66 学校生活 これも日常?
ベーグルを二つに切ってクリームチーズを塗り、アボカドを敷く。これでベーグルサンドの出来上がり。
薄めに入れたコーヒーにスクランブルエッグにブロッコリーを添える。
ここのところ『ポゼッション』なんで言葉を聞いて悩んでいたけれど考えてもどうしようもないので、もうやめた。
そんなことより大切なのは進路だ。だいたい決まっている。最初は就職で自活しようと思っていたけれど、今は父の財力を借りてちゃっかり進学させて貰おうと思っている。
というか就職を切り出したら、父が泡を吹いて倒れそうになった。それもあって考えをあらためたのだけれどね。
もうすぐ三年ということもあってか学年の雰囲気も変わってきた。
あたしはちゃんと一人で食べて行けるようになりたい。
あれから里沙は学校を退学になったようだ。
何かしでかしたというより出席日数の問題とのこと。人の心配どころではないのだろうけれどやはり気になる。
もっともプライドの高い彼女のことだ。あたしに心配されたら、腹を立てることだろう。
「でさあ。あんた進路どうするの」
「え?僕?とりあえず理系の大学かなあ」
ここは理科室、今のは渚と金井君の会話。
「ヒナさんはどうするの」
と金井君があいかわらず。ビーカーで入れてくれたコーヒーを紙コップで差し出す。
「ありがとう。あたしも進学かな。渚はどうするの」
すると渚が不敵な笑顔を浮かべる。
ちなみに今日も前回あたしを笑顔で追い出した1年生女子がいるが、気の強そうな渚がいるせいで何も言ってこない。あたしの舐められぶりも堂に入ったものだわ。
が、やはり3年生女子二人が居座っているのが気に入らない模様。さっきからイライラしてこちらをチラ見してくる。気の小さいあたしはちょっとはらはらしているのに、渚は気づいていないのかな。
話と金井君お手製のカルメ焼きに夢中。
「ふふ、文系大学に進学して警察官になるの」
「なんか、ぴったりだね」
すらりとしていてきりっとしている渚は剣道2段で柔道初段だ。
「そうか、なぎちゃんのお父さん警察官だもんね」
それはじめて聞いた。
最近金井君とお話するときはこのように渚が入るようになった。これによってあたしはとりあえず金井君と滝川君の両天秤というしょうもないデマから免れた。
渚としては金井君が「またおかしなこと言い出すと困るから」という理由からだが、何にしてもありがたい。
それとここのところ高山もあたしに接触してこなくなったため、金井に媚び売りつつ、滝川君と付き合おうとしていると噂も沈静化してきた。
ただし、滝川君一本釣りに変えたとは言われている。あはは、もう訂正する気になれない。ちなみにこの噂のソースは芦原。もう逐一報告してこなくていいからね。
あたし、滝川君のただの観察対象なのに。そういえば彼は将来どうするつもりなのだろう。心理学者にでもなるつもりなのかな。今度聞いてみよう。
いや今度ではなく今からだね。そろそろ時間だ。
「じゃあ、あたし先帰るね」
「ああ。昇降口で待ち合わせだっけ」
と渚。
「えーなに待ち合わせって。ヒナさん帰っちゃうの?ってか待ち合わせ誰さ?なぎちゃんもついでに連れて行ってよ。カルメ焼きなくなっちゃう」
言った瞬間、渚に頭をはたかれていた。なんだか微笑ましい。
腰を上げかえた瞬間がらりと理科室の戸が開いた。
「ああ、佐伯、やっぱり、ここにいたの」
突然現れにっこり笑う滝川君。
「うわっ」
びっくりした。なぜに理科室まで迎えにくる。約束の場所で待てばいいのに。
「ちょっと委員会早く終わったから」
と言って爽やかに笑う。1年女子の視線がいたい。
ほぼ強引に理科室から引きずり出される。
そんなにあたしに会いたいの?確実に違うよね。あたしを題材に論文でも書くつもりなのね。絶対そうだよね。
いや、でも「ポゼッション」の話は正直もう勘弁してほしい。それとなくあたしに質問して性格検査っぽいこととか。エゴグラムっていうの作ろうとするのぜひともやめていただきたい。
廊下を歩きながら突き刺さる視線を感じる。ねえこの状況あたしが彼を誘惑しているように見えるの?しっかり見てよ。引きずられているの明らかにあたしでしょ。
そんな心の声を拾ってくれる者は誰もいない。
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