57 実家で過ごすお正月
苦しい。きつい。そして辛い。でも笑顔を強いられる。
なぜか私は実家で振袖を着ている。どうしてこうなった。ちなみに母は留めそでだ。修一は制服姿。あたしは制服ではダメなのですかね。まあ、確かに弟は超一流の私立高校に通っているけれどね。
目の前にはケータリングで頼んだ、お寿司や色とりどりのおせちが所狭しと並んでいる。
あたしはそこで食事に舌鼓を打つでもなく、お正月のご挨拶にきた遠縁の親族に対応、父の会社の人たちにご挨拶。正直誰が誰やらわからない。笑顔で頑張ります。なかには難しいこといったり、さむいギャグを飛ばしてくるひともいるけれどとにかく笑顔です。また父母が私らの顔がつぶれたとうるさいので。まめな母はあいさつの合間を縫って「着物の所作も知らない娘」などどうるさいでので聞き流してます。ああ、もう疲れた。
「ヒナこっちへ来なさい」
上機嫌の父が手招きをする。振袖は歩きにくいなと思いつつ父のそばに移動。
「彼は事務所の若手の西城君だ」
などと紹介してくる。私はにっこり笑ってご挨拶。もう笑顔のまま顔が固まりそう。
夜明けからの着付けに髪結いが正月中の日課になり気力体力ともごっそり削られ、父と西条某の言うことを適当に微笑みながら聞き流していたら、いつの間にか後はお若い二人でことになってしまった。
なんでこうなる。
「今度一緒にお食事でもどうですか?」
結構イケメンで年齢は26歳。弁護士。父が推しの超優良物件。これ多分見合いだよね、多分。まだ17歳なのに。精神年齢はアレだけれど。
でもあたし馬鹿だし、一回目の食事でこの人に嫌がられる予感しかしない。そうなれば西条某も父の手前断りにくいし、このお誘いどうこたえるのが正解なのよ。
「ええっとですねぇ」
「やあ、姉さん楽しそうだね。どこかへ遊びに行く相談?僕も混ぜてよ。勉強ばかりで疲れるからたまには息抜きしたいな。一緒に連れて行ってよ」
いつの間にか近づいてきていた弟の修が人懐こそうな無邪気な笑顔でいう。修、あなたそんなキャラだったけ?一段と可愛らしく感じられる。
「そうねえ。修が一緒ならディズニーランドとか?」
嬉しくなって提案してみた。
「わあ、いいね。子供の時以来いってないよ」
意外だ。お金持ちの子なのに。もしかして勉強ばかりで遊ばせてもらえなかったのかしら。
それならば是非に!
「ええ!ほんとに?じゃあ、こんど一緒にディズニー」
そこで咳払いが聞こえた。
父が修の後ろに仁王立ち。西条某さんも笑顔が若干ひきつっている。
ついうっかり素で修の話にくいついてしまった。実はディズニーランド子供のころに一回しか行ったことないのよね。前世の高校での遠足の時はお金が払えなくていけなかった。
「いや、せがれが済まないね。西条君」
父が修を軽くにらむ。
するとすかさず弟がいう。
「西城さんすごいですね。司法試験現役合格なんですよね。父さん、僕勉強方法ききたいな。参考にしたい」
弟が如才なさすぎる件。何やら男たち三人で盛り上がり始めました。助かった。
あたしは修が作ってくれた?と思われるこの隙に気配をけしつつ退いた。父はこの出来の悪い娘にいったい何を期待しているのだろう。最近かなり可愛がってもらっているようなきがする。最初の食事会の時の冷たさがうそのようだ。お見合いは期待に添えないので勘弁だけれど可愛がられるのは素直に嬉しい。
五日の晩、お正月の実家の行事も一通り終わった。あたしは早々に自宅を後にする。今日も泊っていけと父と修にすすめられたけれど冬休みの宿題がそろそろやばいので帰ることにした。まさか31日の夜からぶっ通しで忙しいと思わなかった。お金もちはお金持ちで大変なのね。来年もこれあるのかな。振袖でホームパーティとか勘弁してほしいな。荷物をまとめると夜8時、例によって父が「荷物もあることだしタクシーで帰りなさい」という。いやいや、電車で十分ですよ。あららタクシーもう呼んじゃってるし。何だかこの過保護ぶりヒナが勘違いしてわがままになったのもわかる気がする。どうしようこんな生活になれたら。あたし駄目になる。まあ、荷物もいっぱいあるし。お年始でもらった食料とか正月のおせちや餅などを家政婦の祥子さんが大きなキャリーに詰めてくれた。ありがたいがあたしは一人暮らし、これどうしよう。日持ちするものは学校で友達に配るか、などとタクシーの中で考えていると着信があった。
沢渡さんですね。とりあえず今日はもう遅いので明日にしてもらった。




