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【104 ルーラとツヴァンソ】


【104 ルーラとツヴァンソ】



〔本編〕

「ヴェルブリュート殿が裏切らないとおっしゃる、その根拠は何ですか?!」

 ツヴァンソがルーラに尋ねる。

「それは、今回の調査で分かった事柄ですが、今回のいわゆる領土等価交換の企ては、毎年同量の生産高で行われておりました。これが毎年の等価交換でなく、二年周期あるいは五年周期とかの等価交換であれば、さすがに私も今回の企てが確信するまで、より多くの時間を有したでありましょう。毎年きっちり等価交換の生産高をプラスマイナスゼロとしているのですぐに企てについて確信を得ましたが……。そしてこの現象の意味は、次の年にはその協定関係が終わっているかもしれないという、浅い信頼関係のもとで結ばれているという証拠であります。このベンナ地方とアルヒ地方限定の協定はこのような消極的なものであったため、簡単に成り立ったのでありましょう」

 ここでルーラは一旦言葉を切り、周りを見回す。

「……なので、ヌイの侵攻に対し、ヴェルブリュート殿は静観するでありましょう。ゴンク帝國との強固な信頼関係を構築しているわけではありませんので、十中八九それは間違いありません。ただ心配なのが、将来的なゴンク帝國との蜜月の関係を考えるあまり、ヌイの侵攻に対し消極的ながら邪魔をする可能性があることを否定できません。例えば敵の位置を把握していながら、ヌイ軍にその情報を流さないとか、しかしそれは私の諜報兵の情報によりカバーすることは出来ます! それでも、戦では何が起こるか分からないのも事実です。そういった懸念があるので、今日、二人にその事実を伝えたほうがいいかと思い、話しました!」


「ルーラはすごいなぁ~」

 ルーラの話が終わり、彼女が自陣に戻った後も、クーロは一人興奮していた。

「それほどかしら……? ルーラは!」

 隣にいるツヴァンソがそう応じる。

 彼女の声のトーンは低く、二人の気持ちにかなりの温度差があるのは、そばにいるコロンフルもすぐに気付いた。

「すごいと思わない? ブーリフォン聖王子様の直々の要請もそうだが、あれほどの綿密な調査結果に基づき、正しい結論を導き出すところとか……。とても同世代の人とは、僕には思えないぐらいすごい!」

「クーロは、憧れていたルーラが自分のことを知っていたので舞い上がっているだけじゃない? 確かに今日の軍議で、ルーラのあの発言がなければ、私たちは軍議の席から締め出されていたのは間違いないから、それは感謝するけど……。……私たちがあの場でそのお礼を言わなかったからって、わざわざ追いかけてくる?」

「ん?! 違うよ、ツヴァンソ! ルーラは、ヴェルブリュート殿の件をなるべく早く僕たちに伝えたかったから、僕たちの後を追いかけてきたんじゃないか!」

「クーロ兄さん! 少し甘くない!」

 ツヴァンソが目に見えて、機嫌が悪くなっていった。

「今の話だって、別に今すぐ話さなければいけない内容じゃないわよ! 明日すぐに軍事行動が始まるわけではないから、明日以降だって遅くないんじゃない!」

「そうかな?」

 クーロは首を捻る。

「そうよ!」

 ツヴァンソが重ねて言う。

「でも、既にゴンク帝國との国境近くまで来ているのだから、明日、いきなり戦いが始まるかもしれないし、ルーラも明日以降は、主だった者で信頼できる人たちを見極め、今の話をしていくのだと思うよ! それに、このような重要な話を先ず僕たちにしてくれたのは、僕たちのことを認め、信頼してくれたからだと思う。それは純粋に嬉しいことだな!」

「本当にそう思っているの!」

 ツヴァンソはますます突っかかってくる。

「あまり信憑性の高い話でもなさそうだし、むしろ私たちに話して自慢したかったのかも……。とにかく、私たちがルーラに助けられたにも関わらず、お礼の一つも言わなかったことに腹を立て、わざわざ夜中なのに押しかけてきたのよ! 絶対にそう!! クーロ兄さんが思っているような人ではないよ! ルーラは!!」

 そして、ツヴァンソはおもむろに立ち上がり、「私、もう疲れたから、これで戻るね! クーロも、早く寝た方がいいよ!」

 そう言って、彼女はコロンフルの陣を後にした。


「ツヴァンソは相当疲れているようだ! あんなにイライラしているところから考えるに……」

 彼女がコロンフルの陣を去った後、陣に残ったクーロは、コロンフルにそう話しかける。

「ツヴァンソ様が本当にお疲れで、あんなにイライラされていたと、本気でクーロ様は思っていらっしゃるのですか?」

 少しにやけながら、コロンフルがクーロに尋ねる。

「そうじゃなければ、初めて会ったルーラのことを、あんなに悪しざまには言わないと思うよ! 明日、頭がスッキリすれば、ツヴァンソにも分かることだ!」

「クーロ様は……」

 コロンフルが笑いを堪え切れない様子で、さらに続けた。

「他のことについては、非常に客観的に分析なさる能力をお持ちなのに、自分のことになるとそんなにも疎くなられるのですか? それも乙女の恋心に関しては、愚鈍すぎるぐらいです!」

「……?」

 クーロは首をかしげた。

「本当にお気づきになられないとは……。あれは、ツヴァンソ様の嫉妬からのイライラです!」

 ついにコロンフルは吹き出してしまった。

「はっ? ツヴァンソの嫉妬? 誰への?」

「もちろん、クーロ様に対してです。クーロ様が、ルーラ様のことを嬉々として語られるのが、ツヴァンソ様は面白くないのです。本当にお気づきになられていなかったとは……」

「まさか!」

 クーロは、そのコロンフルの答えに素直に驚く。

「ツヴァンソは、僕のことなんか全く相手にしていないぞ! そんな僕が誰に憧れを抱こうが、それをツヴァンソが妬くとは……、コロンフル! 話にちょっと無理があるのでは……?」

「クーロ様こそ、そんな簡単に割り切れるほど恋心は単純ではありません。確かにツヴァンソ様は、クーロ様を恋の対象とはみなしておりません。さらにツヴァンソ様は、クーロ様がツヴァンソ様のことを好いているということも分かっております。だからこそです!」

「だからこそ?!」

「ふぅ~」

 コロンフルが一息ため息をついた。

「本当に普段のクーロ様でいらっしゃいますか? この方面に関しては、わらべと変わりませんな! クーロ様、よくお聞きください。ツヴァンソ様からすれば、クーロ様は自分のことを好いているということが分かっている男性ひと。この場合、立場はどちらが上ですか?」

「そんなの当然、ツヴァンソの方が上だよ!」

 クーロが即座に答えた。




〔参考一 用語集〕

(人名)

 ヴェルブリュート(聖王国領ベンナ地方領主)

 クーロ(マデギリークの養子。大隊長)

 コロンフル(マデギリーク将軍の副官)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。大隊長)

 ヌイ(ソルトルムンク聖王国の中官)

 ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子)

 ルーラ(ソルトルムンク聖王国の小官)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ゴンク帝國(ヴェルト八國の一つ。東の国)


(地名)

 アルヒ地方(ゴンク帝國領)

 ベンナ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)



〔参考二 大陸全図〕

挿絵(By みてみん)

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