りに少しびっくりしたように、

「へぇ~。クーロもそんなに感情的になる時もあるんだ、意外! いやぁ、ごめんごめん! クーロなりに頑張ったのに、それを悪しざまにいっちゃって……。本当にごめんね!

 私はね、今日は二人倒して、後、三人に傷を負わせた……」

「……」

 クーロは、ツヴァンソのこの言葉に、二の句が継げられなかった。




〔参考 用語集〕

(人名)

 クーロ(マデギリークの養子)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹)

 ヘルリン(クーロの所属している小隊の長)

 ヤンムール(ヘルリン小隊の一員)

 ヨグル(クーロの付き人)


(その他)

 小隊長(小隊は十人規模の隊で、それを率いる隊長)

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