45 佐伯家の食事会
一心不乱にスマホの画面を睨んでいる。
ストレスがたまるとweb小説を読む。
異世界転生いいな。
特に異世界の王子様が最高。
乙女ゲームに興味はあるが、やったらもう現実に
戻ってこれない気がしてまだ手を出していない。
ローテーブルの横にはイワンの馬鹿とジェーン・エアが積まれている。
新田君と真鈴のおすすめ本だ。
今は世界の文学全集的な本ばかり進められる。
彼らはあたしをいったい何にしたいのだろう。
スマホをいったんテーブルに置き、
紅茶をいれるためにソファを後にする。
とぽとぽとお気に入りのダージリンを入れ、
自作のさくさくクッキーをテーブルに運ぶ。
前世と比べたら信じられないくらい贅沢な生活を送っている。
あのころは学費を稼ぐためバイトに明け暮れた高校時代を送っていた。
そういえば病弱だった妹は元気だろうか。
いつもお金がなくて困っていた父や母は今ごろどうしているのだろう。
いまさらだが、あたしの仕送りがなくなって大丈夫なのだろうか。
スマホが鳴った。
弟の修だ。
「姉さん、今週の土曜だから」
「ん?なんかあったっけ」
「ああ、やっぱり忘れてる。食事会だよ。
埠頭のそばのコンチネホテルに18時ロビーに集合」
「え・・・ホテル」
やだな見たことはあるけれどはいったこともないホテル。
礼儀作法とか知らないよ。
ナイフだのフォークだのスプーンだのいっぱいならんでいたら
どうしよう。
母の口癖「はじかかせるんじゃないわよ」がまた法事の時のように
炸裂するのだろうか。
ちょっと憂鬱。
せっかくの食事会なのに家族に迷惑かけちゃうね。
「この間ネットで買ってた服着てきたらいいよ」
弟が気を利かせドレスコードを教えてくれた。
この間パーティ用に買った服だ。
修は優しいうえに出来がいい。
その後、弟と近況をかるく報告しあって電話きる。
いままでストレスと思っていたものが贅沢な悩みな気がしてきた。
最初のころは前世でもここでも家族とうまくいかないと嘆いていたけれど
いまは弟の修がとても親切だ。
二つ下の彼に頼りっぱなしというのも中味アラサーとして情けないものが
あるので頑張って心配かけないようにしたい。
うっ・・・そういえばあたし警察に捕まるかも!?なのだっけ・・・。
*****
エレベーターを降りると高級感が溢れるフロア。
あたしは場違いな感じがして気おくれする。
すると母と話していた修がいつの間にか横に
きて耳打ちする。
「ナイフとかフォークとかどれ使っていいかわからなったり
食べ方がわからなかったりしたら、
僕の真似して」
心の中で合掌。弟尊い。
食事会は粛々と進んだ。
あたしはスリーテンポくらい遅れてひたすら弟の真似をした。
うーん、必死過ぎて味を堪能する何処ではないな。
今度ちゃんとマナーの勉強をしよう。
両親が話しかけてくるが返事がおざなりになる。
おかげで母の嫌味も気にならない。
最近悪さもしていないので
話題は自然と修に移った。
「今回の成績は2位だったような。修」
「父さん、2位だったのは国語だけ、後は一番だったよ」
と言いながら修がコーヒーカップを傾ける。
「修、すごい。やっぱり頭いいんだね」
今までおとなしくしていたけれどあたしは手放しでほめた。
彼が通っている中学は名門私立中学だ。
そこでトップとかどんだけ優秀なのだ。
父がおもむろに口を開いた。
「一科目でも2位のものがあったらそれは一番ではない。
考えてもみろ、瑕疵のある商品は販売できないし、クレームのもとになる。
ミスはおかすな」
父の言葉に耳を疑った。
修をみると悔しそうに唇をかんでいる。
嘘でしょ。
何この会話。
母の顔色が変わった。
日頃から修を猫可愛がりしているから、きっと怒るだろう。
「佳介さん、言葉がすぎるわ。修ちゃんは次では必ずトップを取るから大丈夫よ。
この子はとても優秀な子なんだから」
ん?待てよ。それフォローになってなくない。
しかも追い詰めてませんか。
「修すごいじゃない。なんで失敗したみたいになってるの?
すっごく頭のいい学校でトップなのよ。もうそれで十分じゃない」
というと母のるり子が鬼の形相になった。
「あなたはいままで放蕩三昧だったのにどの面下げて家族の問題に口をだしてくるの?
私がいままでどれだけあなたに恥をかかされてきたか」
母が声を荒げたので周りのテーブルから視線がとんだ。
年嵩のウィエイターが近寄ってくる。
「お客様なにかございましたか」
言外に大声で騒ぐなと言われているようだ。
父がとりなして、騒ぎが大きくなることはなかった。
その後落ち込み気味の修に話しかけたかたが、
母のるり子が離れない。
帰りに父が「これで帰りなさい」と
タクシー代に2万円をよこした。
「お父さん、あたしこんなにいらないから」
「いいから、とっておきなさい。今日はとってもいい子だったね。
この調子でいてくれたら、会社の人間にも会わせられるな。
今度ホームパーティをやるから来なさい」
あれ、ちょっと父が優しくなった。
みると相好を崩している。
というかすごく優しい、どうしたの?
でもパーティは勘弁してください。
あたし行きませんから。
結局電車で帰ることにした。
ちょっとタクシーは贅沢すぎるかな。
駅に降り立つとスマホが震えた。
表示されていたのは知らない番号。
でてみると沢渡さんだった。




