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41 パーティー2

スタッフルームというから質素なものかとおもったら、

ふかふかの高級そうな絨毯が敷き詰められ、

暗めに間接照明がついていた。


雰囲気のある豪華な部屋だった。

だがあたしはあまり好きではない。

落ちつかない。


20畳ほどの部屋に大きな革張りのソファーとローテーブルがある。

壁際にインテリアのように熱帯魚の入った水槽が大小さまざま置いてある。


高山君は小さい水槽まであたしを導いた。


「ヒナ、ちょっとみてて」


そういうと悪戯っぽい笑みを浮かべ、さっきあたしから取り上げた。

ブルーハワイを水槽に注ぎ入れた。


「ああ、ちょっとなにしてるの」


その行動に驚いて止めようとすると

手で制された。

訳も分からずみていると魚が次々に腹をみせて浮かび上がった。


「・・・これ、魚が酔っぱらったわけじゃないよね」


我ながら間抜けな返し。


「ヒナはかわいいな。もう少しでお前もこの魚みたいになってたのに」


呆れたような馬鹿にしたような言い方をする。


「それ、毒なの」


声が震える。


「魚にはそうらしいね。ここでは人から渡されたものは飲んじゃ駄目だよ」


くすくすと高山くんがわらう。

学校でみるのと違い翳りがある。


「まあ、気持ちよくなる薬が入っているから癖になるかもね」


あたしはこのパーティに来た自分の浅はかさを呪った。

思っていたよりずっと危ない。


「あのあたし・・」


高山君から距離をとった。

パーティメンバーやクループ構成なんてどうでもいい。

誰かリーダが見極めてやろうかと思ったけれど、今回は無理そうだ。

いや、あたしには無理なのかも。

とっとと逃げ出そう。



「かえるんでしょ。出口までおくるよ」


あたしはかぶりを振った。


「出口まで結構遠いよ」


といって柔らかく笑う。

でも目はなんの表情もうつしていない。


「大丈夫。なんとなく覚えてるから」


というとあたしはぎこちなく微笑んでドアに手をかけた。


「誰にでくわすかわからないよ。

一人の方があぶないんじゃない。

ヒナが俺といるのが嫌なら好きにすればいい」


今度はちょっと突き放すようにいう。

確かにひとりは危ないかも。

悔しいけれど

あたしは自分の身すら守れないようだ。


「高山君、送ってくれる?」




ダンスフロアを彼の影に隠れるように歩いた。

さっきより人は増えてごみごみしていて歩きにくい。

会場は明らかにキャパオーバーだ。



「ねえ、ヒナ、あいつ知ってるだろう」


耳のもとで高山君が囁く。

ちょっと近くてドキッとした。

顔をあげてみると、その人物は


「え・・村田君なの?」


派手なスーツにジャラジャラと銀アクセサリーをつけている。

言われなければ誰だかわからないところだ。

暗くて判別しにくいが化粧もしている。


「そっ、あいつ優等生は上面だから」


高山君は笑いを含んだ声でそういった。

あたしは帰るのも忘れて呆然とした。

滝川君はこのこと知っているのかしら。

それに矢部も。


「ヒナ、記憶喪失ってほんとだったんだな」


高山君がまるで珍しい動物を観察するように

じっとみていた。

その冷たい瞳に肝が冷えた。

迫力におされてこっくりと頷く。


「止まってないでいくよ」


そういうとあたしの手をひいた。

まるでエスコートするように。

時々嫉妬交じりの女子からの視線を受ける。

誰にも目撃されずというのは無理みたい。

裏口のようなものはなかったのかな。


途中、日向先生も見かけた。

知らない男の人といちゃついていた。

すぐ斜め前にいるのだから

気が付いているであろう高山君はそれをスルー。


チカチカと明滅するライトと騒音のような音楽に酔いそうだ。

薄暗い会場は煙っている。

この煙は本当に煙草だけかしら。

そして以前あたしを連れ去ろうとした男子のうち

リーダー格の二人組と目が合った。

高山君と一緒なのをみると怯えたような表情を浮かべた。


それと出口付近に芦原。

高山君と一緒の私を見て驚きに目を見開いている。

ああ、そういえばさっきから手を引かれている。

照明の暗さも手伝って、手をつないでいるように見えるのかも。


危ないから、出口まで送ってもらったけれど

これって別の意味でやばいな。


「じゃ」

と一言。

会場の外まであたしを連れ出すと

振り向きもせず高山君はさっていった。


なんだったんだろう。

庇ってくれたにしては冷たいし。

親切でしてくれたわけではないよね、たぶん。

体よく会場を追っ払われたのかな。

これって借りになるのかな。

考えるのは後にして私は足早に駅に急ぐことにした。


すると後ろから、ヒールでかけてくる足音がする。

やだな誰だろう。

私は慣れないヒールで歩調を早める。


「ちょい待ちヒナ」


その声に振り返ると芦原がいた。


「あんたなにやってんの。パーティー堪能するんじゃなかったの」


かなり楽しみしていたのにどうしたのだろう。


「はあ。何言ってるかな。あたし、あんたのおまけで入れてもらったのに。

一人で残れっていうの」


芦原のその言葉にちょっと自己嫌悪。


「ごめん、パー券1万円もしたのに」


「ヒナがそんなこと言うと思わなかった。昔は男子に金やブランド品

バラまいたりしていたのに」


芦原は嫌味というより心底驚いている口調でいう。


「まあ、いいよ。地下アイドルのオシメンに貢いだと思えば。

バイトでまた稼ぐし」


といって私と並んで歩き始めた。

あれ、そんなに嫌な子じゃない。


「芦原、地下アイドル好きなの?」


「あたし、追っかけやってんの」


知らなかった。


「なんかさ。あの会場はいったら、あたし醒めちゃって。

高山とか里沙とかかっこいいなんて思ってたけど。

やっぱ、あたしとは住む世界が違うっていうか」


とポツリという。


「別に住む世界が違うってことないんじゃないの。

うまく言えないけど、あっちが上ってことじゃないと思う」


むしろ彼らと住む世界が一緒ってやばい気がする。


「でもさ。ヒナはなんか高山といい雰囲気だったじゃない。

なんで帰ることにしたのかしらないけど」


そんな風に見えたのか。


「いやいや、そういうんじゃなくて、音楽とライトで方向感覚くるっちゃって

出口まで送ってもらっただけだよ」


嘘をついている自分がちょっと疚しい。

結局、芦原に利用されたようで、実はあたしが芦原を利用した気がする。

だけれど芦原って里沙のスパイなんだよね。

今一つ信じきれない。


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終電のその後で……」ぜひ、こちらも!!
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