59 学校 噂
三学期が始まった。高山はしれっと普通に来ていた。里沙は来ていない。芦原に聞いたところによるとまだ学校に来れない状態のようだ。このままでいくと出席日数も足りなくなるらしい。ちょっと心配。そもそもこの騒動の発端は高山なのではと思うのだが、彼は弁護士に守られ警察に行くこともなくぬくぬくしている。いや内心はびくびくしているのかもしれないけれど、里沙のことを考えると理不尽なきがする。
学校では里沙が高山にふられたのがショックで自殺をはかったと噂が広まっている。
噂をする方は気楽なものだ。
いつものように渚や由奈たちと昼休みを過ごす。渚と由奈がまたアイドルの話で盛り上がり始める。そのすきを突くように茉奈があたしの横に移動してきた。これは内緒話モードかな。
「ヒナはさあ、もう里沙たちとつるんでないよね。最近、芦原とよく仲良くしてるけど」
「まあね。向こうにしてみればとっくの昔に友達じゃないだろうねえ」
いまのヒナは中味アラサーだし、別人だものね。
「芦原となに話してるの」
「なに話してるかっていうより、芦原が地下アイドルの話をしてくる」
実は年末に大阪に誘われていた。興味ないし忙しかったので断った。
「でさあ。里沙だけど、どう思う?いろいろ噂されてるじゃん」
そういえば茉奈は以前SNSで散々里沙に悪口を拡散されていた。男に媚びるだのぶりっ子だの。まあ、あそこまでやられたら許せないよね。
「まあ、本人にきかなきゃわからないよね」
身のふたもない返事をする。たぶんこういうこと言ってほしいのではないよね。
「じゃあさ。里沙は高山のこと本気で好きだったとおもう?」
「本気だったんじゃない」
茉奈が首を傾げる。あたしのこたえに納得していない。
「あたしは違うと思うな。高山が里沙を鬱陶しくなって突き落としたか、じゃなければ里沙が当てつけで飛び降りたか」
「・・・」
「あの、ヒナ誤解しないでね。あたし前ね。里沙に言われたの。
あんたみたいに男とみれば誰にでも媚びるようなやつとは違うのよって。
なんていうか、高山って里沙の価値を高めるものだから、別れたくなくて縋りついたんじゃんないかと思うわけ」
「それは・・・。やっぱり当事者同士じゃなきゃわからないと思う」
あたしがそういうと茉奈は寂しそうに微笑んだ。同調してくれる味方が欲しかったんだよね。多分見方がかわれば茉奈もきっとただしい。茉奈もいろいろ里沙にやられてつらかったね。
「よし!茉奈。ジュースおごるよ。一階行こう」
「うん!」
茉奈が元気よく頷く。いろいろ考えて茉奈も落ち込んでいたんだよね。あたしたちはたわいもない話をしながら自販機に向かった。
誰でも何かに縋らないと生きてけないのかも。あたしもいっぱい悩んだり落ち込んだりしてきた。
その時は誰にも相談できないだのなんだと思ったけれど実際は話を聞いてほしい誰かの顔を浮べてる。
高山の話が本当なら、里沙は高山に縋ったんだね。彼以外縋るものがなかったのなら、それは悲しい。
転生前のあたしは貧しかった。傲慢かもしれないが、持たないものの悔しさ、わかる気がする。




