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【109 アルヒ地方の戦い(四) ~偽りの情報~】


【109 アルヒ地方の戦い(四) ~偽りの情報~】



〔本編〕

 そしてキャラパス砦の左(東)側にある砦を攻めるために編成されたはずのルーラ、クーロ、ツヴァンソの千五百の軍勢は、実はその砦を攻めてはいない。

 キャラパス砦の左(東)側の砦を攻めると見せかけ、そのまま南に方向を変え、アルヒ城を急襲するするヌイ二千の軍勢の後を追った。

 ぎりぎりまでキャラパス砦の左(東)側の砦を攻めると見せかけるために、七キロメートルほど東に進軍し、残り砦まで二キロという地点で急に南に進軍方向を変えたのであった。

 そのため、進軍開始の翌日にアルヒ城に向かって急行するヌイ率いる二千の軍勢に遅れること二時間、ルーラ、クーロ、ツヴァンソの連合軍は、アルヒ城に向かって進軍していた。

 むろんこの動きは、ヌイも知らず、当然、敵方であるゴンク帝國も気付いてはいなかった。


 さて二七日の午前五時、二日前の軍議で決定したとおりヌイ率いる中官軍のうち、シュナーベルの小官軍を除いた二千の軍勢は、ゴンク帝國領アルヒ地方の主城アルヒ城に向け最速で進んでいた。

 キャラパス砦からアルヒ城まで、直線距離にして五十キロメートルであったが、どこまでも青々とした草が生い茂る平坦な草原地帯であるため、騎兵によって編成されたヌイの軍は、その機動力を最大限に発揮し、三十分間で四十キロメートルを走破し、ついにルーラから危地と言われた左右が断崖絶壁の人力によって切り開かれた細道の入口に到達する。

 その細道は距離にして一キロメートル。

 ホースが横に十頭しか並べられない細道であったが、ヌイの指示により、みるみる十頭の細長い縦列陣に変化し、その細道に躊躇なく踏み込む。

 わずか一キロメートルの細道。何の障害もなければ、ものの一分程度で駆け抜けられる距離であった。

 しかし一分経っても、その細道から抜けられない。

 さらに一分が経過する。まだ細道の出口が見えてこない。それは既に細道の距離が、情報の倍の二キロメートルを超えているということを意味する。

 ヌイの脳裏に一抹の不安がよぎる。この道はヌイが直接調べた箇所ではない。ゴンク帝國領アルヒ地方と長年戦っている聖王国領ベンナ地方の地方領主ヴェルブリュートからの得た情報である。

 既に細道の距離は三キロメートルすら超えた。

 これはヴェルブリュートからの情報が、誤差の範囲とは言い難いぐらい明らかに違うものであることを如実に物語っている。

 そして四分が経過し、やっと危地である細道の出口らしき光景が目の前に見えてきた時、そこに絶望を抱かせるに十分なモノが存在していた。

 その細道の唯一の出口を防ぐ障害――砦がそこに存在していたのであった。


 細道の距離が一キロメートルという情報に対し、実際は四キロメートル以上という四倍もの差。

 細道の両側が絶壁の崖という地形から、人の手で簡単に道の距離を伸ばせる地形でないのは明白である。

 それに加えて、細道の出口に作られている砦。これも、数日程度で作れるような作りの砦ではない。

 以上から、ベンナ地方の地方領主ヴェルブリュートの情報が誤りであるのははっきりした。それも、調査した上での誤りでなく、間違った情報を意図的にヌイに伝えるという、れっきとしたヴェルブリュートによる利敵行為以外の何物でもなかった。


 ヌイにとって、目前の砦を陥落させるしか、この細道から脱出する術は残っていなかった。

 ヌイは先頭に立ち、砦目がけて激しく攻め立てるが、地形の上から砦を囲むことが出来ず、さらにホース十頭しか並ぶことが出来ない細道では、いかにヌイが猛将であっても、せいぜい砦の壁に武器で切りつけるぐらいのことしか出来ない。

 砦の上からは大きな岩を落とされ、ヌイと共に砦に攻めかかった数人の騎兵が、その岩の下敷きになって息絶える。

 さらに砦からだけでなく、両側の崖の上にも敵兵が伏せられており、それらの兵が岩を落としたり、矢を射かけたりする。

 細道にひしめき合い前にも後ろにも進めないヌイ率いる二千は、岩や矢の雨から回避する術のないまま、次々と倒れていく。

 砦や崖に貼り付き、砦の壁や崖を登ろうと試みる兵も幾人はいるが、それらの兵は五メートルも登れないまま、全て岩や矢で殺された。

 罠にはまって一時間余り、ヌイの軍はまさに進退窮まり、軍の全滅がヌイの頭をよぎったその時、そこに思わぬ援軍が到着したのであった。

 ルーラ、クーロ、ツヴァンソ率いる連合軍であった。


 ヌイが危地に陥ったころより一時間ほど遡った時、ルーラ、クーロ、ツヴァンソの連合軍は、両側が断崖絶壁の細道の入り口から二百メートル手前まで来ていた。

 そこで三人が目にした光景は、両側の崖を登ろうとしている数百の兵の姿であった。

 そして、そのうち半数は細道の入り口から中へまさに侵入しようとしているところであった。

 朝靄ではっきりとは認識できないが、ヌイの軍はとっくに細道への侵入を果たしていることから、ヌイの軍勢ではないのは明らかであった。

 ここが敵地の深層部であることから鑑みて、先ず敵兵で間違いはない。


「やはり敵の罠でしたね!」

 数百の敵兵を千五百の兵で蹴散らし、細道の入り口を確保した時点で、ルーラがクーロとツヴァンソにそう語りかける。

「ずっと、ヌイ殿所属の魔兵に、罠の可能性と私たちが後続として続いていることを、魔術を行使し伝え続けているのですが、どうやら敵側の魔術的な妨害を受けて伝わっていないようです! このことから敵の策略が仕掛けられているということはある程度確信しておりました……。とにかく、急ぎましょう! 下手すればヌイ殿の軍が全滅の憂き目にあいます!」


 ツヴァンソ大隊の騎兵が先頭で、アルヒ城へ繋がる細道へ突入した。

 本来、敵が崖の上に兵を伏せているのが分かっているならば、先ずは崖を登り、崖の上を確保してから、そのまま崖の上を進むのが最も安全ではあるが、崖の上はでこぼこの荒れ地の上、木々も生い茂り、それほど広くないことからそのルートは進軍するのに、多くの時間が必要であった。

 その細道である危地の距離も未定の今、どれだけの時間を費やすか分からない崖の上を移動するのは、ヌイ中官軍が既に罠に嵌まっていることを察するに、援軍が間に合わない可能性が高い。

 そう考えたルーラは、騎兵が最も機動力を発揮できる細道を全速力で駆けることを敢えて選択した。

 敵がヌイ中官軍を狙いターゲットとしているのであれば、そのヌイ中官軍に近づくまで、敵には遭遇しないと、ルーラは判断したのであった。




〔参考 用語集〕

(人名)

 ヴェルブリュート(聖王国領ベンナ地方領主)

 クーロ(マデギリークの養子。大隊長)

 シュナーベル(ヌイ軍の司令官の一人。千人将)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。大隊長)

 ヌイ(ソルトルムンク聖王国の中官)

 ルーラ(ソルトルムンク聖王国の小官)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ゴンク帝國(ヴェルト八國の一つ。東の国)


(地名)

 アルヒ城(アルヒ地方の主城)

 アルヒ地方(ゴンク帝國領)

 キャラパス(アルヒ地方の砦の一つ)

 ベンナ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)


(その他)

 小官軍(軍の最小単位で、千人規模の軍)

 中官軍(三千人規模の軍)

 大隊(中隊五部隊で編成される隊。二百五十人規模の隊)

 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)

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