43 学園 屋上にて1
この踊り場の上が屋上階だ。
見上げると階段口にはなぜか使い古されたマットが積んである。
階段をのぼると壊れたハードルなど打ち捨てられていた。
何ここ、粗大ごみ置き場なの。
傾きはじめた陽の光をうけてきらきら埃が舞っている。
マスクしてくればよかった。
鍵かかっているはずの屋上への扉はあっさりとあいた。
普段から利用者がいるようだ。
鍵の管理どうなっているのよ。
やだなあ、何人もいたら。
だいたい何の用事なんだろう。
屋上は結構広く給水塔や階段口などの障害物もいくつかあり、全体を見渡せるわけではない。
あたしは高山君の姿を探した。
まだ来ていないかなと思ったころ、
西側のフェンス越しに見つけた。
襤褸いとはいえ、ちゃんとフェンスあるのね。
これで突き落とされる心配は多分ないはず。
後ろにあたしの気配を感じているだろう高山君は振り向かない。
仕方なく隣までいって声をかける。
「なんのよう?」
あっ、しまった。
ちょっと緊張していて思ったよりきつい声が出てしまう。
高山君がちょっとたじろいだ。
でもすぐに余裕の笑みを薄く浮かべた。
なんだか高校生とは思えない貫禄がある。
イケメンだからかしら。
「これ、俺がもってていいのかなって」
といってあたしの目の前に左腕の時計をかざす。
ずっしりとした感じの高そうな時計。
そういえば沢渡さんも同じような時計もってたな。
流行りのブランドなの?
「なんで高山君が時計つけるのにあたしの許可がいるの」
素朴な疑問。そんなことで呼び出したのなら怒るよ。
屋上ときいて内心かなりビビッていたのだから。
「じゃあ、ありがたく貰っとくよ」
うえっ、ヒナからのプレゼントだったのね。
あらためて高そう。
呆然とする。
「やっぱり返して欲しい?」
顔は笑っているが目が少しも笑ってない。
そんなダークな面を見せられてもこまる。
いつもの爽やかなイメージが木端微塵。
「そういわれても覚えてないから」
そうこたえると話が途切れた。
まあ、あたしがぶった切ったようなものだけれど。
沈黙に耐えきれず、そろそろお暇しようかなと思ったころ
「これ、俺の誕生日に貰ったんだ」
という。
誕生日ね。
あたしがヒナになる前の6月以前のこと
だから多分4月が5月ごろの話かな。
「ふーん」
どうでもいい。もう帰りたい。
ああ、高校生の分際でそんなたかい時計を
男子に貢ぐなんて・・・もったいない。
そのお金でいくら貯金できたのかしら。
それとも母の貴金属を売り払って手にしたお金で
かったのだろうか。
「・・・聞いてる?」
はっ、自分の世界入り込んでしまった。
話しかけられているのに気づかなかった。
「ああ、うん、何?」
「だから、俺の誕生日8月だって」
いや、あなたの誕生日はどうでもよいです。
イケメンだけど腹黒っぽいので興味なし。
しかも里沙の彼氏だ。
「それって、去年のプレゼントなのね」
仕方なく相手をする。
「今年の四月、五月だったかな」
あれ今誕生日は8月っていったよね。
「・・・どういうこと?」
「だから冗談で誕生日だっていったらくれたの」
「まじかっ」
心にと留めておこうと思った言葉が口をついてでた。
ヒナちゃん騙されたの?
信じられないくらい意外だけれどちょっとうぶなとこあるの?
それとも恋は盲目?
「俺に騙されたわけじゃないよね。
そこまで間抜けじゃないよな、ヒナは。
あれ、そういえば忘れちゃったんだっけ」
といって実に楽しそうに笑う。
黒いな高山。
「ミスコンの賄賂」
あたしに時計を見せびらかしながら言いう。
「昨日のアビスクィーンとかいうやつ?春にもあったのね。
でも、賄賂っていっても一人分の票貰ったって埒があかないんじゃないの」
高山君がおかしそうに笑う。
「ヒナ、ほんと馬鹿になったな。
倒れたとき頭でもうったか?
あれ、出来レースだよ」
「・・・」
「だから、お前、前回3位だったじゃん」
嘲りを含んだ声。
なるほど納得。
「それ、里沙、知らないでしょ」
彼女はあたしの票を得ようとしてわざわざ会場内を探しにきた。
あの時結構必死だったように思う。
別に里沙はいま友達ではないのだけれど
怒りがふつふつ湧いてきた。
高山君の笑いがやんだ。
「何がいいたい」
真顔で凄まれる。
やだ怖い。
「別に彼女なら教えてあげればいいのにと思っただけ」
「もう彼女じゃないし」
「別れたの?いつ?なんで・・・」
昨晩パーティでいちゃついてたじゃん。
「質問がおおいよ。ヒナ。
里沙と別れたのはあいつが今回のアビスクィーンじゃないから」
こいつサイコパスか。
不愉快だ。
「ん、わかった。で結局なんの用だったの。
それともこれで用事はおしまい?」
高山君の顔が怒りにゆがんだ。
ですよね。
ヒナのこと馬鹿にしてそうだし、あなたプライド高そうだし。
「気取ってんじゃねえよ。お前、賄賂贈ってまで1位にこだわったじゃないか。
なんでかわかるか」
どすの聞いた声。
ああ、完璧に地がでましたね。
「だから、覚えてないって」
何回言わせるのよ。あんた馬鹿あ。
彼は大きく舌打ちをした。ガラが悪いな、もう。
あたしは分からないというように肩をすくめた。
「俺の彼女になりたかったからだろ」
「?」
確かにヒナは彼女になりたがっていたようだが
優勝とどう関係してくるの。
話についていけなくて首を傾げた。
「優勝すると俺の彼女になれるってこと」
表情は怒りから意地の悪いものに変わっている。
ひとまず殴られなくてよかった。
というかこいつ殴っていいですか?




