56 帰宅途中
最近いろいろと噂をされているようなので沈静化をはかるために今日は一人静かに帰ることにした。
面倒くさいけれどしょうがない。思えばあたしが高校生の時はバイト三昧で男子とお茶とかした覚えがない。
今はバイトの必要もないし、バイトなどしようものなら勉強おいていかれて留年してしまう。
そろそろ2学期も終わり、学年末試験もつつがなく済んだことだしこのまま静かに年末を迎えたい。
もちろん、今年の予定は渚たちとカラオケ大会で終わり。
年末は母に帰ってくるなって言われているし、そのすぐ後で父には年始に顔を出せと言われていた。
実に面倒くさい。修には会いたいけれど。冬休みは出来れば静かに勉強と読書にひたりたい。もうわかっている、あたしが動くとろくなことないって。
「おい、ヒナ」
後ろから声を掛けられる。嫌だなこのパターン。
誰かと思いしぶしぶ振り向けば、高山だった。
「なに?」
ほんとこの子あたしに何の用だろう。
「ちょっと話があるんだけど」
「あたしは別に話なんてないんだけど」
しばしにらみ合いになった。
「ちょっとこっち来いよ」
そういって路地裏に引きずりこまれた。彼以外に人はいないようで少しほっとする。
ただ単に人目に付きたくないだけなのね。それはあたしも一緒だ。これ以上噂になるのは御免だ。
「お前、なんか里沙から聞いてないか?」
「え?里沙いま入院してるんじゃないの」
「やっぱり、それは知ってるのか」
「容体はどうなの?」
「知るか。そんなこと」
吐き捨てるように言う。相変わらずの屑発言だ。
「で、何の用?」
「里沙から、嫌がらせとかうけてないか」
別にあたしを心配しているようではない。何かの確認のようだ。
「今はほとんど接点ないよ。なんで?」
「あいつ、呼び出したんだよ。俺のこと。お前のことで話があるって」
「は?だから付き合いないって。ほんとに全然」
「飛び降りる前に呼び出しやがったんだ」
「・・・・・」
「十塚の秋本ビル知ってるか?」
しっている。真鈴住む団地の近くにあって下にコンビニやスーパーが入っているマンションだ。
「そこの4階の踊り場から飛び降りた」
とりあえず高山を落ち着かせて話を聞いたことによると電話で呼び出されていったら、目の前で飛び降りたらしい。
高山は自分が突き落としたと思われるのを恐れている。また、里沙もそれを狙ったのだという。
「あいつ、俺に仕返ししたかったんだ。別れたの根にもって」
「ほんとにあなたのこと好きだったんじゃないの?」
あたしがそういうと高山の顔が豹変した。
「お前。このこと絶対にしゃべるなよ。亜弥にも村田にも」
あれ?そっちの方にお話してなかったのね。
「それから、滝川とか金井とかにも。あいつら無駄に先生の受けがいいからな」
といって舌打ちする。ガラ悪いな。せっかくのイケメンが台無しよ。
それから誰に見られていないことを確認するように、一人足早に去っていった。




