蠢く?
「ちょっと」
帰りに昇降口で里沙に呼び止められた。彼女はすごく不機嫌であった。慣れてきたとはいえ、まだまだ違和感がある学校生活から早く逃れたいのに何の用だろうか。
奧の自販機コーナーまで連れていかれる。まるで人目を避けるように。
「あんたさあ。最近変なこと聞いて回ってるでしょ?」
「変なこと?」
「なにとぼけてんの?やめなよ、ああいうの。団地で中学生が落ちたのホームから人が落ちたのとか」
つまり、里沙は興味本位でそういうこと人に聞いて回るなと言っているのだろうか。いやいやそんな道徳的なタイプではないだろう。わたしが里沙の意図がわからず黙り込んでしまうとそれと了解ととらえたのか。
「あーし、いったからね」
里沙は逃げるように去っていった。誰かが里沙にいわせたのだろうか。気にはなるが里沙だし、まあいいか。わたしはサクサク帰ることにした。今日は気の重い作業がまっている。ヒナのノートパソコンを調べるという。家に帰るころにはバッテリーの充電もされている頃だろう。
家に帰るとミルクを入れたコーヒーと近所のパン屋で買った手づくりクッキーを用意してパソコンの電源を入れた。
パスワードがあるものと思っていたが、なかった。しかもOSはサポートが切れたものを使っていた。おいおいセキュリティーがばがばではないか。まあいいか、女子高生のパソコンに犯罪の証拠や国家機密が入っているはずはない。いやたぶん犯罪の証拠はないはず、絶対ないはず。
画面が起ちあがったとたん口に運んだコーヒーを危うく噴き出すところだった。左に高山の写真、右にヒナのプリクラでとって原型をとどめない写真がトップ画面になっていた。やばいなこの子。パソコンの電源切りたいなほんとに。まずメーラーから調べる。ネットショップからばかりである。
当たり前か今どきのJKはたぶんe-mailなど使わない。次にブックマークや貼り付けられたアイコンをみてみる。はい、出会い系サイトばかりですね。ログイン画面が出てくる。ぱすわーどなどと書かれたテキストがパソコンの左上に貼られているが、これはログインすら危険な気がしてきたのでこれはとりあえず後回し。
画像でもあたりますか。ちょっとした探偵気分で、画像がファイルを開いた瞬間、見たことを後悔し、また知らなかったことに恐怖した。大量のスマホで撮影した写真と動画で埋め尽くされていた。
高山の。しかも盗撮としか思えない。どうみてもストーキングだ。これどうしよう。あたしは途方に暮れた。
みなかったことにして削除したいという欲求に駆られたが我慢した。そのうえ、高山と里沙が手をつないで歩いている写真が出てきた。どう見てもデート。どう見てのヒナの盗撮。やばいわたしこの子舐めてた。闇が深すぎる。ちょっと混乱する。ヒナが高山が好きというか相当執着していたことはこの画像からわかる。里沙はヒナに秘密で付き合っていたということか。
しかし、ヒナはそれに気づいていて後をつけ写真を撮った。怖いなJK。里沙はヒナのこの行動の気づいていたの否か。どっちだろう・・・。悪口しか能のないやつだと思っていたけれど里沙ちゃんもなかなか怖いわ。この二人の友情ドロドロではないか。もうどんな顔して明日から里沙にあったらいいのよ。
悶々と頭を抱えているとスマホが振動しているのに気づいた。表示は非通知だったので無視することにした。悩んでもしょうがないので、お風呂に入りさっぱりすることにした。
風呂上がりに冷蔵庫を開け、スーパーで買ったサラダにドレッシングをかけ、食パンを軽くトーストし、マヨネーズと粒マスタードをぬり、ハムとチーズをはさみ、蒸らしていた紅茶とともにテーブルへもっていく。スマホを確認すると驚くほどの着信履歴があった。全て非通知だった。いままでもヒナのスマホには非通知が多かったが、ここまでしつこいのは気持ちがわるい。いい加減、食欲が失せかけているところにまた、スマホが震えた。恐る恐る確認すると今度は未登録の電話番号だった。とりあえず番号もでているし、通話ボタンを押してみる。
「もしもし、佐伯。俺だけど」
はい?俺って誰ですか?ヒナのこと随分調べたけれどこんな風に電話をかけてくる殿方はいないはず、間違い電話か?いや佐伯って言ってるし、誰だろう。不安しかない。番号を変えようと決意しつつ。
「あの。誰ですか?」
返事をしてみる。
「高山だけど」
「・・・・・・」
ちょっと待てそれおかしいでしょ。そもそも本物か?ああそうかこれいたずら電話か。
わたしはあっさり電話を切った。