53 自宅そばのファミレスで
パンを軽トーストしてマスタードとマヨネーズを塗り、チーズと薄切りトマトにバジルの葉をのせる。
紅茶を入れ朝食の出来上がり。
いつも通りの朝、でも憂鬱。
朝っぱらからスマフォがなる。
何だろう。うーん、沢渡さんだ。
そういえばメール送るっていってたのすっかり忘れてた。
出てみるとやはり催促でした。
沢渡さんが面倒だからと今夜この前のファミレスで会うことになった。
先延ばしにしたせいでまたも憂鬱。
「ちょいヒナ」
教室に入った途端、芦原に捕まった。
廊下に連れ出された。
「なに?」
「あんた聞いた?里沙のこと」
声を潜める。
「里沙がどうかしたの」
「どっかから落ちたらしいよ」
「はあ?」
「だから今病院。やばいらしいよ」
芦原の話は要領を得なかったけれど一瞬で血の気が引いた。
家から歩いて10分弱のファミレスで待ち合わせ。
平日のせいか結構空いている。
それともここ駅前からは離れているから場所が悪いのかな。
待ち合わせの8時まであと10分。
今日は一日里沙のことが気になっている。
ニュースにでもなっているかとネットでみてみたけれどどこにもない。
芦原の情報のみ。ネタ元はこの間のパーティでライン交換した大学生だそうだ。
芦原ったらちゃっかりやることはやってたのね。
「遅い時間で悪いな」
ちっとも悪くなさそうに言うと前の席に腰掛けた。
「で、何の話」
着いたそうそうサクッと本題ですね、沢渡さん。さっさとメール送らなかったあたしが悪いわね。
貴重な時間をごめんなさい。
「実はあたしアビスのパーティに参加してみたんです」
遠回しにいおうと思ったのについうっかりダイレクトにいってしまった。
沢渡さんは無反応。淡々と質問してきた。それにあたしはこたえていっただけだった。結局頭を使うこともなく、不思議と保身もなかった。まあ、捕まるときは捕まるわけだし。
あたしではない誰かが、前世のあたしとヒナの闇をみてくれるかもしれない。
質問に答えつつも里沙の安否が気になった。そもそもどうして転落したのだろうか。
事故なのだろうか。それともただの噂なのだろうか。雲をつかむような状態だ。
「相変わらず他人事だな」
「そうですかあ」
適当に返事をする。
「いや、相変わらずというより、心ここにあらずだな」
「気になっていることがあるんです。里沙のことです」
いってもいいかどうか考える間もなく話し出していた。
「今日学校で里沙がどこかから転落して意識不明だった噂を聞いたんです」
「噂はどこから」
否定しない。
「里沙は無事なんですか?」
「どこから聞いた」
「無事なんですか?」
「俺は医者じゃないからなんとも言えない」
「どうしてそんなことに・・・」
「誰から聞いたんだ」
「アビスのパーティに一緒に参加した子から聞きました」
「誰だ?三宅亜弥か高山か」
あたしは芦原とのやり取りを話した。
「この話は伏せられてる。何があったかもどうしてかも言えない」
質問にはこたえないということだろう。
この人はいつもそうだ。いや警察がそうなのだろう。
「あの、芦原、職質とかされちゃうんですか」
「なんだかお前おかしくないか?一度高山のグループと切れたんじゃないのか。親しい友達のように心配してるじゃないか」
「別に親しくはありませんし、友達でもありません。たぶんあっちもそう思ってると思います。ただ心配なんです」
彼が微かに顔をしかめる。
「おかしな飲み物渡されたり、危ない目にあったんじゃないのか」
「からかわれただけかもしれません」
沢渡さん呆れたように
「今度は友情ごっごか」
という。
本当にあたしったら何言っているんだろう。
「とりあえず、たいした情報ではないですよね。すぐ帰ってきちゃったし」
「・・・」
「あの」
やばい、また沢渡さんが黙り込んでしまった。
これって怒ってるのかな。また、沈黙が続くのやだなどうしよう。
「話はかわるが」
「はい」
良かったしゃべりだした。
仕切り直すように彼が咳ばらいをした。
「幸奈から聞いたんだが、お前昨日生意気で態度のでかい同級生とお茶してたんだってな」
「はい?」
一瞬なんの話か分からなかった。
「ああ、はいはい。沢渡さんの彼女さん、駅前の売店でバイトしてるんですね。見かけました」
何だか彼女から絡まれてたような気がする。
「くどい。彼女じゃない。親戚だ」
昨日の今日でしょ?しょっちゅう連絡取り合っているじゃない。
それ彼女でしょ。そんなにあたしに知られるの嫌なのかしら。
ちょっと傷つくな。
「あいつは中学の頃荒れてて、あいつの親に頼まれて家庭教師を兼ねて相談にのっていただけだ」
ん?あれ、語りだしちゃったけれど別に聞いていませんよ。
幸奈さんってあれてたのね。もういうのやめよう。
「わかりました。ごめんなさい」
とか素直にいっても彼は無表情。なんなのよ。
「で?昨日の相手は高山グループのやつか」
ああ、ごめん滝川君。火の粉とんじゃったみたい。
「違います。全く違います。学校で一番頭が良くて、先生たちからの信頼も厚い超優等生です」
「なんでそんな生徒がお前と?」
そういえばさっきから気になっているけど、”あんた”から”おまえ”になっているよね。これって親しくなったというより格下げだよね、たぶん。
相変わらず言ってくることひどいし。
「ああ、もちろん付き合ってませんよ。お説教されたんです。なんでまた高山のグループと付き合い始めたんだって」
「そんなことに何でいちいち口を出してくるんだ」
「ん?心配してくれるんじゃないですか?多分・・・先生から頼まれてるんだと思います」
「向こうからお前に近づいてきたのか?」
「そうですけど・・何がいいたんですか」
「積極的に近づいてくる人間には気を付けたほうがいいんじゃないのか」
確かにあたしもそれは気になっていたけれど他人にそれを指摘されるとさすがに心を抉られる。
利用価値が無ければ何の魅力もないと言われた気がして。
久しぶりの投稿です。お立ち寄りくださった方本当に感謝です。
スローペースではありますが、投稿続けています。




