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【106 アルヒ地方の戦い(一) ~快進撃~】


【106 アルヒ地方の戦い(一) ~快進撃~】



〔本編〕

「どうやら、ジュリス王国と共同でのドクサ地方攻略で、すっかりジュリスのアッティモ将軍と意気投合したようだな! あの猛将は……」

「はい! 攻略戦の当初こそ、ガストロンジュは、アッティモ将軍と火花を散らし合うほど険悪の仲ではありましたが、『豪傑は豪傑を知る』とでも言うのでしょうか! すっかりドクサ地方攻略で我が筆頭副官ガストロンジュ殿は、ジュリス一の猛将アッティモ将軍と完全に馬が合ったようで、どうやら私に内緒でドクサ地方から帰る前に、将軍と義兄弟の契りまで交わしたとか……。今回のミケルクスド國侵攻でも、ガストロンジュは兄貴(アッティモ将軍)とくつわを並べられる喜び、自らジュリス王国派遣を志願して参りました!」

「ハッハッ! それであれば、北方戦線は何の問題もないな! 唯一の憂いとしては、ジュリス王国がミケルクスド國に侵攻している隙をついて、バルナート帝國がジュリス王国に攻め寄せるのではないかというところだが……」

「そちらも大丈夫であると思います。今回のミケルクスド國侵攻にあたって、バルナート帝國との国境付近にはフセグダー将軍を配備させるとのことでありますので……」

「ほう、『生きる武神』をバルナート帝國への守りに置くとは……。何とも贅沢な使い方だが、それならばバルナート帝國も軽々しくジュリス王国に侵攻することはなさそうだな!」



龍王暦二〇三年二月三日、ブーリフォン聖王子がタシターン城に到着してから一月後、ブーリフォン聖王子を主将、マデギリーク将軍を副将とした三万の軍勢が、ミケルクスド國領バラグリンドル地方への侵攻を開始した。

その三日後の同月六日、聖王国軍の侵攻に合わせ、ジュリス王国アッティモ将軍率いる軍勢がミケルクスド國北部に侵攻を開始する。

 それよりさらに九日後の同月一五日、フルーメス王国もミケルクスド國南部に侵攻を開始した。


 フルーメス王国が侵攻を開始したその頃には、ヌイ率いる聖王国のゴンク帝國侵攻軍は、さらにゴンク帝國領アルヒ地方四拠点を制圧し、わずか四十五日間でアルヒ地方の七拠点を下し、アルヒ地方の半分を手中におさめる。

 逆に言えば、フルーメス王国はヌイ軍の活躍によって、ゴンク帝國から侵攻される恐れが一切無くなったと結論づけ、ミケルクスド國への侵攻を始めたわけではあるが……。

 フルーメス王国は、二十年前ミケルクスド國によって飲まされた煮え湯の恨みを晴らすべく、一旦侵攻を開始するや、ミケルクスド國の南半分を全て奪うのではないかと思われるほど苛烈であった。

 かくして聖王国のバラグリンドル地方攻略、ひいては聖王国が二十年前に奪われた海洋奪取戦略の基本骨子の要素が、ここに全てそろったといえる。

 後は、各箇所で戦っている聖王国の軍や部隊のそれぞれの戦術レベルの活躍が、作戦の明暗を分ける話となってくる。

 クーロとツヴァンソは、まだこの一連のバラグリンドル地方攻略戦において、直接敵と交戦はしていない。

 しかし彼らの今後の活躍が、この大作戦の成否に関わるほどの結果をもたらすことになるのであるが、それは後筆にて……。



 ツヴァンソが息を飲む。

 ヌイが率いる中官軍の戦いを間近に見た時の、彼女の行為であった。

 ヌイ中官軍がゴンク帝國領アルヒ地方に侵攻を始めて五日後の龍王暦二〇三年の一月一四日。

 その前日までは、ヌイ中官軍がゴンク帝國軍に勝利し続けていると聞かされても、後続のコロンフル軍に配属されていたツヴァンソには、それを実際に見る機会は無かった。

 しかしこの一四日は、コロンフルの後続軍が山岳を移動している際、そこから距離にして一キロメートル先の山のふもとが一望でき、ちょうどその麓で戦っているヌイ中官軍の有様を見ることができたのであった。

 一キロメートル先の山の麓であるから、そこで戦っている兵は米粒のような大きさであったが、それでもヌイ軍の鬼気迫るほどの迫力が、まるで目の前で戦いが繰り広げられているかのような錯覚に陥るほどに、ひしひしと肌に伝わっていく。

 数でいうと、ヌイ軍三千人に対し、おそらくはゴンク帝國軍は、五千人はいたと思われるが、そのような数の上での不利を全く感じさせないほど、ヌイ軍はゴンク帝國軍の中へ分け入り、一方的な戦いを演じていた。

 ヌイ軍が三つに分かれて暴れ回り、数で勝るゴンク帝國軍の陣形を思いのままに切り裂いてさまは、まるで三つ首の竜が、無人の野原を焼いているのかと思えるほどであった。


 ヌイ中官軍の三軍の一つの先頭に、黒い大女の姿があった。

 一キロメートル先で、ほぼ米粒ほどの大きさのはずであるその人物は、ツヴァンソの瞳をくぎ付けにしてしまうほど、強烈な印象を、ツヴァンソに与えていた。

 巨大な矛のような得物を自在に操り、敵をなぎ倒していくその姿は、真っ黒な鬼神を連想させる。

「プリソースカ!!」

 ツヴァンソは、ヌイを自分の婿にするに当たり、最初の障壁となるその女武将の名を呟く。

 初日の軍議後、ツヴァンソはプリソースカをヌイの元から追い出すために、本気で彼女に一騎打ちを挑むつもりでいた。

 むろんツヴァンソは、自分が勝つ想像しか、その時は出来なかった。

 しかし、今目の前で敵を蹴散らしているプリソースカを目の当たりにして、ツヴァンソの中のその絶対的な自信が揺らぎ始める。

 むろん、ツヴァンソの胸の内に、全く勝ち目がないというほど深刻な思いはない。

 それでも一騎打ちをした場合の勝敗は五分五分。いや、武器の長さを考慮すれば、自分の方が三分七分で分が悪いと感ずる。

 ツヴァンソが、初めて同姓の女性をライバルと認識した瞬間であった。


 龍王暦二〇三年二月二五日。ヌイ中官軍は、ゴンク帝國領アルヒ地方にある八つ目の拠点を制圧した。

 順調にアルヒ地方を攻略し続け、ブーリフォン聖王子率いる三万の軍勢が、ミケルクスド國領バラグリンドル地方を攻略するのを、大いに後押ししているヌイ中官軍であったが、ヌイ本人は不満が蓄積しており、今にも爆発寸前であった。

 その原因は単純明快で、一月一〇日からゴンク帝國領アルヒ地方へ攻め込んで、二月二五日までおよそ五十五日間を費やしたが、最初の十日間で三つの拠点を落としたのに対し、続く二十五日間で四つの拠点、そしてその後の二十日間で一つの拠点のみの制圧と、一つの拠点を落とすのにかかる日数が、長くなってきているのが明らかだからであった。

 具体的な数値で換算すると、最初の三拠点は十日間で落としているので、一拠点当たり三日強。続く四拠点は、一拠点当たり六日強。そして八つ目の拠点に関しては、一拠点に二十日の日数がかかった。

 アルヒ地方の中心にある主城アルヒ城に近づけば近づくほど、一つ一つの拠点を攻略するのに日数がかかるのは自然の流れのように一般の指揮官であれば考えるところであるが、ヌイはそれが単純に受け入れられないタイプの指揮官であったからである。




〔参考一 用語集〕

(人名)

 アッティモ(ジュリス王国の将軍)

 ガストロンジュ(マデギリーク将軍の第一副官)

 クーロ(マデギリークの養子。大隊長)

 コロンフル(マデギリーク将軍の副官)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。大隊長)

 ヌイ(ソルトルムンク聖王国の中官)

 ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子)

 フセグダー(ジュリス王国の将軍。『生ける武神』の異名を持つ)

 プリソースカ(ヌイ軍の司令官)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 バルナート帝國(ヴェルト八國の一つ。北の強国)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 ゴンク帝國(ヴェルト八國の一つ。東の国)

 フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)


(地名)

 アルヒ地方(ゴンク帝國領)

 タシターン城(タシターン地方の主城)

 ドクサ地方(ジュリス王国領)

 バラグリンドル地方(ミケルクスド國領)


(その他)

 中官軍(三千人規模の軍)

 副官(将軍位の次席)



〔参考二 大陸全図〕

挿絵(By みてみん)

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