【101 ルーラの人物評価】
【101 ルーラの人物評価】
〔本編〕
「しかし、あのドクサ地方の戦いの勝利は、聖王国側としてブーリフォン聖王子様や我が父マデギリーク将軍、そしてジュリス王国側としてフセグダー将軍とアッティモ将軍といった第一線級の方々の力によるものであります。私とツヴァンソなど中隊長レベルの指揮官の力など、微々たるものです!」
クーロは、ルーラが自分たちのことを過大評価していると捉え、少々鼻白んだ気持ちになった。
「クーロ、謙遜することはありません! 確かにあなたたちの率いている隊の規模からいって、それほど活躍したとは思えないのは当然かもしれませんが、私はあの戦いについて詳細に調べました。クーロ、ツヴァンソの両中隊は、奇襲を用いて敵援軍を撃退させ、さらにはクーロがワイヴァーンナイトを、そしてツヴァンソがドラゴンナイトを倒したというではありませんか! 私はあなたたちのこの活躍が、聖王国とジュリス王国全軍に波及し、今回のドクサ地方攻略という大偉業を成し遂げたられたと考えております!」
「それこそ、ルーラの過大評価では……。とかく大勝した戦いは、大袈裟に尾ひれがついて語られるもの。私もツヴァンソも、自分たちの隊がそれほどの活躍をしたとは、正直思ってはおりませんが……」
「クーロ! それは貴方が私を過小評価していませんか? クーロなら、私の異名はご存じのはずですが……?」
「はい! 確か、『軍略の女神』とか……」
「その通りです!」
ルーラは頷く。
「軍略の女神!」
ツヴァンソは、そのクーロが言ったルーラの異名にびっくりした。
「私自身は、この異名は私には大袈裟すぎると思っておりますが、世間がそう呼ぶ以上致し方ありません! しかし、私は少なくとも噂程度の話を盲信して、あなたたちを評価したわけではありませんよ。私自身の情報網を駆使して、限りなく真実に近い情報を集め、それを私自身が厳選した上で、あなたたちを評価しました!」
「すみません! 謙遜したつもりが、ルーラの能力を疑うような言いぶりになってしまって……」
クーロは素直にルーラに謝る。
「いいえ! そのことはお気になさらずに……。少しあなたたちと話したいと思っております。この戦いのことについてです。眠いのであれば、今日は遠慮しますが……」
「「いえ。大丈夫です!」」
ルーラの言葉に、クーロとツヴァンソの返事は見事に同調していた。
「しかし、本当にルーラのあの一言がなければ、私と兄は、あの軍議から締め出されていたでしょう。本当にありがとうございました」
コロンフルの陣所に落ち着き、そこでツヴァンソが、改めてルーラに礼を述べる。
「いえ! コロンフル様には申し訳ございませんが、コロンフル軍一千の実質的な戦力は、クーロとツヴァンソの大隊。その大隊長の二人を外しての軍議は、コロンフル軍一千の戦闘能力を半減させる事態となるところだったので……、否、少し言い過ぎになるかもしれませんが、コロンフル軍一千が無駄に成りかねないと言ってもいいぐらいだと思ったからです!」
「それはルーラ! さすがに言い過ぎかと……」
「そうでもありません。ルーラ様のおっしゃる通りかと、私は思います」
その場に同席したコロンフルが、異を唱えたクーロに向けて、ルーラの言葉の援護をした。
ルーラの言葉で一番辛辣な評価を受けたはずのコロンフルがである。
「いや! ルーラはあまりコロンフルのことを知らないからそう言う。コロンフルの軍事運用能力は柔軟性に富み、どのような戦場でもそつなく軍を運用できるほどであります。そうでなければ、我が父の副官など務まりません!」
「むろんクーロ、それは分かって私も言っております。しかし、そつはないですが、軍を大きく化けさせる指揮能力はないかと……。むろん、大勝もない代わり大敗もしない指揮官なので、長い目で見れば、使い勝手は非常に良いと思います。コロンフル様は……」
「ルーラ!」
「いえ、クーロ様! ルーラ様の評価は非常に的確です。私以上に私のことをご理解されておられる。……だからこそです。ルーラ様のおっしゃるように、あの軍議でクーロ様とツヴァンソ様を締め出せば、当然、クーロ様とツヴァンソ様の各大隊の兵は、へそを曲げるでありましょうし、それ以外の五百の私の兵も、それに迎合し、場合によっては、それを阻止できなかった私への風当たりが強くなり、結果、千のコロンフル軍は、積極的に戦わないばかりか、ヌイ様に対する逆恨みで、ヌイ様の中官軍を間接的に邪魔する兵が出てこないとも限りません。最悪、コロンフル軍とヌイ軍の争いに発展するやもしれません!」
「……!」
ルーラのコロンフルに対しての評価が辛辣過ぎだと思い、それに反論しようとしたクーロが、逆にコロンフルによって、説得させられた形となった。
「ごめんなさい! 私、少し言い過ぎました!」
それに対し、今度はルーラが謝罪の言葉を口にした。
「コロンフル様は、能力的には私の評価通りではありますが、そのようなご自身のことを十分分かっておられます。それであれば、コロンフル軍の戦力は半減よりは悪くはならないでしょう。ましてや、ヌイ軍との争いなどは、コロンフル様が必ず回避されましょう。性格面による評価がすっぽり抜けておりました! ごめんなさい!」
今度は逆にルーラが、コロンフルがクーロを説得する様子を見て、自分の言い過ぎた部分を訂正した。
「……では何故! ヌイ殿は、あの場であのような発言をしたのですか?」
ツヴァンソが純粋な疑問として、ルーラに尋ねる。
「その答えは難しくありませんよ!」
ルーラがにっこりと笑う。
「ヌイがあなたたちのことを単純に知らないからです。純粋に将軍の子供だから大隊長になったと思っているのでしょう。ヌイは単純ですから……。もしかしたら、クーロもツヴァンソも自分と年が近いので、今回が初陣だと思っているかもしれません!」
「嘘! さすがにそれは……」
「いえ! ツヴァンソ! ヌイに限って言えば、それもあり得ます。そのくらい彼は単純ですから……」
唖然としているツヴァンソに向け、ルーラは事もなげにそう説明した。
〔参考 用語集〕
(人名)
アッティモ(ジュリス王国の将軍)
クーロ(マデギリークの養子。大隊長)
コロンフル(マデギリーク将軍の副官)
ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。大隊長)
ヌイ(ソルトルムンク聖王国の中官)
ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子)
フセグダー(ジュリス王国の将軍。『生ける武神』の異名を持つ)
マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)
ルーラ(ソルトルムンク聖王国の小官)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国)
(地名)
ドクサ地方(ジュリス王国領)
(兵種名)
ドラゴンナイト(最終段階の小型竜に騎乗する騎兵。竜騎兵とも言う)
ワイヴァーンナイト(最終段階の飛竜に騎乗する飛兵。竜飛兵とも言う)
(その他)
大隊(中隊五部隊で編成される隊。二百五十人規模の隊)
大隊長(大隊は二百五十人規模の隊で、それを率いる隊長)
中官軍(三千人規模の軍)
中隊(小隊五部隊で編成される隊。五十人規模の隊)
中隊長(中隊は五十人規模の隊で、それを率いる隊長)




