【102 ヌイ軍の実力】
【102 ヌイ軍の実力】
〔本編〕
「しかし、私のあの仕掛けで、ヌイもあなたたちのことを部下に尋ねていることでしょう。軍議の後で……」
ルーラが続ける。
「これでヌイが今後、あなたたちを軍議の席から締め出そうとすることはないと思います」
「それは助かります!」
当事者のクーロやツヴァンソが答えるより先に、コロンフルが答えていた。
コロンフルからすれば今日は顔合わせだったので、クーロとツヴァンソの軍議への同席は許されたが、明日以降の軍議への同席をヌイが許すか否かは不確定要素であったからである。
コロンフルとしては、明日以降どうやってヌイを説得すればいいかを悩んでいたところだったので、ルーラはこの言葉は、クーロやツヴァンソ以上に安心した様子であった。
「それでもヌイは完全な実力主義者で、あなた方の戦いを自分の目で確認しないと気が済まない性格です。結局、ヌイにあなた方を認めさせるには、あなた方が戦場で武勲を挙げるより手はありません!」
ルーラがそう締めくくる。
そのルーラの言葉に、クーロもツヴァンソも穏やかな顔つきで頷く。
二人の顔を見たルーラは、この二人が幸運だけで武勲を挙げてきたわけでないことが実感でき、ルーラも安心した顔付きになった。
「そしてそれは、私も一緒かもしれませんね。私が小官軍を率いていたので、ヌイも私の言い分を受け入れたかもしれません。私も実績を示せなければ、軍議の席からいずれ外されるかも……」
「ルーラについては、それは無い!」
クーロがはっきりと断言した。
「いくら、ヌイ殿が見たものしか信じない性格だとしても、ルーラの戦績は、偶然や幸運、または誇張だけで積み重ねられるものではないことは、分かるはずです!」
「ちょっと、クーロ兄さん! 兄さんは、ルーラのことについて、そんなに知っているの?」
クーロの意外な一面を見るように、ツヴァンソが驚きながら、クーロに尋ねる。
そんなツヴァンソに対して、クーロはルーラの初陣からの戦績を、簡略ながら重要な部分をかいつまんで説明した。
その内容についてはここでは省略するが、簡略でありながら、その説明にはゆうに一時間は必要であった。
「驚きました!」
ルーラの言葉。
「そこまで、私の戦績を詳しく知っている方がおられたとは……。クーロ、光栄です!」
「こちらこそ、そのようなルーラが自分のことを知っていたという事実だけで、非常なる誉です。さらに言えば、ルーラが実際に初陣する二年前から、ルーラは養父であられるセルマン将軍に付き従い、戦略は全てルーラが考えていたと、私は確信しております! それまでのセルマン将軍は、確かに優秀な将軍ではありますが、性格的に詰めが甘く、勝率六割程度の戦績であったのに、龍王暦一九八年以降は、完全勝利を何回か含む負けなしの戦績に変わりました。つまりその変化の始まりと、ルーラがセルマン将軍に付き従い始めた時期とが合致しますので……」
クーロはそう言うと、ルーラに向かってにっこりと微笑んだ。
「……それでは、私からいくつかのことをお話いたしましょう。どれも、今回の作戦を成功に導くにあたって重要な事柄であります!」
ルーラが、二人の後をついてきてまで話したかった本題に入った。
「先ず、今回のゴンク帝國への侵攻が、聖王国が海洋を得るためにバラグリンドル地方を攻略するための、いわゆる助攻的な戦いという位置づけ、しかしそれでもその助攻が失敗に終われば、主攻のバラグリンドル地方攻略も水泡に帰してしまうという性質から、今回の侵攻は主攻並み、否、場合によっては主攻以上に重要な戦いであると言えます。絶対に失敗は許されない戦いなのです!」
これについては、クーロもツヴァンソも十二分に理解していることなので、二人とも無言で頷く。
「そして、その鍵を握るのは、他でもないヌイとその中官軍の存在です。ヌイとその軍を抜きにして、この戦いを成功に導くことは出来ません!」
「総司令官のアコニト将軍の存在より重要ということですね。ルーラ!」
「その通りです、クーロ。アコニト将軍は、今回の総司令官ではありますが、将軍は中央から千の兵しか率いてきておりません。残りはこのベンナ地方の領主ヴェルブリュート殿が集めた四千の兵が、将軍傘下の兵として加わります。つまり、将軍の手足となって働く兵とは必ずしも言い得ない兵達なのであります」
「ルーラは、さり気なく辛辣な言葉を吐きますね!」
「ごめんなさい! なるべく遠慮はしているのですが……。いずれにせよ、この五千はベンナ城を拠点として、直接ゴンク帝國には攻め込みません。これは、明日以降の軍議の席で明らかにされていく事柄であります」
「成程! それで、実際にゴンク帝國に侵攻するのが、ヌイ中官軍であると……」
「はい! そしてその侵攻軍の後続的な役割を担うのが、私の小官軍と、クーロとツヴァンソのいるコロンフル小官軍になるのは、間違いないでしょう!」
「正直、ヌイの中官軍は、聖王国の中でも群を抜いて強力な軍であるのは間違いありません!」
ルーラの話が続く。
「ヌイ個人の戦闘能力は言わずもがな、ヌイの元にいる三人の小官(千人将)も、それぞれが一騎当千の強者! 兵一人一人の戦闘能力も、長年ヌイと共に戦場を駆けまわっているため、自然とレベルは上がり、ヌイ中官軍の方が並みの聖王国の将軍の軍より、はるかに強いと言えるぐらいです!」
「『軍略の女神』の異名を持つルーラよりも……?」
「もちろんです!」
ルーラが、クーロの素朴な質問に即答する。
「むろん、ヌイ殿も私のことは高く評価しているようではありますが、それでもヌイ殿が敵として、私に向かって攻めてきたら、私にはそれを迎撃する手立てはありません。もちろん策を用いて、少なからずヌイ殿の軍に出血を強いさせることが出来るかもしれませんが、それでも同数であれば、私の方が十回に八回は敗退し、そのうちの敗けの二回は全滅の憂き目をみるほどの大敗を喫するでありましょう」
「それほどなのですか? ルーラ! ヌイ軍の力は……」
「はい! そうでなければ、たかだか一万程度の兵で、ゴンク帝國の牽制をさせるような戦略を中央政府は立てないでしょう。それほどヌイ殿の軍は、今や聖王国の中央政府――いわゆる聖王陛下からの信任が厚いのです」
〔参考 用語集〕
(人名)
アコニト(聖王国の将軍)
ヴェルブリュート(聖王国領ベンナ地方領主)
クーロ(マデギリークの養子。大隊長)
コロンフル(マデギリーク将軍の副官)
セルマン(聖王国の将軍。ルーラの養父)
ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。大隊長)
ヌイ(ソルトルムンク聖王国の中官)
ルーラ(ソルトルムンク聖王国の小官)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ゴンク帝國(ヴェルト八國の一つ。東の国)
(地名)
バラグリンドル地方(ミケルクスド國領)
ベンナ城(ベンナ地方の主城)
ベンナ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)
(その他)
小官(指揮官の位の一つである官の第三位。千人規模を指揮する。大隊長より上位)
小官軍(軍の最小単位で、千人規模の軍)
千人将(小官の別名)
中官軍(三千人規模の軍)




