60 学校 パソコン室
おっかしいな。図書委員って書記いたよね。なぜかあたしがパソコン室でせっせと手書きの議事録をパソコンできれいに作り直している。学校での仕事が増えている件。図書室とお家が大好きなのにな。
「お、佐伯なにやってんの。なんか宿題で困ってることでもある」
親切な滝川君登場。
「いまね。図書委員の議事録作ってるところ。学級委員会の仕事とクラスのゴミ捨て手伝えないからね」
こういうことは先に言っておかないとまた押し付けられて帰りが遅くなってしまう。
「やだなあ。そんな押し付けてたかな。手伝おうか」
「もうすぐ終わるから大丈夫」
すると滝川君が隣の席の椅子をひいた。
あたしの前にミルクティーが置かれる。
「え?」
「おごりってほどでもないけど。どうぞ」
にっこりと爽やかな笑みを浮かべる。
思わずパソコン室を見回してしまう。また付き合ってるとか噂されてしまう。というより現在進行形で噂されている。
まあ、いいか。
「いただきます」
彼はコーヒーのプルトップをひく。
ミルクティーいつも飲んでるからね。好みを知ってたのね。それとも偶然かな。
「でさあ、高山から何か言ってきた」
いきなり直球の質問に危うく一口含んだミルクティーを吐き出しそうになった。
「えっとなんでそう思ったの?」
「っていうことは言ってきたんだね」
心読まれたし。「佐伯はとっさの嘘が下手だよね」と言って「ふふふ」と笑う。
「高山のことが気になるのなら。幼馴染なんだから、直接聞いてみたほうがはやいんじゃないないの」
「それは無理。あいつ俺のこと警戒してるから」
そういえば高山言ってたな。先生の受けがいい滝川君と金井君には言うなって。
「そこまでわかってるなら、何言ってきたかも想像つくんじゃないの」
「そうだね。俺を信じてくれとか言ってきた?それとも自分は目撃しただけで何もしてないとか」
ほぼあたりだな。
あれ?でもこれに頷いてしまうとあたし滝川君にしゃべったことになるんだよね。
いや別に黙っている義理はないのだけれど。
「いいよ。こたえなくて。何だか悩ませちゃったね。俺は別に高山のことさぐっているわけでもないし。最近のあいつには興味もない」
「興味?」
「そ、あまり興味を持てない」
そういうと彼はにっこり笑った。なんとなく冷たい気がした。
「幼馴染といってももともと親同士のつながりの方が強いしね」
代々医師の一族との付き合いがあるということは、滝川君もそれなりの家柄ってことになるよね。
あたしは遅まきながらそのことに気が付いた。
「そんなことより、せっかく6月以降まじめ過ごしてきた佐伯がまた何かのきっかけで戻ってしまったら、心配だなと思ってさ。高山たちと関係を断ち切りたいと思っても、ああいう仲間ってなかなかすっきりとはきれないからね」
よくわかっていらっしゃるあたしは頷くしかない。
わざわざそれを言いに来てくれたのかな。
「それと前にプチ記憶喪失なんていってたじゃない。ここ最近何か思い出したことでもある」
「ない。ぜんぜん。それがどうしたの?」
「噂をきいたんだ。前の佐伯に戻ってきたんじゃないかって」
え!あたし太りましたかね。規則正しい生活で痩せたままだと思うのだが。思わずウエストのあたりを見る最近体重測ってない、多分変化ないよね?髪は黒髪だし。ダサいと言われてもノーメイクで色付きリップつけているくらいだし。などと慌てていると
「違うよ・・・見た目じゃなくて」
ちょっと呆れたように笑う。
そういわれてさすがにピンときた。
「ああ、わかった。猫かぶりが終わったとかまた男子に媚び始めたって噂でしょ」
「なんだ、知ってたの」
その噂半分以上は滝川君のせいなのだけれどご本人は無自覚なのでしょうか。
「金井とずいぶん仲がいいって言われてるけど」
「ああ、それね。理科室でコーヒーご馳走になった。ロートとビーカーでコーヒー淹れてくれたの。ほんとにああいうことする人いるんだね」
思い出すと自然と笑みがこぼれる。
「佐伯は金井が好きなんだね」
「うん」
そりゃいい奴だしね。
「なら、付き合っちゃえば」
ん?今なんていった?
「いや、そういう好きとは違うから」
ちょっと焦った。見た目は10代、中身アラサー、犯罪でしょそれ。精神的に。
というかそれ以前の問題が!
「それに金井君、別にあたしのことそういう目で見てないよ」
ここ断言できるな。というか滝川君、こういうこと言う人だったけ。ちょっとキャラじゃない気がする。
「なるほど。ただの噂だったんだね。確かに佐伯は別に変わってないね」
「え?それを確かめに来たの」
「そっ、言ったでしょ。俺、心理学に興味があるって」
といって言っていい笑顔を浮かべる。
あたしは実験対象か。優等生の彼は少し変わっているかもと最近思う。
でもね。噂話は金井君のせいではなくて、そこそこモテるあなたのせいなのよ。
わかってね。言いたいけれど言えない。なんでかな。




