68 佐伯ヒナという少女
彼女を初めて見かけたのは町口駅の繁華街だった。
たまたま手が空いた俺が応援にかりだされた。
ようはSNSを通した中高生の売春を取り締まるものだ。
バックに組織のついた者もいれば思い付きではじめる者もいる。
援交やパパ活など次から次に婉曲な表現を考え出すものだ。
「何言ってるんですか。失礼じゃないですか。
名誉毀損で訴えますよ」
大人をばかに仕切った声。騒ぐでもなく落ちついている。
隣にいる四十代の男の方が落ち付きがない。
この分では少女の補導は無理そうだ。呆れるほど弁がたつ。場慣れしているようだ。
「おい、沢渡。お前も加勢しろよ」
小声で同僚が呟く。
「やだね。あんな面倒くさいの。ガキは専門外だ」
だいたい同期の男二人を組ませる方がどうかしている。どこか体に触れようものなら何を言われるか分かったものではない。
その後、ベテランの女性警官が応援に来たがのらりくらりとかわす少女は補導できなかった。
次に彼女を見かけたのは同じ繁華街。
必死で中年男から走って逃げる制服姿の少女。
その時は誰だかわからなかった。だが、男の方に見覚えがあった。
先日応援に行ったとき、少女買春の常習者ときいた。
こちらは非番だが話ぐらいは聞いてやろうかという気になった。
しかしあろうことか少女は俺につっこんできた。相当鈍い。男の方は俺の顔を見て脱兎のごとく逃げだした。警官とはバレていないと思いたい。
怯え切った少女に見覚えがあった。しかし、以前の太々しさはかけらもなかった。よほど怖い思いをしたのだろうか。
その後も少女と会うことが増えた。最初に出会った太々しい彼女はなんだったんだろうか。
半信半疑のまま情報を得るために会った。その別人とも思える豹変ぶりに興味もあったが、何度あっても芝居をしているようには見えない。
そんな器用さはない。会えば会うほど図太いどころかむしろ繊細で人の良い普通の女の子だった。冷めているのに底がギラギラとした瞳が今は穏やかで澄み切っている。
そのうちこちらの良心が咎めてきた。
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