【105 大攻略作戦始動】
【105 大攻略作戦始動】
〔本編〕
「おっしゃる通りです!」
コロンフルが話を続ける。
「立場が自分の方が上ということは、ツヴァンソ様も十分に認識しておられます。おそらくは、クーロ様以上に明確に……。そのクーロ様に、純粋な憧れとしてルーラ様という存在があることをツヴァンソ様が初めて知り、その上、そのルーラ様がクーロ様のことをごぞんじ以上に、ある程度ではありますが認めておられる。これは、いわゆるツヴァンソ様の立場からすれば、安全パイであられたクーロ様が、実はそうではないという認識をさせられたということであります。むろんツヴァンソ様も、それほど明確に認識されているわけではありませんが……。クーロ様! ツヴァンソ様がイライラするには十分な理由といえるのではないでしょうか?」
「そう言われてみれば……」
「クーロ様! ご自分をツヴァンソ様に置き換え、ルーラ様をヌイ様に置き換え、その時のクーロ様をツヴァンソ様と置き換えてみれば……、いかがですか? 三年前の一九九年当時のツヴァンソ様がクーロ様に、散々ヌイ様の話を聞かされている時の、当時のクーロ様の感情を思い出してみて下さい!」
「しかし、あれは僕がツヴァンソのことを好きだから、他の男性の話を聞くのが辛いということであって……。えっ! まさか、ツヴァンソが僕にそのような……」
「確かに、ツヴァンソ様の想いは、クーロ様のツヴァンソ様への想いほどではありませんが、それでも初陣以降のクーロ様に対するツヴァンソ様の想いは、憧れも含み、全く無いとは言い切れないと思います! 後、クーロ様がルーラ様のことを詳しく知っているということは、ツヴァンソ様からすれば非常に衝撃的だったと推察できます! そのルーラ様が素敵な女性で、それも自分たちと同世代であるとなれば、その衝撃はなおさら……。まるであの当時、ツヴァンソ様がヌイ様のことを、よくご存じだということと同じことであります!」
「……しかし、あの時のツヴァンソは誰にでもヌイの話を何十回も何百回もしていたぞ。僕は、ルーラのことについてツヴァンソどころか誰にも語っていない! それが同じとは?!」
「それは、クーロ様とツヴァンソ様の憧れの人に対する表現の違いだけで、根は同じと言えます。むしろ、自分の憧れをオープンに誰にでも語られるツヴァンソ様からすれば、クーロ様が今まで一切語らなかったのに、ルーラ様のことをすごく良くご存じということは、ツヴァンソ様からすればクーロ様が秘めていた分、強烈な印象になったと思われます!」
年が明け龍王暦二〇三年一月一〇日、ソルトルムンク聖王国南部のベンナ地方に集結していた聖王国軍が、ゴンク帝國領アルヒ地方への侵攻を開始した。
ゴンク帝國への侵攻軍は、ヌイ中官が率いる三千の中官軍が中核で、その後続軍としてルーラ小官が率いる千の小官軍と、コロンフルが率いる千の小官軍が、ヌイ中官軍が進発した翌日の一月一一日に進軍を開始した。
計五千の軍勢である。
コロンフル率いる千の軍には、クーロとツヴァンソの二百五十人の大隊が含まれており、コロンフルを除けば、各軍や隊の指揮官は皆十代から二十代前半の若者たちであった。
ヌイが二〇歳、ルーラが二一歳、クーロが一八歳、そしてツヴァンソが一六歳である。
同世代とはいえ、この侵攻軍に後の六大将軍のうちの四人が共に轡を並べていたのであった。
ヌイ中官軍を中心とした五千の軍勢が、ゴンク帝國に侵攻を開始する七日前の龍王暦二〇三年一月三日、ブーリフォン聖王子がタシターン城に到着した。
その報を受け、同月一〇日にヌイたち五千の軍勢が、ゴンク帝國領アルヒ地方に侵攻を開始したわけであるが、それから十日後の同月二〇日にはアルヒ地方内の三拠点を制圧し、アルヒ地方全体の三分の一にあたる東北部全域を手中にしていた。
「さすがはヌイだな! わずか十日でアルヒ地方の三分の一を手に入れるとは……」
タシターン城に滞在しているブーリフォン聖王子が満足そうに頷く。
「ゴンク帝國としても、昨年の暮れからベンナ地方に遠征軍が続々と集結しており、侵攻に関しては最高レベルの警戒態勢をとっていたと思われますが、そのような警戒態勢をとっているゴンク帝國に侵攻してなお短期間に三つも拠点を制圧するとは、ヌイ殿の実力! 想像以上のものですな!」
ブーリフォン聖王子の横に控えているタシターン地方の地方領主マデギリークも、嬉しそうに聖王子の言葉に同調する。
「そう言えば、今回の遠征軍にはマデギリーク殿の子供たちも加わっていると聞くが、あの二人は息災か?」
「クーロとツヴァンソを覚えていただき恐縮であります。今回のゴンク帝國侵攻軍の中に加わっているようではありますが、今のところヌイ殿の本隊のみで侵攻が進んでおるため、後続軍の二人はまだ活躍どころか、敵と交戦すらしていないようであります。ツヴァンソなぞは、その不服を報告の書簡の中にしたためてくる有様! よほど、戦えないことへのストレスが溜まっているようであります!」
マデギリークは、そう聖王子に報告するとカカカと豪快に笑った。
「そうか! しかし、今回のゴンク帝國侵攻にツヴァンソ殿の力が必ず必要な時が来ると私は思っている!」
「『闘王』の異名をお持ちの聖王子様からそう言っていただけたとツヴァンソが聞けば、少しはあの子の気持ちも晴れることでありましょう。早速、書簡にてそのことを伝えさせていただきます」
マデギリーク将軍もまるで自分が褒められたかのように興奮していた。
「ところで将軍!」
「はい、聖王子様! 北方の戦況でありますな?」
「うむ。南方のゴンク帝國領侵攻は、しばらくはヌイに任せておけばよい。フルーメス王国がミケルクスド國に侵攻を始めるのは時間の問題であろう。既に聖王陛下が、外交官のカヴァーロを昨年からフルーメス王国に派遣している。カヴァーロは、フルーメス王との謁見も既に数回実現させているとのこと。そのカヴァーロから、聖王陛下を経由して、近々にフルーメス軍もミケルクスド國への侵攻を開始するとの報告も受けている!」
「おお、聖王国一の外交官カヴァーロ殿が、既にフルーメス王国の王と接触をなされているとは……。ならば南方戦線は問題ありませんな。しかし聖王子様、北方戦線につきましては、それ以上に問題ございません! 私の副官の一人ガストロンジュを、昨年からジュリス王国に派遣しておりますので……」
「成程! あの猛将であれば安心だな!」
ブーリフォン聖王子がマデギリークの言葉にそう頷いた。
〔参考一 用語集〕
(人名)
カヴァーロ(聖王国の外交官)
ガストロンジュ(マデギリーク将軍の第一副官)
クーロ(マデギリークの養子。大隊長)
コロンフル(マデギリーク将軍の副官)
ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。大隊長)
ヌイ(ソルトルムンク聖王国の中官)
ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子)
マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)
ルーラ(ソルトルムンク聖王国の小官)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
ゴンク帝國(ヴェルト八國の一つ。東の国)
フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)
ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)
(地名)
アルヒ地方(ゴンク帝國領)
タシターン城(タシターン地方の主城)
タシターン地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)
ベンナ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)
(その他)
小官(指揮官の位の一つである官の第三位。千人規模を指揮する。大隊長より上位)
小官軍(軍の最小単位で、千人規模の軍)
中官(指揮官の位の一つである官の第二位。三千人規模を指揮する。小官より上位)
中官軍(三千人規模の軍)
〔参考二 大陸全図〕




